ノーコードからプロコードまで対応できる、ローコード開発プラットフォーム「FileMaker Pro」の特長
社会環境が目まぐるしく変化する昨今、組織を変革し成長させるため、内部の潜在力を引き出しイノベーションを生み出す観点から、ITシステムの内製化が進んでいる。そこで注目を集めているのがローコード開発プラットフォームだ。Apple Inc.の子会社であるClarisが提供する「FileMaker Pro」もその1つだ。
FileMaker Proは、ノーコードからローコード、プロコードまでの機能を備えた開発ツールである。FileMakerの歴史は前回でも紹介したとおりだが、最初のバージョン「FileMaker v1.0」がリリースされたのは1985年4月。その後5年間の変遷を経て90年10月、「FileMaker Pro 1.0v1」と改称してリリース。2020年5月に最新バージョン「FileMaker 19」がリリースされ、現在2021年6月にFileMaker 19.3がリリースされている。
FileMaker Proの特長は、プログラミングの経験がなくてもノーコード・ローコードでカスタムAppを作成できるだけでなく、プロの開発者にも支持されていること。その理由は、非エンジニアから、プロの開発者まで幅広いスキルの人が利用できる対応範囲の広さである。カスタムAppのレイアウトはドラッグ&ドロップ操作で作成可能。作成したカスタムAppはMacやWindows上ならFileMaker Proで実行できるほか、スマートフォンやタブレット、Webからアクセスできるようサーバにアップロードして共有したり、用途に合わせたレポートや帳票をすぐに作成、印刷したりこともできるようになっている。
また、FileMaker以外のRPAやIoT関連のソリューションをはじめとした外部のシステム、サービスと組み合わせて使うことも増えている。例えば、クラウドに蓄積された温湿度センサのデータをFileMakerに取り込んで管理するような使い方だ。さらにユニークな使い方としては、FileMakerをビッグデータ解析のミドルウェアとして使用するユーザーもいる。
都内の病院では、院内PHSの電波位置情報を収集して解析し医療安全に役立てるという仕組みを、FileMaker Proクライアントを仮想環境に複数台並べることで実現。1つひとつのFileMaker Proはデータを集約、集計してサーバに送るという、いわばロボット的な役割を担わせる使い方である。一般的にビッグデータを利用するには、大規模な投資が必要になるというイメージを抱いている人が多い。だが、FileMaker Proにはインストール台数に制限を設けない同時接続ライセンスが用意されているため、大規模な初期投資をすることなく仮想クライアントで、ビッグデータのシステムを作ることも可能だ。
セキュリティ面でも安心
FileMakerの強みは、これだけではない。セキュリティ面での安全性の高さも強みである。FileMakerはデータベースファイル自体を暗号化できるのはもちろん、FileMaker内に保存されたデータの暗号化のほか、FileMaker Serverを利用することでクライアントとサーバ間の通信の暗号化もできるようになっている。これらの暗号化のレベルは米国政府基準を採用。また、中央省庁や地方自治体・医療施設でも利用の多いFileMakerは、厚生労働省・総務省・経済産業省による医療機関向けクラウドサービス利用検討ガイドライン(三省ガイドライン)に準拠できる設定となっている。
開発面での強みとしては、処理のためのスクリプトをコーディングすることなく、あらかじめ部品化された機能を選んで組み合わせていくだけで実装できること。スクリプトは、やりたいことを日本語でタイプすると、候補のスクリプトが一覧として表示される。日本語でコードが書けるというのもFileMaker Proの強みと言える。そのため開発の高速化が図られるだけではなく、スペルミスやタイプミスがなくなるため、バグも出にくくなる。また、FileMaker Proでスクリプトを作成してボタンに割り当てるという使い方をした場合でも、スクリプトデバッガを使うことで、1行単位で実行を確認でき、効率的に素早くバグの少ないアプリケーションが作れるようになっている。
さらに、クラウド型の同様のサービスと比較して、FileMaker Proは検索のレスポンスの速さにも強みがある。例えば顧客ファイルの中から、「岐阜県、40代、男性」という条件で検索を実行したとする。FileMaker Serverから結果がFileMaker Proに送られ、ユーザーはその結果を次々と見ていくことになるが、その裏側では次にユーザーが見るであろうデータを25件ずつメモリにキャッシュする仕組みになっている。そのキャッシュしたデータは再利用されるため、次に検索をかけた際にレコードに更新がなければローカルのデータが利用される。このような仕組みを採用しているため、他のクラウドサービスと比較して、検索が早くなる。
だが、このテクノロジーが生かされるのは、高速なインターネット回線が使えるケース。新興国など、高速なインターネット回線の普及が遅れている地域では、この技術を使ってしまうと必要以上にパケットが流れてしまい、ネットワークが逼迫してしまう。その場合はFileMaker Proではなく、WebブラウザからアクセスできるFileMaker WebDirectを使うことで解消できる。このようにFileMakerプラットフォームを採用すれば、情報システム部門や開発者がインフラ事情に合わせて、カスタムAppを開発し展開できる。
最新バージョンは? 新たに追加された機能を紹介
昨年5月にリリースされた最新バージョンでは、追加された機能によりFileMaker Proの強みがさらに加わった。第1にJavaScriptによるカスタムAppの強化である。これまでもFileMakerが用意している標準機能ではできない表現や機能を、JavaScriptで作成し、それをFileMakerのカスタムAppに組み込むことが行われていたが、開発に時間がかかるという問題があった。それが最新バージョンではよりやりやすくなった。「時間をかけずにユーザーフレンドリーなUIを完成できるとプロの開発者から、大きな評価を得ている」とClarisの担当者は話す。
第2にドラッグ&ドロップのアドオンの作成と活用が容易になったこと。プロコードが書けない人でも、アドオンをドラッグ&ドロップして組み合わせることで、JavaScriptで構成された、より高度なカスタムAppが容易に作成できるようになった。初心者に優しい機能が提供されたことだけではなく、FileMakerの開発者からは、アドオンやテンプレートを販売するという新しいビジネスへの期待が高まっている。
第3にSiriショートカット活用で、よりスマートなカスタムAppが作成できるようになったこと。カスタムAppにSiriショートカットを追加すると、音声コマンドを使用して在庫の更新や各種プロセス開始のためのスクリプトが実行できるようになる。
第4にAppleが提供している機械学習フレームワーク「Core ML」の学習モデルを、利用できるようになったこと。これにより、画像認識による分類や感情分析、データに基づいたなど機械学習を利用した機能を簡単にカスタムAppに組み込むことができるようになった。
そして第5にNFCタグの読み取りが利用できること。iOS13以降のiPhoneでは、NFCタグリーダーをサポートしている。この機能を利用すれば、例えば社員証をiPhoneで読み取ると、FileMakerのカスタムAppからその社員の情報が検索できるといった、新しいワークフローを容易に作成できる。
コロナ禍以降、非接触の仕組みが実現することから、NFCやQRコードの読み取り機能に注目が集まっている。実際、大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)では、iPadを活用して社員番号をカードリーダーで読み、乗務員のアルコール濃度を検出し、数値を入力するカスタムAppをFileMakerで運用。社員番号を自動読み出しすることで、手入力していた従来の仕組みに比べ、6000秒近いチェックインの短縮が実現したという。
ユーザーと開発パートナーの二人三脚によるアジャイル開発が基本
ローコードで開発できるFileMakerだが、実際の現場では、ユーザーと開発パートナーの二人三脚でカスタムAppの開発が行われることも多い。また、FileMaker Proは一部ノーコードでも開発できるとはいえ、専門知識を持たない人がFileMakerを1から学習して本格的な業務システムを作るのはやはり時間がかかる上、万が一設定が不十分なまま本番運用を開始してしまうと十分なセキュリティが担保されない場合もある。
基幹システムや外部システムとの連携などセキュリティを考慮しなければならない部分は開発パートナーに任せるなど、適宜役割分担をして作っていくのがおすすめだ。先に紹介したOsaka Metroだけではない。日本航空、日本原燃、日本郵船などでも、パートナーとClaris認定パートナーと二人三脚でカスタムAppを開発した。
開発パートナーにすべて開発を委託する場合でもFileMaker ProでのカスタムApp開発は非常に効率的にできるので、ユーザーとのアジャイル開発が基本になるFileMakerプラットフォームを開発基盤として指定して開発を依頼する事例も多い。ユーザーと実際に動く画面をもとに設計して1〜2週間おきに動作テストを繰り返し、レビューを重ねて動作テストを繰り返しシステムが完成していくため、現場のユーザー満足度は高く数百ページにもおよぶ細かい仕様書や操作マニュアルの作成と確認に双方が費やす時間もなくなるからだ。
例えば日本COVID-19対策組織「ECMOnet」が運用する横断的ICU情報探索システム CRISISは、着想からたった3時間でプロトタイプが完成した。そのプロトタイプをもとにドクターからのフィードバックを得て、1週間で稼働にこぎ着けた。現在、稼働しているECMO管理アプリケーションは現場からのフィードバックにより大きく改善され、より使い勝手の良いレイアウトで運用されている。このようなアジャイル的な開発・運用ができるのも、FileMakerプラットフォームならではの良さである。
今後はノーコード領域の機能強化に注力
今後、FileMaker Proは開発スキルを有していない人でも、より簡単にカスタムAppの作成ができるようにノーコード領域の機能強化を図っていくという。すでにその兆しは見えており、現在はお試し版として提供されている、「クイックスタートエクスペリエンス」はその代表例だ。
「クイックスタートエクスペリエンス」はFileMakerや開発に関する知識のない人でも、より直感的に操作できるような仕組みになっている。簡単に始められる分できることは限られているとはいえ、この機能を使えば初心者でもその後ろ側で動くスクリプトやテーブル間のリレーションシップを意識することなく、容易に画面が作れるようになっている。初心者の場合はまずこの機能で開発知識を身につけると良いだろう。実際にいくつかノーコードで作成していくと、「こんな機能が欲しい」「こんな画面にしたい」というニーズが出てくる。その際にノーコードでできないのであれば、FileMaker Proのフル機能、つまりローコード開発にステップアップすれば良い。そうすることで、よりアプリケーションを洗練させていくことができるのだ。
FileMaker Proを個人で利用する場合のシングルユーザライセンスは5万7600円(税別)だが、「試しに使ってみたい」という場合は45日間試せる無料評価版や、年間9000円(税別)、テスト目的で利用可能なFileMaker Developer Subscription(FDS)を使ってみるのがおすすめだ。商用利用はできないが、個人でじっくりFileMakerを試してみるのにはぴったりのプランだろう。オンラインで申し込めばすぐに使い始めることができる。
世の中にはFileMakerのほかにも、ローコード開発ツールはたくさんある。重視すべきポイントは、価格だけではなくプラットフォームのスペック。例えば価格が安いからといって導入しても、やりたいことに限界があれば、また異なるツールを導入することになるからだ。だがノーコードからプロコードまで幅広いスキルレベルに対応できるFileMakerなら、限界を感じることはなさそうだ。
FileMakerを導入すれば、カスタムAppの作成にかかっていた時間が削減し、その時間を新しいサービスや製品を生み出す原動力にできる。ぜひ、そのような開発環境を実現してみてはどうだろうか。
FileMakerの情報はこちら
FDSというのは、年間9,900円のサブスクリプションで以下のように開発者向けのさまざまな特典がついています。(詳細は上記からリンクをご参照ください)
- FileMaker デベロッパ サブスクリプション ライセンス(テスト目的用)
- 発売前のソフトウェアを先駆けて入手
- iOS App SDK(ソフトウェア開発キット)
- FileMaker data migration tool
- Claris FileMaker Custom App Upgrade Tool
Clarisコミュニティは、誰でも無料で参加できるオンラインコミュニティで質問するとプロの開発者が答えてくれます。