「このままでは絶対にまとめられない」 CDOとしてまず変えたこと
――CDOとして、まず取り組んだことは何ですか?
最初に行ったことはお互いの景色交換をするための1on1なのですが、振り返ると上手くいっていなかったように感じます。実はその時期に、大きなマネジメントの失敗をしました。その失敗をとおして学んだことは、「今のマネジメントスキルの延長では絶対に組織はまとめられない」ということでした。
このままだとさらに大きなトラブルが起こしかねない。そう思い、なにか違う武器を手に入れるべく、すぐにコーチング型マネジメントと呼ばれる技術を学びにいきました。まずは自分自身を変えることが先だったんです。
実際に学んでみて、世界には多様な価値観をもった人で溢れているんだという当たり前のことを理解していなかったこと。そして僕は、人の話を聞いたつもりでいたことに気づきました。どこかモノとヒトの関係でみていた部分があったんでしょうね。だからマネジメントで失敗していたんだなと認識したので、まずは自分の見えかた・捉えかたを変えるところから始めました。
――組織の面では、なにから着手しましたか?
SPEEDA事業部のときは、僕が採用し、一緒に仕事をしてきたメンバーだったので、組織の階層が上がっても変更はなかったのです。しかし、SPEEDA、FORCAS、INITIALのデザイナーが合体したあとは、デザイン組織としてやるべきことがたくさんありました。
まず実施したのは、組織を結束させるために複数の横断型協働プロジェクトをスタートさせることです。
組織をまとめる取り組みとして、朝会や飲み会、レクレーションを行うことも多いと思うのですが、これらはあくまで援護射撃。個人としては朝会も飲み会も大好きなのですが、それだけで組織に一体感をだすことは困難です。主軸となるのは、協働目標を達成するためのプロジェクト 。ひとりの力では解決できないけれど、全員の力を合わせれば解決できるといった課題に取り組むことで、ひとは団結していきます。もちろん、それにプラスして朝会などのレクリエーションを取り入れるのはとても効果的です。
具体的に協働プロジェクトとして行ったのは、評価システムの見直しとデザイン組織のビジョン策定です。
評価システムは、いちばん手を入れる必要がある分野で、全員が納得感を得られる評価制度にするかというのは大きな課題でした。
ふたつめのデザイン組織のビジョン策定に関しては、少し心配をしていました。ユーザベース全体で掲げているミッションやThe 7 Valuesなどがあるなかで、デザイン組織独自のビジョンを定めると、矛盾が起きてしまうと思っていたからです。ただ、ビジョン策定がとても力を発揮することは理解していたので、デザイン組織のメンバーでワークショップを実施。結果的に矛盾も起きませんでした。
デザインの価値証明のために、CDOが声をあげるより大切なこと
――CDOになる前と後で、明確に変わったことはありますか?
デザイン組織の未来の姿を常に描けているかどうか、という意識をもつようになったことです。
執行役員になって1ヵ月ほど経ったころに、未来の構想をピッチする機会があったのですが、そこでデザイン組織の価値を証明するために、その未来を描く責任があるんだと気づきました。デザイン組織のメンバーが数年後にどんな姿でありたいか、いま注目を浴びているUXリサーチをどのようにプロダクト開発に取り込むか、デザインシステムで再現性を高め、どうやってアセット化していくか――。そういったあらゆる取り組みについて考えることが、今のユーザベースにおけるSaaS事業のCDOとしてやらなければいけないことなのだと認識しました。
現在だと来年2022年にやりたいことを描く必要がありますし、逆にいうと僕が仕事を作らなければいけません。そのために必要な予算を獲得することができれば、そこに新しい仕事が生まれる。そしてそれが、メンバーの成長パスにつながるんです。
そのひとつとして今考えているのは、SaaSのデザインカンファレンスの主催です。純粋に楽しそうという想いもありますが(笑)、イベントを開催するとそのためのキャスティングが必要ですし、ウェブサイトはどういう内容にするのか、ポスターのグラフィックはどうするのかといった仕事が生まれますよね。もしそういったチャレンジをしてみたいと思うメンバーがいれば、最高の舞台になります。
また、SPEEDA、INITIAL、FORCASの全チームでBXデザイナーとUIデザイナーが協力してデザインシステムの構築にも着手しています。この挑戦は、いかにデザインを資産として残すかということ。デザインシステムは資産としても示しやすいですし、間違いなく開発スピードも上がります。
CDOとしてデザイン組織の未来を描き続け、デザインの力を会社に伝えていくこと。そしてデザインの理解者を増やしていくこと。後者については、少しずつ嬉しい結果も出てきました。
入社当初、急務だったSPEEDAのマーケティングに関するデザインを担当していました。僕が加わったことでマーケティングやブランドに関する制作物が変わり、数値の成果としても示すことができた。また、SPEEDAの展示会でも「ブースデザインがかっこいいので来ました」という声もいただきました。定量と定性の両方で、デザインには良いことを起こす力があると感じてもらえたんです。
当時のマーケティングの責任者が、今はSPEEDAのプロダクトマネージャーをつとめているので、UIデザインにも積極的に投資していこうと呼び掛けてくれています。これらは成果物としてのデザインに、価値を感じてもらったケースです。
別のケースでは、当時カスタマーサクセスのチームリーダーと壁打ちを行っていました。彼女の中に答えがあることがほとんどでしたが、僕が話を聞きながらホワイトボードに図解したりしていると、話が整理できたと喜んでもらいました。また、開発会議で不採用となった機能をサービスとして届けるべく、ワークショップのプログラムから一緒につくったり。そういった関わりを通じて、いわゆる造形美ではなく、デザイナーが情報を整理したり、見える化したり、プロトタイプで考えたりする力を持っていることを実感してくれたんです。
のちに彼女はSPEEDAのカスタマーサクセスの責任者になりましたが、いまでもデザインやデザイナーのことを大切に思ってくれていますし、なにか困ったことがあったときはデザイナーに相談すると良いことが起きると理解しています。
CDOである僕がいくら「SPEEDAにデザインの価値を!」と叫んだところで、変わることはないと考えています。だからこそデザイナー全員が、目の前の仕事でデザインの力を示し、少しずつデザインの理解者を増やすことを大切にしています。