「全社員AI人財化」に向けて取り組んでいること
続いて、CDO(Chief Data Officer)を務める谷口 博基氏が登場。谷口氏はまずAIテックカンパニーを実現する上で欠かせない「全社員AI人財化」について語り始めた。「AI人財」と言うと、データサイエンティストのことだけを指すと考える人が多いかもしれない。ヤフーでは「AI人財」には「Type 1」「Type 2」「Type 3」の3種類があるという。
イメージしやすいよう、谷口氏は、Type 1、Type 2、Type 3をAIではなくWeb技術に例えて説明してみせた。Type 1は、Webの世界ではHTMLを書く人であり、HTMLの規格を作る人。Webが広がり始めた頃には、HTMLの技術を理解して自分でHTMLを書かないと情報発信ができないというような時代があった。現在のAIで言えば、データサイエンティストがさまざまなアルゴリズムを駆使してAIを開発している。
Type 2は、Webの世界ではHTMLが分からなくてもWebサイトが作れるような、ツールやサービスを作る人。古くはホームページビルダー、最近で言うと誰でもアプリが作れるヤプリなど、Webを身近な物にしてくれるツールやサービスが登場している。AIの世界でもそのようなツールやサービスを作る人が現れるということだ。
そしてType 3は、Type 2の人が作ったツールやサービスを活用する人。Webで言うと情報発信をしたり、お店を作ったりする層を指す。現代においてはType 2の人が作ったツールやサービスによって、Web人財ならすぐに実現できるというところまで来ている。AIでも、Type 2の人がツールやサービスを作り、それを活用する人も活用にあたって必要な知識をつけていくことで、あらゆる職種、あらゆる業種の人がAIを活用する人、つまりType 3のAI人財になれる可能性がある。
ヤフーは全社員AI人財化に向けた3つの施策を実行している。まずは全社員に対象とした「データ教育」。2つ目は「データアワード」。社内のデータ活用やAI活用の事例を発掘して、それを全社員に発信することを狙ったものだ。3つ目は「Kaggleチャレンジ」。米Kaggleが運営しているデータサイエンスのコンペティションに、ヤフーの従業員にも参加してもらい、優秀な成績を収めたデータサイエンティストを報奨する制度だ。
それぞれ2021年4月以降に始めた新たな施策だが、データ教育は10以上のコースが開始され、受講必須のものについては80%以上の社員がすでに受講しているそうだ。データアワードも、100件以上のエントリーがあった。その中から約10件、入賞作品を決めてすでに全社員に発信している。Kaggleチャレンジも、すでに10名以上の従業員が報奨を受けているという。
ヤフーの従業員全体を見ると、いまのところAI人財でないレイヤーに人財のピークがあると考えているそうだが、これらの施策を実行することで、このピークをType 3以上に移行させることを目指している(下図参照)。
ヤフー社外とのデータ連携も目指す
谷口氏は最後に、ヤフーが考えるデータ活用の未来と、それに向けた道程について語り始めた。ヤフーではデータ活用を3段階で考えている。1段階目は、「Yahoo!ニュース」「ヤフオク!」など、個々のサービスの中に閉じてデータを使うこと。2段階目は、個別のサービスに閉じることなく、サービス間をデータが行き来して、ヤフー全体で活用すること。そして3段階目は、ヤフー社内にデータを閉じず、外部の企業、自治体、学術機関などとの間でデータの活用を進めることだ。
ただ、外部とデータを連携するということは、プライバシーがより大事になる。ここでヤフーが重視している視点が3つある。1つ目は法令遵守。2つ目は同意取得をしっかり行うこと、そして、同意してもらった内容をしっかり守るということ。そして、3つ目は生活者感覚。ユーザー感覚で、自然なことであるかという視点が大切だということ。法令を守っている、同意の内容を守っているから良いというわけでなく、ユーザーの理解をしっかりと得て、支持してもらえるような形でデータ活用を進めることが大切だと考えている。
そしてヤフーは、自社データを統計化したビッグデータを外部の企業や自治体などで活用できるサービスを2019年に開始したデータ・ソリューション事業ですでに展開している。3種類のサービスを提供し、1つ目は誰でもWebブラウザから活用できる分析ツールの「DS.INSIGHT」。ヤフーに蓄積されたデータを活用し、ユーザーの手で課題解決に向けた手を打てるサービスだ。2つ目はヤフーのデータサイエンティストがチームになって、ヤフーのビッグデータを分析することで、顧客企業の課題を解決する「DS.ANALYSIS」。3つ目は顧客のシステムやツールにAPIを通して直接ヤフーのビッグデータを供給する「DS.API」だ。
谷口氏はこのように、外部の企業、自治体、学術機関などにデータの価値を届け、データ活用を通して、日本全体を元気にしていきたいと決意を語り、藤門氏にバトンタッチした。
強く後押ししてくれる「あの人」
入れ替わりで現れたのは藤門氏。スライドには「未来は想像するものではなくて、創るもの」という言葉が映し出されている。この言葉はこれまでのYahoo! JAPAN Tech Conferenceでも発信しており、ヤフーのAI開発の背景にある思いだという。つまり、未来を予想するのではなく、未来はこうあるべきだと強く思って自らの手で作り上げてきた。
3年前には、ヤフーで機械学習やAIのために使用するコンピューティングパワーがどうしても足りないという事態に陥った。このときヤフーは、自社でスーパーコンピューター「kukai」を開発することで問題を乗り越えた。
2年前には、もの作りのモダン化、モダナイゼーションの話をしている。AIのモデルを作ったらサービスにいち早く適用したい、ユーザーに使ってもらって始めて価値になるのだからという思いから、いち早くものづくりができて、デプロイされる世界を作っていった。
とはいえ、「未来を創る」ことは大変難しく、厳しいものだ。ここで、グループのトップである孫正義氏が強く後押ししてくれたという。孫氏は、3年前のヤフーの全社員参加型ミーティングで「情報革命の最先端の波が十年に一回ぐらい必ずやってくる」「今一番大きな革命が来ている、それはAI革命」と従業員に発破をかけた。さらに、「生産性を問われるもののほとんどのテーマはAIがぶち抜いていく。AIはこれからのすべての産業を再定義する。だから俺はAIに投資するんだ」と熱っぽく語った。加えて孫氏は、ヤフーのエンジニアに「AI以外全部忘れろ、AIだけやっていけば大丈夫だ」と声をかけた。そのような背景もあり、いまのヤフーがある。
最後に、次回のYahoo! JAPAN Tech Conferenceは、経営統合したLINEと共催という形で、より充実した内容にしていく予定と告知し、初日のキーノートを終了した。
参考リンク
- Yahoo! JAPAN Tech Conferenceについて:「Yahoo! JAPAN Tech Conference 2022」
- 動画アーカイブ
- SlideShareアーカイブ