特定の課題・領域にフォーカスして開発リソースを投入
ただし、いくら解像度を高めていっても、顧客が挙げる要件にただ順番に応えていくだけでは、いつまでたっても「コアな課題」に行き着くことができず、結果的に「機能はてんこ盛りだがそのほとんどが現場で使われない」というシステムが出来上がってしまう。そうした事態を避け、顧客の満足度を向上させるとともに、対外的なアピール力を高めるためにも重要になってくるのが、先に挙げた2つ目のテーマ「特定の課題・領域にフォーカスして作り込み」だ。
「特定の課題・領域にフォーカスして開発リソースを集中させた方が課題をより深く理解でき、結果的に『深い』プロダクトが出来上がります。またリリースノートやプレスリリースなどで対外的に発表する場合も、特定の課題にフォーカスした機能リリースのほうがより訴求力が高くなります」(工藤氏)
例えば同社が2021年3月にリリースしたアンケート機能は、もともと開発の優先度はさほど高くなかった。しかし、とあるオンラインフィットネス企業へのヒアリングの結果から非常に高いニーズがあることがわかり、急きょ優先度を上げて実装した。しかも単に会員の入退会時にその理由を尋ねるアンケート機能だけでなく、会員登録時、入会時、予約時、チェックイン時などさまざまなシーンでアンケートを取得可能にしたことで「会員とのコミュニケーションを密にするための機能」を実現し、高い顧客満足度につながったという。
その一方で「機能を個別に提供するだけでは顧客に十分な価値を提供できない」とも工藤氏は語る。
「ウェルネス業界だけを見渡してみても、システムに求められる要件は実に多種多様で、まだまだ私たちのサービスですべてを網羅することはできていません。一方、海外の業界特化型SaaSのトレンドに目を向けると、業界で求められる機能をワンストップですべて提供することをうたったサービスが伸びています」(工藤氏)
例えば、理容店向けに特化した米国のSaaSサービス「Squire」は、予約や顧客管理だけにとどまらず、スタッフ管理やマーケティング、売上管理といった店舗運営に必要な機能をすべて提供することでユーザー数を伸ばしている。工藤氏は「これからの業界特化型SaaSは、Squireのようにその業界で必要とされる機能をすべて取りそろえた『All-in-one SaaS』の流れに傾いていくと見ています。お客さまにとっては、機能ごとに個別のSaaSを使い分けるより、オールインワンの方が優れたユーザー体験を提供できますし、価格面でも高い競争力を持てると考えています」と今後の展望を語った。
ハードウェアも含めたIoTソリューションの開発も手掛ける
こうした「オールインワンサービス」の戦略の下、hacomonoでは現在Webサービスだけでなく、ハードウェアも含めたIoTソリューションの企画・開発にも取り組んでいる。同社初のIoTエンジニアとして2021年7月に入社した岩貞智氏の下でIoT開発チームを立ち上げ、これまでフィットネスクラブやジムなどの施設で利用できる「入退館システム」をはじめとするIoTソリューションの開発を進めてきた。
そもそも入退館システムの開発を手掛けるようになったきっかけは、とある顧客からのクレームだったという。
「hacomonoのシステムとサードパーティー製のスマートキー製品を組み合わせた入退館システムを導入したお客さまから『会員が店舗に入れない』『会員全員に入館のための操作説明を行わなければならず、hacomonoを入れた意味がない』とお叱りを受けました。当時私はまだ入社して1週間足らずだったのですが、早急に対応策を考える必要性に迫られました」(岩貞氏)
もともと導入していたサードパーティー製のスマートキー製品は、ドアロック装置とスマートフォンをBluetoothの無線通信で連携させることでドアを開錠する仕組みになっていた。しかしこれを利用するには、まずスマートフォンを取り出してアプリを起動し、Bluetoothのペアリングを行い、さらに開錠ボタンを押すといったように、多くの操作を行う必要があった。またその場で複数人が同時に開錠操作を行おうとすると、誰が開錠したのかわからなくなってしまうという問題もあった。
さらには、hacomonoのアプリ登録とスマートキーアプリの登録を別々に行わなくてはならず、ウェルネス業界に多い年配の会員にとってはそれだけで離脱につながる要因となっていた。そこでこれらの問題を解決するために、hacomonoのバーチャル会員証として発行するQRコードリーダーで解錠可能な「QR入退館システム」の開発を行う。その仕組みは次の通りだ。
施設を利用する会員には、スマートフォン上で発行可能なメンバー用のQRを表示する。会員が施設を利用する際は、そのQRコードを入口に設置されたQRコードリーダーに読み取らせることで開錠できる。至ってシンプルではあるが、スマートフォン上で発行可能であるため物理的にスタッフと接する必要がなく、入会から利用までスタッフレスで実現することが可能となる。この一連の仕組みを開発するために、QRコードリーダーデバイスと電気錠、そしてそれらを制御するRaspberry Piを手に入れ、さまざまな試行錯誤を繰り返した後、開発開始からわずか3カ月後には顧客先への導入と運用開始へとこぎ着けた。
コロナ禍において、フィットネス施設などの間で「スタッフレス化」「24時間営業」が広がる中、この自動開錠システムは大きな反響を呼び、現在開発の手が足りなくなるぐらい数多くの引き合いが来ているという。
「QR入退室システムの仕組み自体は極めてシンプルで、個々の技術要素も枯れたものしか利用していません。しかしお客さまの課題を高い解像度で理解することで新たなUXを提供し、高い価値を生み出すことができました。こうしたIoTソリューション以外にも、弊社では今後さらに多様な領域にチャレンジしていきたいと考えていますので、われこそはと思う方はぜひ弊社にジョインしてともに業界を変革していきましょう」(岩貞氏)
セミナーのご案内
3月23日(水)から5週連続で、hacomonoの「Think Bic.」を語りつくすオンラインイベントが開催されます。開発チームをはじめ各チームのキーマンが登壇し、これからのhacomonoについて熱く語ります。ぜひご参加ください。