開発体制の整備とエンジニアに求めるスキルセット
以下の図は、STCが現在構築を目指している、Piomatix(Pioneer Informatics Architecture:パイオニアの技術基盤)をベースとした次世代プラットフォームの全体像だ。IoTデバイスから吸い上げたデータをデータナレッジとして蓄積。行動提案や配送、ナビ、AIなど各種の機能エンジンで処理し、APIからB2CやB2B2C、B2BにSaaSとして利用できるようにするというSaaSプロジェクト構想だ。
プロジェクトを推進するため、岩田氏はPiomatixなどの技術基盤を担当するプラットフォームチーム、SCMやUX、QAなどプロジェクト型チーム、これらチームと横断的に連携してSREやデータインテリジェンスなどを提供する職能横断型チームの、3つのチームタイプを定義。チームの役割を定義し、コミュニケーションパスを明確化した。そして、これらチームが持続的に成果を出せるよう、ハイパフォーマンスの状態に持って行くための「チームファースト思考」を取り入れ、文化的な成熟度や技術的な成熟度、人材の状況を見極めながら推進しているという。
開発プロセスについては、既存のプロセスで改善が必要なもの、まだ存在しないプロセスが何かなどを整理した。例えばプロダクト計画プロセスの場合は、既存のプロセスでは事業部がプロダクト計画を立ててから技術部門に開発見積もりを依頼して開発スタートという流れで、「仕様や見積もりの曖昧さが残る受発注的プロセスだった」と岩田氏は指摘。これを、最初にサービスロードマップを作成してから初期的な体験を設計するチームを組成し、その後に開発チームの規模や構成を検討するという流れを作った。
「事業部の垣根を越えた、ワンチーム開発体制にシフトすることを重視して取り組んだ」(岩田氏)
新規に導入した体験設計プロセスについては、新サービスを設計するプロセスとDevOpsを回すプロセスに分けて、それぞれの詳細を定義。要件定義と仕様の作成を同時に行う仕掛けを作った。
例えば新サービス設計では、ユーザーリテンションやベネフィットトラッキング、価値の分解(ユーザートラッキングで可視化されたユーザー操作からユーザーエクスペリエンスが理想の状態にあるかどうかを判定)、ユーザーストーリーを設計し、MVPを決定する流れを構築。DevOpsのプロセスでは、KPIやモニタリング数値に基づき、分析結果をまとめて、価値提案やアップデートを実施。各種設計をアップデートしてステークホルダーに分析結果をレポートという流れを回す仕組みを作った。
また、チェックリストと必要な作成物を定義し、次のプロセスへ移る前に確認できるようにした。チェックリストでは、例えば「ユーザーが使い続ける仕組みが要件に入っているか」というチェック項目に対して「フックモデル」のアプローチを定義し、その詳細を「説明」に記載。チームが同じ言葉とツールを使って会話できるようにしたという。
プロセスが定義できたところで、岩田氏はサービスに紐付くかたちで開発チームを組んだ。流れとしては、チームごとのインセプションデッキを作成し、PMやエンジニア、デザイナー、QAエンジニアなどとのキックオフを実施し、開発アプローチや各種ツールを選定する。
最後に岩田氏は、信頼できて仕事を任せられるエンジニアの条件を、これまでの経験から思いつく限り挙げた。
「まずは、モノやサービスを生み出すエンジニアリングが本当に好きであること。これは技術への好奇心や熱意の高さの源泉となり、スキルアップのスピードにも関わってくるように感じる。そうした土台を持ち、伝えるべき内容を正確に言語化し、チームと対話しながらプロジェクトを円滑に進めるコミュニケーション力、ビジネスモデルや背景を理解して設計できる要求エンジニアリング力、ユーザーニーズや機能要件などのUXを設計できる体験設計力、アーキテクチャやコンポーネントをコーディングする実装力を備えた 『自走力』のあるエンジニアが、互いを高め合える、一緒に働きたいと思える人材だ」(岩田氏)
パイオニアの公式noteでは、取り組みの最新情報を公開している。「開発組織の変革を考える方にとって、少しでも参考になれば幸い」と岩田氏は述べ、講演を終えた。