グローバルなチーム開発を成功に導くポイント──障害を「Happy」と捉える共通認識
国をまたいだ開発を成功させるためのポイントについても事例で紹介。テジュ氏のチームが開発しているのは日本のアドバイザー向けの会計システムで、フィリピンでは利用できないためユーザーはいない。ではどのようにしてフィリピンのメンバーがドメイン知識を身につけ、そのプロダクトがユーザーに与える影響について把握しているのか。
複数国にまたがる開発においては、「大前提としてコミュニケーションが確立されていることが重要になる」とテジュ氏は話す。幸いなことに開発の場面では、開発者同士は共通のコードで会話することができる。「コードを使った議論では、意見を共有しやすい」とテジュ氏。また意思疎通するためには、メンバー全員が協力し合う文化を醸成する必要もある。
そしてユーザーのことをよりよく知るためにテジュ氏のチームが実施しているのが、継続的なフィードバックプロセスである。「フィードバックプロセスには2種類ある」とテジュ氏。一つは「業務が改善された」「こんなに早く届けてくれてありがとう」などのポジティブなフィードバック。そしてもう一つが「この機能は追加できますか」「この機能は私たちのニーズに合っていない」「エラーメッセージが表示される」などのネガティブなフィードバックである。このようなフィードバックはユーザーがプロダクトに何を期待しているのかを理解するのに役立つという。
次に障害の原因について透明性を持つことも重要だという。「各エンジニアが直面している問題について、日頃からチーム内で共有しておくこと」とテジュ氏は指摘する。こうすることで他の人が同様の問題に直面したときに、スムーズに担当したエンジニアに話を聞くことができるからだ。freeeでは障害を「Happy」と呼んでおり、障害が起こっても前向きに明るく対処できるようにしているという。
多様性のあるチームをうまく運営するため、心理的安全性を育むことにも取り組んでいる。「これはすべてのチームで実践されるべきことです。心理的安全性が担保されることで、メンバー全員が自分の強み、弱みを安心して共有し、成長することができます」(テジュ氏)
グローバルチームでプロダクト開発するメリットとは
苦労はあるが、多様性のあるチームを作ることで得られる効果は複数ある。第一にプロダクトや日常の問題に対する革新的なアプローチが得られることだ。同じような考えを持つメンバーだけで構成されたチームでは、潜在的なバイアスがかかってしまうことがある。だが、異なる文化や人生経験を持った多様性のあるチームであれば、「潜在的なバイアスもなく、より良いゴールに向かって意見を出し合うことができる」とテジュ氏は言い切る。
第二により良い市場洞察ができること。仮に日本人だけのチームの場合、全員が日本人のマインドセットを持っているため、ターゲットユーザーは日本のみに限定されてしまうという。しかし複数の国のメンバーが共に働く事で、世界の市場がどうなっているのか、他国ではそのプロダクトに関する問題にどのように取り組もうとしているのかなどについても共有できるようになる。「インターネットで得られる知識と思われるかもしれませんが、その国の経験者と直接議論しならが学ぶことができるのは有意義なことです」(テジュ氏)
第三は優秀な人材が採用できること。freeeでは地域を限定することなくグローバル採用を実施している。「私のチームも多様かつ優秀なメンバーが集まっている。だからユーザーにとってより良いプロダクトが開発できていると思う」テジュ氏は最後にそうチームメンバーのことを話し、セッションを締めくくった。