キャリアの「掛け算」が生む新たな価値
「『ソフトウェアエンジニア * MBA』。セッションタイトルに含まれるアスタリスク(*)には、掛け算記号としてだけでなく、多様な意味を込めた」。河原田氏は冒頭、セッションタイトルに触れる。
河原田氏はSES企業の開発エンジニアとしてキャリアをスタートし、テストベンダーへ転職してQAエンジニアの道へ。その後はソフトウェア品質やアジャイル開発の経験を積み、現在は教育事業を手がける株式会社グロービスで、QAチームのユニットリードを務める。文系出身という異色の経歴を持ちながら、エンジニアリングと異分野の知識を融合させ、独自のキャリアを築いてきた人物だ。
そんな河原田氏が初めに触れるアスタリスク(*)の意味は、「乗算記号」。「ソフトウェアエンジニア×MBA」、つまり、エンジニアリングと経営視点を「掛け合わせる」という視点だ。
河原田氏は、Takramの代表である田川欣哉氏の著書『イノベーションスキルセット』を引用し、スキルやマインドセットが「ビジネス(B)」「テクノロジー(T)」「クリエイティビティ(C)」という三つの要素に分類できることを紹介。この三つを兼ね備えた「BTC型人材」が、異なる部門間の溝を埋め、新たな価値を生む存在になることを強調する。
一方で、河原田氏は「BTC型人材になるのは容易ではない」とも語る。その中で、エンジニアが現実的に目指せる方向性として、「ビジネスとテクノロジーの両方を理解する立ち位置」を提案した。
ビジネスとテクノロジーを橋渡しするスキルは、どのような価値を生むのか。河原田氏は、職場でよくあるシーンを例に挙げる。ビジネス側が「こういうプロダクトを作りたい」「こういう機能が必要だ」と依頼したものの、テクノロジー側が「なぜそれをやるのか」に納得感を持てないままプロジェクトが進み、その結果、思うような進捗が得られないような場面だ。
ごくありふれた課題だが、こんなときにも、ビジネスとテクノロジー双方に通じた人材がいれば、その背景や目的を適切に解釈し、チーム全体に共有することでスムーズな意思決定やプロジェクト推進が可能になる。「『この人がいると仕事が回りやすい』と思われる存在になれるのは、ビジネスとテクノロジーを掛け合わせたエンジニアの強みだ」と河原田氏は説く。
では、この「ビジネスを理解する力」をどのように身につければ良いのか?その方法のひとつが、まさしくタイトルにも含まれているMBA(経営学修士)なのだ。
