マネジメントへの挑戦と葛藤を乗り越えるまでの道のり
リファクタリングを通じて「人と働く楽しさ」を知った小田中氏に、次なる転機が訪れる。上司から「マネージャーをやってみないか」と声をかけられたのだ。
いわゆる“昇進”にあたる申し出だが、小田中氏にとっては悩ましかった。「チャレンジしたい気持ちはあったが、手を動かす仕事が好きだった自分には、それができなくなるのではという不安があった」ためだ。それでも、「とりあえずやってみたら」という友人の一言に背中を押され、オファーを受諾することに。
「やるからには徹底的にやろう」と覚悟を固めた小田中氏は、どのようなマネージャーを目指すべきかを模索。その結果、導き出した理想像は「サーバントリーダーシップ」[1]だった。「自分がメンバーだったときにマネージャーにやってほしかったこと、やってほしくなかったことを基準に動いた」。無駄を削減し、後回しにされていた改善を率先して行う姿勢は、現場から高く評価された。
[1] サーバントリーダーシップ:「リーダーが指揮を執る」スタイルとは異なり、「奉仕する姿勢」を重視するリーダーシップの形態。リーダー自身がチームメンバーを支え、個々の成長や成果を引き出すことで、全体の成功を目指すアプローチ。
しかしこのアプローチも、時間が経つにつれて思わぬ壁に直面する。「チームのパフォーマンスが上がっていない」というフィードバックを受けたのだ。当初は「メンバーからの評判が良いのに、なぜだ」と戸惑い、不満を抱えた小田中氏だったが、客観的に状況を分析すると、チームとしての成果が出ていないことは確かに認めざるを得なかった。「仕組みは作ったが、形にしてアウトプットを出せていない」という指摘は的を射ていたのだ。
フィードバックをきっかけに、小田中氏は「自分はマネージャーに向いていないのではないか」と悩み始める。その思考はキャリア全般にまで広がり、「プレイヤーに戻れるのか」「そもそもこの会社にいるべきなのか」と自問する日々が続いた。
思索を深める中で辿り着いたのが、自分の可能性を「自分自身がやりたいか」と「周囲が期待しているか」の2軸で整理するという考え方だ。

この2軸で整理した場合、とくに注目すべきは「自分はやりたくないが、周囲が期待している」領域だと小田中氏は語る。なぜなら、「そこには自分がまだ気づけていない可能性が隠されている」ためだ。
小田中氏にとって、マネージャーという役割はまさにその好例だった。「向いていないのでは」と悩んだ時期はあれど、「チームが生き生きと働き、わくわくしながら成果を出せる環境づくり」は今や、紛れもなく自身の「やりたいこと」へと変化した。
今、小田中氏が取り組むのは、過去に経験した「チームでの成功の喜び」を再現し、さらに実践として広げていくために必要なスキルを磨くことだ。具体的には、本を読み、勉強会やコミュニティに参加するなどして得られた知見を現場で実践。バリューストリームマッピングやモブプログラミングを導入し、改善を成果に結びつけた。「プロセスを活かしつつ成果を出せるようになると、それが自信に変わる。そして新しい挑戦をする勇気にもつながる」。そうした成功体験の積み重ねが、自信と実績の好循環を生み出した。
結果として、今では「マネジメントが大好きだ」と胸を張る小田中氏。たとえ「マネジメントは得意ですか?」と問われても、迷わず「Yes」と答えられるという。「自分はやりたくないが、周囲が期待している」領域に飛び込んだからこそ、“天職”と出会えたのだ。