「チャンスの女神には前髪しかない」コミュニティ参加がキャリア開拓を後押し
コミュニティへの参加とそこでの偶発的な出会いも、小田中氏のキャリアの可能性をさらに広げてくれた。
スクラムフェス新潟2022では、「『時間がない』症候群、その傾向と対策」というタイトルで登壇。スクラムの五つの価値基準である「確約、集中、公開、尊敬、勇気」をセッション中で印象的に織り込むなどした。参加者から感謝の声が寄せられたことで、「現場での学びとコミュニティの学びを循環させる、いいサイクルが回り始めた」と話す。

こうした活動がもたらした偶発的な出会いの一つが、技術書『一番やさしいアジャイル開発の教本』の執筆だ。共同執筆者である市谷聡啓氏、新井剛氏とコミュニティで交流するなかで、「アジャイル初心者や非エンジニアにも伝わる内容を」という想いを共有できたことから、執筆を決意したという。
さらに、現在所属する株式会社カケハシへの入社も、コミュニティでの縁がきっかけだった。飲み会で現CTOの湯前氏と会話していた際に、「実は就職活動中なんです」と話したことで、即座にカジュアル面談がスタート。最終的に入社へとつながったのだ。ちなみに、この湯前氏からは、初の挑戦である「DevOpsDays Antwerp 2024」(ベルギー)への登壇も後押しされたという。
「コミュニティでの出会いや応援が絡み合い、新しいステップへ進む機会を得た。運が良かっただけかもしれないが、チャンスの女神には前髪しかない。瞬間を逃さず掴む行動力が重要だ」。気乗りしない仕事でも挑戦し、期待に応えようと努力する。その積み重ねこそが、キャリアを形作る——これが、小田中氏の持論だ。
キャリア形成においては、インプットとアウトプットのバランスも鍵となる。小田中氏は「健全な公私混同」を掲げ、趣味のブログ執筆に没頭し始めたことで、スマホゲームやSNSに費やす時間が減ったことに触れる。「キャリアが私生活に健全な形で食い込んでくると、『楽しい』と感じる対象自体が変わり始める。そうした変化を自覚するようになったら、次なるチャンスを掴む準備ができている証拠だ」。

小田中氏は、キャリアに明確な目標を持っている人は少数派だとし、「迷うのは当たりまえ」と理解を示す。それでも重要なのは、「自分の熱意がどこから来るのか」を探ること。新しいものを作る人、コードの安定化を目指す人、ファシリテーションに興味を持つ人。多様な価値観の中で、自分が熱意を向けられる先を把握することが大切なのだ。「その人の心に火が灯った瞬間。その時に立ち会うのが、マネージャーとしての最高の瞬間だ」。
そのためには、まずは目の前に起きた事柄と向き合い、勇気をもって飛び込んで欲しい、と小田中氏は背中を押す。「何が自分にとって大事なのか、何が心に火を灯すのかを捉えてみる。心の赴くままにやりきってみる。そうやってとにかく数をこなし、その中に何かを見つけようとする人のところに、不思議とチャンスは舞い込んでくる」。失敗しても死ぬわけではない。恥ずかしい思いをするかもしれないし、やり直しが必要になるかもしれない。それでも、そこから得た学びにはかけがえのない価値があるはずだ。
「今やりたいことがなくても、それでいい。手を動かし続ければ、いずれやりたいことに出会える。その時まで、一緒に新しいことに挑戦し、知らない景色を見に行こう」。小田中氏はそう力強く呼びかけ、セッションを締めくくった。