長く続くCSR活動、シスコ ネットワーキング アカデミーが目指す世界
シスコシステムズ(以下、シスコ)は「すべての人にインクルーシブな未来を実現する」ことをパーパスに掲げている。これは同社がこれまで培ってきたネットワークの技術や人材を組み合わせることで、すべての人が平等に機会を享受し、社会や職場に参加できるような世界を目指すということだ。
このビジョンをとてもよく体現しているのが「シスコ ネットワーキング アカデミー(以下、ネットワーキング アカデミー)」という教育プログラム。シスコが世界中の政府組織、NPO、教育機関と提携し、学習管理プラットフォームや教育カリキュラムを提供している。
1997年から始まるシスコ最大のCSR活動であり、全世界での受講者数は累計で2400万人を超える。191カ国、27言語で実施し、日本では年間1万人を超える受講者がいる。
同社 執行役員 ソリューションズエンジニアリング 福田秀幸氏は「世界中で教育を受けられない方から就労を支援するためのスキルアップ、またインフラに対してもっと興味を持ってもらいたいというさまざまな思いから、無償でコンテンツを提供し、ネットワークやセキュリティの知識が当たり前のように使われ、価値を広めていくために設立されました」と話す。

これまで日本では、専門学校や高専、大学の授業の一部として活用されることが多かった。最近はデジタル化が進む自治体職員が活用するほか、IT業界に就職した若手社会人などによる個人での活用も広がり、誰でも気軽の無償で教育コンテンツを受講することができる。
ネットワーキング アカデミーではその名の通りネットワークから始まったアカデミーではあるものの、近年ではサイバーセキュリティの教育にも力を入れている。実際、2025年度のシスコジャパンの事業戦略発表会ではセキュリティ、AI、サステナビリティの3つを重点分野とし、「これからのAI時代においてあらゆるものを安心・安全につなぐ」ことをミッションとして表明していた。サイバーセキュリティのカリキュラムは事業戦略とも合致している。
コードを書くエンジニアがセキュリティを学ぶメリットとは
昨今ではランサムウェア攻撃が企業に大きなダメージを与え、その背後でクレデンシャル窃取やサプライチェーン攻撃などが問題となっている。どの分野のエンジニアにとってもセキュリティは無関係ではない。もちろんアプリケーション開発でコードを書いているエンジニアも例外ではない。
今では開発をオフラインで行うことは珍しく、開発で使う何らかのサービスが攻撃を受けて作業が中断したり、書きかけていたコードを消失してしまったりなんてことも起こりうる。プログラムで使うライブラリに、知らないうちに悪意のあるコードを埋め込まれていないかチェックすることも必要になる。
また、生成AIの活用も進んでいる。コードの入力支援、顧客サポートのチャットに生成AIを組み込むケースもよく見る。しかし、カスタマーサポートでチャットボットを組み込む際、悪意のある内容を学習させた結果、誤った情報を顧客に案内し訴訟に発展するようなリスクもある。
福田氏は「現在セキュリティ人材は非常に不足しています。需要に対して供給が追いついていないのが実情です。セキュリティがさまざまな場面で当たり前のように検討、実装されている今、個別の機能単位だけではなく、システム全体や、企業全体のポリシーやガバナンスをどうしていくか、コンサル領域としても活況をむかえています。特にコードを書くエンジニアがセキュリティを学ぶことには大きなメリットがあります」と語る。
さらに福田氏は、セキュリティの視点を持つことがエンジニアのキャリアパスを広げる可能性についても触れる。エンジニアが顧客のビジネス課題を解決するために、要望に応えてUI/UXを実現していくことは非常に重要なポイントであるが、コードの動作は顧客のサービスに直結しており、それを支えるネットワークや保護するセキュリティが不可欠である。今後は、システム全体、ネットワーク領域にまで視野を広げ、セキュリティを俯瞰的に見て実装に向けて推進していくことができれば、自身の付加価値を高めることができるだろう。
また近年では、生成AIの活用によりコーディングがある程度効率化されつつある中で、新たなスキルとしてセキュリティを身につけることは、エンジニアとしての大きな強みになるだろうと福田氏は強調する。
エンジニアの業務にセキュリティの知識を活かすほか、セキュリティの専門家を目指すキャリアもある。たとえば、メーカーやシステムインテグレーター、民間企業のセキュリティ部門、SOC(セキュリティオペレーションセンター)におけるセキュリティスペシャリストとして活躍することも可能だ。また、将来的には企業のセキュリティやガバナンスを考えるCISOの道もあるかもしれない。
無料で学べるオンライン講座を提供、資格取得対策にも
セキュリティの専門家ではないエンジニアがサイバーセキュリティを効率的に学ぶとしたら、ネットワーキング アカデミーはいい手段になるだろう。ネットワーキング アカデミーには無料で学べるコースが用意されている。
サイトを開いて登録すると、ネットワーキング、サイバーセキュリティ、AI&データサイエンス、プログラミング、IT、デジタルリテラシー、プロフェッショナルスキルズ、サステナビリティ、シスコパケットトレーサーの9つの分野のカリキュラムが用意されている。日本語対応済みは8コース、英語は60コース以上ある。
「サイバーセキュリティ入門」だと6時間のコースとなり、その先の初級だと「Endpoint Security」(27時間)、「Network Defense」(27時間)、「Cyber Threat Management」(16時間)、さらに中級や上級になると70時間ほどのコースが用意されている。上級になると攻撃側や防御側など、極めたい分野ごとにコースが構成されているのも特徴だ。

実際にオンラインのコースを学ぶ場合、例えば「サイバーセキュリティ入門」を開くと、最初に簡単なクイズで自分の知識をチェックしてからコースが始まるようになっている。動画が多く用意されており、全体の説明から始まり、解説を読み進めていくことになる。ただインプットするだけでなく、節目となるところで理解度をチェックするクイズが表示される。章の最後にもテストが用意されていて、学習の終わりにどれだけ身についたか確認が可能だ。
また受講の特典として「Packet Tracer」というシミュレーションツールを無料でダウンロードできる。これはコマンドを叩きながら、どこでエラーが起きているかを実際の機器を触っているような感覚で体験できる教材となっている。
コースは多言語対応しているため、英語、フランス語、スペイン語など日本語以外の言語で受講することもできる。コースの途中で言語を切り替えることも可能だ。受講生のなかには、語学学習も兼ねて受講している人もいる。いまセキュリティやITの現場では日本語以外の言語でコミュニケーションすることもあるため、ここで語学を学ぶというのもよい選択肢だ。
ネットワーキング アカデミーで学びながら、認定資格取得を目標にするのもいいだろう。シスコ認定資格にはCCNAやCCNP、あるいはDevNetが有名だが、2023年からエントリー向けのCCST(Cisco Certified Support Technician)が新設になった。CCSTにはネットワーキング、サイバーセキュリティ、IT Supportの3種類がある。ネットワーキング アカデミーには、CCSTの学習教材も公開されている。
冒頭でも述べたように、ネットワーキング アカデミーはすべての人に教育の機会を平等に提供することを掲げたシスコのCSR活動のひとつである。専門知識を身につけ、さらに高めることで、職業や地域貢献につなげることを狙いとしている。名古屋在住の福田氏は、自身の願いとして「自分が生まれた土地に誇りを持ち、より住みやすい環境にするための地域課題を解決するツールとして、ITをもっと活用してもらいたい。そのためにネットワーキング アカデミーをひとつのきっかけにしてもらい、そして人材を地産地消できるよう推進していきたい」と話す。
直近ではこれまでになく門戸を広げており、ネットワーキング アカデミーの受講者を5年で10万人達成を目標としている。最後に福田氏は「コードが書けて、セキュリティやネットワークインフラの知識、経験があれば、より多様なキャリアパスを開拓していけるでしょう」と力強く述べた。