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Developers Summit 2025 セッションレポート

20年以上データベースに携わるミック氏が語る! 新潮流を牽引するNewSQLとHTAPの可能性と課題

【13-D-1】データベースの新潮流 ~NewSQLとHTAPを中心に~

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NewSQLのユースケースと課題とは?

 続いてミック氏は、NewSQLに関連するビッグベンダーの動向について解説した。特に注目されたのが、2024年12月のAWS re:Inventで発表されたAmazon Aurora DSQL(以下DSQL)だ。マルチリージョン環境において99.999%(Five Nines)の可用性を実現することを目指している。

 AWSが高可用性を重視する背景には、ミッションクリティカルなシステムへの対応が大きいとミック氏は考える。「これまで日本国内でクラウド上で高可用性を確保できるRDBは限られており、99.999%のSLAを掲げるのはGoogle Cloud Spannerなど少数だった。AWSのDSQLは、これに対抗する動きとみることができるだろう」とミック氏は考察する。

 ただし、日本で使うことを考えた場合、DSQLには課題もある。マルチリージョン構成の採用時に第3リージョン(WITNESS)を利用する必要がある点だ。WITNESSはユーザーデータを永続的に保持せず、暗号化されたトランザクションログを一時的に保持する。これにより可用性を高められる仕組みではあるが、日本国内にはAWSのリージョンが2つしかなく、ソウルなど海外リージョンを利用する必要がある。ミック氏は「暗号化されているとはいえ、トランザクションログが国外に出ることで、コンプライアンスや法的な課題が生じる可能性がある」と指摘。日本国内でのDSQLの普及は、ここが大きな焦点になるとみられる。

 さらにOracleも、NewSQLの流れに乗りつつある。2024年に発表された最新バージョンOracle 23aiでは、分散合意アルゴリズムとしてRaftを採用。これにより、データ損失ゼロを目指しつつ高速な自動フェイルオーバーを実現し、可用性を大幅に向上させているという。一口にNewSQLといっても、スタートアップ企業はスケーラビリティを、ビッグベンダーは可用性に重点を置いている印象を受けるとミック氏は述べる。「これは各社が見ているターゲットユーザの違いを反映しているかもしれない。スタートアップ系はウェブサービスが主要顧客なのでスケーラビリティを重視し、ビッグベンダーはエンタープライズ向けに高可用性を重視する。もちろん最終的にはどちらの要件も満たせるのがNewSQLのポテンシャルの高さだ」。

 NewSQLの採用は世界的に拡大している。特にNetflixやDoorDash、Comcast、LinkdInといった巨大サービスが代表例だ。ミック氏は「ここ2~3年でアーリーアダプター層が増え、導入が加速している」と指摘した。

 具体例として、高負荷のリテールECにおける事例が挙げられた。アメリカのフードデリバリー企業DoorDashは、生鮮食品を15分以内に配送する「Dashmart」の展開に伴い、急激な注文増加に直面。これに対応するため、CockroachDBとApache Kafkaを組み合わせ、在庫情報をニアリアルタイムで処理する仕組みを導入したという。結果として120万QPSの処理性能を達成し、顧客満足度の向上につなげている。

DoorDashはNewSQLであるCockroachDBを導入して高い成果を上げた
DoorDashはNewSQLであるCockroachDBを導入して高い成果を上げた

 国内では、SBI、セブンイレブン、みんなの銀行、DMM.com、楽天といった企業が積極的にNewSQLを導入している。特にふくおかFGの「みんなの銀行」は、Google Cloud Spannerを採用し、東京と大阪のリージョンを使った「東阪両現用」構成を構築。99.999%の可用性を実現し、災害時にもサービスを継続できる体制を確立した点が高く評価されている。

みんなの銀行はアクセンチュアが構築を担当し、Google Cloud Spanner導入によって高い可用性を実現している
みんなの銀行はアクセンチュアが構築を担当し、Google Cloud Spanner導入によって高い可用性を実現している

 またデータベース統合のユースケースとして、レバテックの活用例も紹介。レバテックではAWS上に乱立していた50近くのデータベースをTiDBで統合し、運用負担の軽減やコスト効率改善を実現している。

 さらにDMM.comは、MySQLとNoSQLの混在環境による運用負担や障害リスクに対処するためにTiDBを採用。MySQL互換の利便性を活かしつつ、ゼロダウンタイムを目指した構成に切り替えた。

 ミック氏は、こうした管理効率化やコスト効率化を重視した日本のNewSQLの使い方を「意外なダークホース」と表現。「メガサービスの少ない日本では、管理コストの削減やリソース効率化が、ハイスケーラビリティ以上に重要視される傾向がある」と分析した。

 一方で、NewSQLには依然としていくつかの課題が存在するという。

 まず挙げられるのは、レスポンスタイムの悪化だ。分散環境でのノード間通信や合意形成のため、従来のRDBと比べるとネットワークオーバーヘッドが発生しやすい。ただし、多くの場合はミリ秒単位の遅延に収まるため、実用上の影響は限定的といえるだろう。

 次に指摘したのが、コストの高さだ。NewSQLはノード数を簡単に増やせる裏返しとして高コストになるケースがあり、同等のリソースで比較すると従来のRDBより割高になる場合もある。ただこの問題については、普及が進みスケールメリットが働くことで、コストが下がる可能性もあるという。

 最後に挙げられたのが、障害対応の難しさだ。分散ノードを多数利用するNewSQLでは、障害や遅延発生時の原因究明や復旧対応が難しい。デプロイ手順も複雑化しやすい。ただし、NewSQLの製品群はクラウド上でマネージドサービス化を進めており、それを利用することで、この問題も徐々に解消されつつあるという。

 「今後、技術の成熟やサービスの充実により、これらの課題は解決されていく可能性が高い」。ミック氏はこのように述べ、NewSQLのさらなる普及に期待を寄せた。

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リアルタイム分析を現実にするHTAPの進化

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この記事の著者

水無瀬 あずさ(ミナセ アズサ)

 現役エンジニア兼フリーランスライター。PHPで社内開発を行う傍ら、オウンドメディアコンテンツを執筆しています。得意ジャンルはIT・転職・教育。個人ゲーム開発に興味があり、最近になってUnity(C#)の勉強を始めました。おでんのコンニャクが主役のゲームを作るのが目標です。

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CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

CodeZineは、株式会社翔泳社が運営するソフトウェア開発者向けのWebメディアです。「デベロッパーの成長と課題解決に貢献するメディア」をコンセプトに、現場で役立つ最新情報を日々お届けします。

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山出 高士(ヤマデ タカシ)

雑誌や広告写真で活動。東京書籍刊「くらべるシリーズ」でも写真を担当。

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