クラウドネイティブ化までの道程——目的の明確化と3つの課題
セゾンテクノロジーは1993年に発売した「HULFT」のクラウドネイティブ化に取り組み、2024年に「HULFT10 for Container Services」としてリリースした。
なぜ、この開発に取り組んだのか。「クラウドネイティブ化したくて、クラウドネイティブ化する組織なんてない。クラウドネイティブ化はあくまでも手段で、その背景には何かしらの目的がある」。こう語るのは、長年、HULFTの開発に携わってきた伊藤氏だ。
クラウドネイティブ化する目的は千差万別だ。例えば「新技術や新サービスを柔軟に取り入れて連携し、システムをアップデートしたい」「インフラレベルの管理、運用、脆弱性対策、障害対応などをクラウドベンダーに任せて運用の負荷を減らしたい」「エンジニアが多い技術を採用することで人材確保を容易にしたい」……。いくつかのパターンがあるが、重要なのは「目的をはっきりさせておくこと」と伊藤氏は言い切る。なぜなら、目的に応じてクラウドネイティブ化の構成が異なるからだ。
例えば運用負荷を軽減することを目的とするなら、単一ベンダーで固めたサーバレスを主体に据える構成が考えられる。一方で、移行や人材確保の容易さを目的とするのなら、可能な限りオープンな技術を使用してベンダーロックをしないシステム構成にすることが良いかもしれない。
セゾンテクノロジーの場合、その背景にあったのは、HULFTがいろいろなプラットフォームと連携するという特性を持っていたこと。加えて、各プラットフォームの差を限りなく減らし、ファイルを扱うことができる同プロダクトの強みを活かすには、各クラウドベンダーで共通して扱えることを条件とする必要があった。「このようなことから今回、コンテナオーケストレーションをベースにしたクラウドネイティブ化を行うことにしました」(伊藤氏)
クラウドネイティブ化するにあたって立ちはだかったのは、技術的課題、組織的課題、契約的課題の3つだ。
1つ目の技術的課題とは、実現可能な技術なのか、どのような要素技術が必要なのか、あるいは身につけるためのコストや実現するためのコストなど。「技術的課題については、きちんと調査してタスクを分解してどのように対応、判断するかを、地道に繰り返していけば意外と立ち向かうことができます」(伊藤氏)
なぜなら、技術的課題についてはさまざまなエンジニアがナレッジを公開してくれているからだ。ただ、判断が難しいのが、ベストプラクティスに関する扱い。やった方がよいが、やらなくてもどうにかなるために悩まされた。
2つ目の組織的課題とは、組織構造や風土により発生する問題だ。具体的にはどういった組織構造を取るか、取り組むメンバーにはどういう意識が必要か、考えることである。組織構造については、「コンウェイの法則を知っておくと良い」と伊藤氏はアドバイスする。コンウェイの法則とは、組織が自らのコミュニケーション構造を真似た構造のシステムを作り出してしまうという法則である。一方で、開発部門だけではなく、運用、サポート、マーケティング、営業など関わるすべての人たちのコミュニケーションパスを、つくりたいシステムに合わせてデザインしておくのが逆コンウェイの法則だ。そうすることでシステムがコミュニケーションパスに引っ張られないように防御することができる。だが「実際にやろうとするといろんな問題が出てきました」と伊藤氏は言う。
3つ目の契約的課題とは、クラウドネイティブな製品を世の中にリリースするにあたって直面する問題である。「大きな問題が3つあった」と伊藤氏。
1つ目は前例がないこと。技術の話だとエンジニアが発信しているので情報が見つかるが、会社対会社の契約の話になると、情報がまったく流れてこない。
2つ目は法令に関すること。「HULFT10 for Container Services」のようなコンテナ製品はコンテナイメージとデプロイテンプレートのセットで構成されるが、AWS Marketplaceに出品すると、コンテナイメージは米国に配置され、輸出扱いになる。 そのための法律を知らないと出品する段階で手続きが止まったりすることがある。
3つ目は課金に関すること。AWS Marketplaceに出品した場合、売上はドル建てかつマーケットプレイスで管理されることになる。それを社内に連携しないといけないのだが、単純に売上を加算するだけでは、さまざまな問題が発生する。
「技術、組織、契約の課題をいかに解決したかについては菊池から説明したい」と伊藤氏は語り、菊池氏にバトンタッチした。次の章では、各課題の深堀りと、同社がどのようにベストプラクティスを選んだかについて解説する。

