分断を橋渡しするマネジメントの役割
こうして意図的な分断を生み出したときに、何が起きるのか。それは、部分最適と全体最適のコンフリクトである。もちろん、意図的に分断したからといって、コンフリクトを避けられるわけではない。
たとえば、事業のKGI/KPIを最大化したいチームが、「会員登録を必須にすると、せっかくアプリをダウンロードしてもらっても逃げられてしまう。だから会員登録は任意にしたい」と言ったとする。しかし、明治LTVを最大化したいという観点から見れば、「会員登録してもらわなければ横につなげることができず、アプリをダウンロードしてもらっても意味がない。会員登録は必須!」となる。
では、どうするのか。「話し合いで解決してください」と言えば、社内政治が生まれ、さらなる対立に発展して、コミュニケーションコストが増大することは避けられないだろう。
社内政治とは、自分の影響力を用いて、意思決定に作用しようとする営みである。影響力にはさまざまなものがあるが、たとえば売り上げや利益に貢献して予算をたくさん持っているとか、社長と仲が良いとか、社歴が長くて情報をたくさん持っているといったように、必ずしも組織図に載っているとは限らない。組織図に載っていないということは、そう簡単にはコントロールできないと考えたほうが良い。
そこで重要になるのがマネジメントチームの役割である。「分断されたチーム内では、自律的にボトムアップでサービスをグロースさせる一方で、全体最適を図るべきことはトップダウンで方針を明確にするべきだ」と木下氏は主張する。
そして木下氏は「部分最適はボトムアップ、全体最適はトップダウン」という方針を掲げ、このバランスをとるガバナンス設計を、会議体を通じてプロセスに落とし込んだ。

各サービスにおいて、すべての意思決定者が参加する「ステアリングコミッティ(意思決定会議)」を週次で開催。重要なことはすべてここで共有され、ここで共有されない限り公式な情報として扱わないと決めた。また、何か問題が発生したら、すべてここで話し合って意思決定を行うのだ。
「システムの周りには必ず人がいる。だからこそ、システム設計はITシステムだけでなく、人間の社会システムの設計もしなければならない。なぜなら人間は、放っておくと必ず分断して、政治が始まるからだ。対立によるコミュニケーションコストの増大を防ぎ、1つのゴールに向かって協調するには、マネジメントが橋渡し役となることが大切だ」と語り、木下氏はセッションを締め括った。