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生成AIを「よくあるチャットボット」で終わらせないために──セゾンテクノロジーに学ぶデータと業務の整理方法

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 生成AIは便利ではあるが、「それっぽい」回答で終わることもしばしば。それでこと足りるならいいが、高度な要件や業務システムに組み込もむ場合は大きな壁となるのが実情ではないだろうか。多くの企業が苦戦するこの壁を、歴史がありバイモーダル戦略を得意とするセゾンテクノロジーではどのように乗り越え、生成AIをどのように活用しているのか。2025年からCTOを務める高坂亮多氏が同社での取り組みの経緯やポイントを解説する。

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株式会社セゾンテクノロジー CTO 高坂亮多氏

生成AI活用を「よくあるチャットボット」で終わらせないために

 セゾンテクノロジー(旧社名:セゾン情報システムズ)は長い歴史を持つソフトウェアメーカーとSIerであると同時に、最先端のクラウドテクノロジーを駆使する企業でもある。特にデータの連携や活用が強みだ。同社が1993年から培っているファイル転送ツール「HULFT」をAWSでクラウド対応させたことなどで、2015年にAWS Leadership Awardを受賞したことがある。他にも企業、エンジニアともに数え切れないほどの受賞歴がある。

 レガシーとモダンのどちらにも秀でていて、橋渡しもできるのが大きな特徴だ。こうした特徴を体現しているのが、2025年から同社CTOに就任した高坂亮多氏だ。2007年に新卒入社し、プログラミング未経験から業務システムから携わり、パブリックラウドを活用したDX支援で多くの経験を積んできた。

 直近では生成AI活用に取り組んでいる。同社ではAI活用を3段階で考えていて、まずはAIで自分たちの業務を改革し、次にAIを自分たちの製品に組み込み、最終的にはAIのアプリケーションを顧客に提供する。自分たちで試して効果があるなら、顧客にも有効であろうと考え、このなかでサイクルを回していこうとしている。

 その手始めとして具体的な課題をリストアップすると多数出てきたものの、高坂氏は「よくあるチャットボットでは限界がある」と懸念していた。統計的に見てもAI活用プロジェクトの成功率はまだそう高くはない。「AIとユーザーが本当の意味で協働できるようなもの」を念頭に、各部門にヒアリングしながら取り組むべき課題を選定していった。

 生成AI活用となると壮大なものや最新鋭テクノロジーを駆使するような斬新なものを期待してしまいがちだが、今回は実在する課題を起点に模索した。例えば定型のExcelから別のExcelにデータを移したい場合、業務を知る人間が何らかの判断をしなくてはいけないためシステム化できずにいたものもあった。こうした「生成AIの活用以前」の自動化においては、まずは業務の流れを見直すところから始める必要がある。

 また生成AIに任せたほうがいい部分と、人間がやったほうがいい部分をきちんと見極めることも大事だ。同社ではプロジェクトの進捗管理に生成AIを活用することを試みたことがある。当初はプロジェクトの議事録をAIに読み込ませて「予定通り進んでいるか?」と質問してみると、「予定通り進行しているように見えますが、リスクもあります」といった当たり障りがないような回答しか返ってこない。それだと「間違いではないが、それでは足りない」といったもどかしさがある。生成AIをただ使うだけだと、いま一歩踏み込めず限界を感じてしまうところだ。

 そこで生成AIが着実にこなせる範囲でAIに仕事を割り振ることにした。例えば会議ごとに決めておかなくてはならないことを期日ごとに人間が定義しておく。つまり目標達成の基準を示したうえで、生成AIに議事録をチェックさせるようにすると、より的確な回答が返ってくるようになる。

 高坂氏は「例えばソフトウェア開発で単体テストの仕様書で質的な担保するか、テストのエビデンスで質的な担保するかというように、どこで質的な担保をしたうえで生成AIにチェックさせるかということを考えながら実装に落としていくのが生成AIならではのポイント」と話す。

「本当は何を解決するべきなのか」データと業務を整理する方法

 実装で苦労したなかで大きいのは精度を高めるところだという。一般的にはRAGで解決できると考えてしまいがちだが、そうとは限らないこともある。

 例えばサポートセンターの業務。顧客から質問が寄せられると、AIだとマニュアルから該当する部分を探し出して回答を組み立てようとする。しかしサポート業務をしている人間はそういうアプローチでは動かない。まずは過去に似たような問い合わせがないかを探して、そこから今回の問い合わせと比較し、不明な点があればマニュアルをあたるという順番で動くことが多い。

 実際に業務をしている人間がどう動いているのか。そこには暗黙知的かもしれないが、これまで培われた効率さや確実さのノウハウが潜んでいる可能性もある。実際の現場ではどのようなアプローチで業務をしているのかをよく見るといいヒントがあるかもしれない。

 似たような話だが、技術者だと方法論にとらわれてしまいがちという罠もある。例えば生成AIの回答の精度を高めたいというときに「(生成AIなのだから)ベクトル検索がいいだろう」と思ってシステムを構築することに目が向きがちだ。しかし従来のキーワード検索のほうが、担当者が知りたいことが掲載してあるドキュメントにたどり着けて、そのほうが有用だという場合もある。罠にはまらないようにするには、「そもそも何がしたいんだっけ? そのためにどの程度の精度が必要なんだっけ?」と本来のゴールを見失わないことが大事だ。

 よって、高坂氏はAIのモデルは「特にこだわりはない」とのこと。それよりも生成AIが回答を生成しやすいようにデータを整備するところで工夫を重ねている。ユーザーからの問い合わせに回答させるものを作りたいのなら、生成AIが回答を組み立てる時に参照するマニュアルや文書にある情報をQ&Aに変換したうえでRAGに取り込むと、回答の精度が高められるとのこと。例えば同社の製品マニュアルであれば「HULFTの価格はいくらですか?」という質問を作成し、価格が書いてある部分と紐付けるようにしておくなどだ。ちなみに、こちらはテンプレート化されて「HULFT Square」内で提供されている

 上記はAIが回答しやすくするためのデータ加工になる。もう1つ、逆にデータ加工にAIを使うこともできる。データ分析をするにはマスターを整備するという地道な作業が発生する。これは生成AI以前のデータ分析に欠かせない、重たい作業になる。例えば何らかの条件ごとにデータをグループ分けしておいて、データを比較するなど。このグループ分けなどデータの前処理に生成AIを活用する。

レガシーとモダン、技術の二面性がカギになる

 生成AI活用の取り組みについては、同社においてもまだ段階的に整備しているところではあるが徐々に成果は見えてきているという。これまで挙げてきたように、象徴的なものはサポート業務における回答支援だ。ただしAIが回答するのは仕様を確認するものが中心で、不具合に関する問い合わせなど慎重な対応が必要なものにはまだAIを使わないようにしている。この辺りの使い分けも実運用では配慮が必要なところだ。

 取り組みでは回答品質を維持しながら、サポートエンジニアの工数削減を目指している。高坂氏は「まだ取り組みをスタートしたばかりなので、現時点では(工数削減)効果は1%未満かと思いますが、将来的に大きな効果が見込めるとして我々が最も注目しているものの1つになります」と話す。

 他にもセキュリティチェックなどExcelの定型フォームへの自動記入についても改善が進んでいる。これまで人間が自由記入していて回答にばらつきがあったものを、生成AIが回答を仮に入力することで入力や集計の工数を減らすことが期待されている。PoCにおける試算だが、工数削減効果は56.5%と見込まれている。

 これまでの取り組みのなかで、同社ならではのバイモーダルな強さが発揮できたところもいくつかある。例えば顧客からGoogleのGeminiを使いたいという要望があった。しかし肝心のデータがまだクラウドになかった。そこで同社の製品やオンプレミス環境のノウハウやデータ転送技術が生きたという。

 あるいは取り組みのなかで壁に直面することもある。そうした時に、かつてのウォーターフォール型の開発を経験した人の昔ながらの発想や知見が状況打開のいいヒントになったこともあるという。高坂氏は「我々はいろんな二面性を持っています。レガシーとモダン、ソフトウェアメーカーとSIer、生成AI活用と汎用機の基幹システム。こうした二面性がケイパビリティを伸ばしている側面もあります。生成AIだからモダンな技術が得意なエンジニアだけで構成するのではなく、レガシーを経験したエンジニアが活躍する場面もあり、過去の知見が復活したところがありました」と話す。

 最後に高坂氏はあらためて地道にかつ堅実にいくことの大切さをかみしめた。「生成AIでいろんなことができるようになったように見えますが、よく見るとそれっぽい回答を返しているだけというケースが多くあります。本当に業務に有効とするには、もう一度業務に踏み込むことが大事です。最近生まれたMCPやAIエージェントもまだ発展途上の技術です。今一度、特定のユースケースにフォーカスして、その業務の目的は何なのか、確実に誰かが助かるようなシステムを作って行くことが大事だと考えています。そういった特定のユースケースにフォーカスして作ったものが、ゆくゆくはMCPサーバーでありAIエージェントとなってさまざまな方の役に立つことを期待しています」

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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