“いいもの”を作りたいのに、なぜプロジェクトは噛み合わなくなるのか
登壇者の一人である米山知宏氏は、民間企業や自治体のDX・変革プロジェクトを数多く支援してきた人物だ。本セッションでは、米山氏の著書『両利きのプロジェクトマネジメント』を手がかりに、ともに執筆を担った長谷部可奈氏をスピーカーに迎え、プロジェクトで「いいもの」を共につくるための考え方を解説した。
米山氏、長谷部氏が所属する株式会社コパイロツトは、成果物そのものではなく、「プロジェクトを前に進めるプロセス」を専門に扱う。業界の常識からすれば珍しい企業と言えるが、「成果を生み出すためのプロセスや仕組みこそ、広義のエンジニアリングそのもの」と両氏は位置付ける。
こうしたエンジニアリングの技術を体系化したのが、『両利きのプロジェクトマネジメント』である。「両利き」という言葉には、「成果に向かってプロジェクトを前進させると同時に、そこに関わる人々のモチベーションや成長、さらには幸せも大切にしたい」という思想が込められている。
ここで長谷部氏は、「皆さんの組織にも、このような課題はないだろうか」と、よくある“モヤモヤ”の例を挙げる。
一つ目が、プロジェクト内に生じる熱量の差である。主体的に関わり、より良いものを作ろうとするメンバーがいる一方で、「アサインされたからやるしかない」と割り切って参加するメンバーもいる。この温度差を抱えたままプロジェクトが進行すると、歪みは徐々に広がっていく。
二つ目は、違和感や懸念を口にしづらい空気だ。「何かおかしい」「このままだとまずい気がする」と感じていても、多くの場合、会議の場で言葉にされることはない。そして、問題は表に出ないまま蓄積していく。
三つ目が、事業目標至上主義である。ビジネス側の発言力が強く、現場の事情や作る側の論理が後回しにされるうちに、スケジュールは逼迫し、実装は場当たり的になっていく。
「プロジェクトでは、立場の異なる人が、それぞれの判断基準を軸に動くことがよくある。この基準が共有されないまま評価が行われると、すれ違いが蓄積していく」と長谷部氏は説明する。そして、この状態が続けば、「いいものを作りたい」という思いは徐々に減衰していく。
モチベーション低下を避けるために、多くの現場が取りがちなのが「課題を洗い出し、改善タスクに落とす」対応だ。しかし長谷部氏は、これを明確に「失敗するルート」だと断じる。その理由は大きく二つある。
一つ目が、「無限課題パターン」だ。立場や役割の異なるメンバーがそれぞれの視点で課題を挙げ始めると、多くの場合、議論はまとまらなくなる。各部署から大量の課題が集まり、「では、どうするのか」と立ち尽くす羽目になるのだ。こうなると、せっかく集まった課題も、「今も一応回っているから」と判断され、解決されないまま棚上げされることになる。
もう一つが、「お通夜パターン」である。課題を出すよう促されても、「個人的な感情だと思われないか」「方向性と違っていたらどうしよう」と不安になり、誰もが言葉を飲み込む。その結果、「特に大きな課題はありません」という沈黙が場を支配する。表面的には平穏に見えても、水面下では不満や違和感が確実に蓄積されていく。
これらに共通しているのは、「立場や役割によって見える世界は異なる」という前提を認識しないまま、課題の発見から入ろうとしている点だ。議論を有益なものとするためには、何よりも「目線を揃える」ことが欠かせないのである。
