定例会議を使って、ズレとモヤモヤをすり合わせる
ここから長谷部氏は、チームの目線を揃えるための具体的なアプローチとして、二つの方法を紹介した。一つ目が「グレーゾーンをなくすロールセッション」、二つ目が「すれ違いを定期点検する定例会議とモヤモヤ共有」だ。
まず取り上げられたのが、グレーゾーンをなくすためのロールセッションである。プロジェクトには体制図が存在するものの、そこに書かれているのは肩書きや形式的な役割にとどまり、互いに何を期待しているのか、どこまでを役割として引き受けるのかが明示されないことも多い。長谷部氏は、こうした暗黙の期待こそが、現場にモヤモヤを生み出す大きな要因だと指摘する。
例えば、ベテランエンジニアに対し、技術的な貢献に加えて若手育成までを「なんとなく」期待しているケースは多い。しかし、その期待が言語化されないまま業務を任されれば、本人にとっては過剰な負荷になりかねない。こうしたズレを放置したままプロジェクトが進めば、不満や疲弊として表面化するのも時間の問題だ。
そこで行うのがロールセッションである。各メンバーが同じフォーマットに沿って、このプロジェクトに割ける時間、自分が担うつもりの役割、苦手なことやサポートしてほしい点、他メンバーに期待していること、そして最終的に自分が引き受けると納得した役割を書き出す。口頭では言い出しにくい内容であっても、「まずは全員で書く」という形を取ることで、フラットに共有しやすくなるという。
ここでの目的は、正解を決めることではない。暗黙知を可視化し、期待のズレに気づくことだ。このプロセスを経ることで、「本当はここまでやってほしかった」「そこまでは想定していなかった」といったすれ違いが、対立を生むことなく解消されていく。
二つ目のアプローチは、定例会議を使ったすれ違いの定期点検である。定例会議と聞くと、「形骸化している」「役に立たない」といった否定的な印象を持つ人も多い。しかし長谷部氏は、定例会議こそが最も扱いやすいマネジメント装置だと語る。
定例会議は、プロジェクトにおける「健康診断」である。一定の間隔で必ず実施されるため、新たな仕組みを導入せずとも、既存の場の使い方を見直すだけで効果を上げられる。
定例会議には三つの役割がある。一つ目は、共通認識をそろえることだ。進捗や課題を共有するだけでなく、「今、チームは無理なく動けているか」「新しい挑戦が止まっていないか」といった点も確認する。成果だけに目を向けるのではなく、プロセスやチームの状態にも意識を向けることで、プロジェクト全体を立体的に捉えられるようになる。
二つ目は、進め方を調整することだ。状況は刻々と変化するため、定例会議を節目に、「今の進め方で問題はないか」を確認し、必要に応じて方針を微調整する。週次で実施していれば、遅くとも一週間以内に軌道修正ができる。
三つ目は、チームのリズムと関係性を保つことである。定例会議が定期的なチェックポイントになることで、チームには自然なリズムが生まれる。継続的に顔を合わせ、対話を重ねることで、関係性も少しずつ育っていく。「共有することがなければ定例会議を省く」のではなく、「顔を合わせること自体に意味がある」と捉え直すのがおすすめだ。米山氏はこれを、「草木に水をやるように、互いに栄養を与え合う場」と表現した。
最後に長谷部氏は、「ずれはなくならない。立場が違えば、見えているものも、感じていることも必ず異なる。だからこそ重要なのは、ずれを前提として擦り合わせ続けることだ」と改めてメッセージを繰り返した。原理的になくならないずれと格闘せざるを得ないなかで、『両利きのプロジェクトマネジメント』は、自分に合ったやり方を見つけるための道具として有効に活用できる一冊だろう。
エンジニアが携わるプロジェクトの現場でも、最終的に重要になるのは信頼関係と協働である。ロールセッションや定例会議といった日常的な場を活用し、小さな対話を積み重ねていく。その地道な取り組みこそが、結果として「いいもの」を生み出す好循環につながる。本セッションには、そうした示唆が込められていた。
