いつでもどこでも最新版を利用できる「Adobe Creative Cloud」
アドビ システムズ(以下、アドビ)は5月11日、「Adobe Creative Cloud」をリリースした。同日に発売された「Adobe Creative Suite 6」をはじめとする多彩なクリエイティブツールがまとめられており、サブスクリプションによってすべてのツールを好きなときにインストールして使うことが可能だ。これまでのパッケージ製品も引き続き提供されるが、同社はこれまで発表してきた発表してきたクリエイティブツールの提供方式を「パッケージとして購入する」から「サービスとして利用する」スタイルへと大きく舵を切ったと言えるだろう。
Adobe Creative Cloudで利用可能なツールは、Adobe Creative Suite 6のすべてのアプリケーションに加え、新しいHTML5開発ツールである「Adobe Muse(英語版)」と「Adobe Edge preview版」、そして「Photoshop Touch」をはじめとするタブレット向けのクリエイティブ アプリケーション「[Adobe Touch Apps[fsdid=IZXVD]]」だ(Adobe Touch Appsは別途購入が必要)。
本サービスはアドビストアから提供され、価格体系は月額プラン(8,000円/月)と年間プラン(5,000円/月)の2種類。なお、CS3.x、CS4、CS5、CS5.5の個人ユーザーには、月額3,000円の発売記念版(年間プラン)が期間限定で提供される。
Adobe Creative Cloudの使い方
では、Adobe Creative Cloudの具体的な使い方を見てみよう。各製品には[Adobe Creative Cloudに接続]というコマンドが用意されている。現在、17種類のデスクトップアプリケーション、3種類のサービス、6種類の「Adobe Touch Apps」が用意されており、一覧で表示される。
それぞれのツールには、簡単な説明と[ダウンロード][詳細情報]へのリンクがあり、[ダウンロード]をクリックすれば製品をダウンロード・インストールして、すぐに使い始めることができる。[詳細情報]では、製品情報の参照や、製品のハイライトを紹介する日本語のビデオの閲覧、体験版のダウンロードなどが可能だ。また、「Adobe Application Manager」の製品一覧からシンプルにインストールだけを行うこともできる。
Adobe Creative Cloudには、クラウドストレージのような共有機能が用意されていることも特徴だ。目的のファイルを選択して[共有する]をクリックすると、相手先を登録する設定画面が表示される。ここに相手のメールアドレスを入力して送信することで、共有フォルダのURLアドレスが記載されたメールを相手に送ることができる。相手はアドレスにアクセスして共有ファイルを開くことができ、共有する側はコメントやダウンロードの許可など制限を設定することも可能だ。
アドビ社のデベロッパーマーケティングスペシャリスト 轟啓介氏は語る。「アドビはAdobe Creative Cloudによって、サービス、ツール、フレームワークを含めて提供するという方向性に踏み出しました。現在はDropboxに代表されるように、クラウドサービスを活用したコラボレーションが一般的になっています。Adobe Creative Cloudを活用することで、これまではオフィスのデスクトップPCだけに限られていたクリエイティブな作業を、出先でノートPCやタブレットからでも行え、共有によりコラボレーションすることが可能になります。」
例えば、クライアントにグラフィックやWebページのデザインを確認してもらう際など、この共有機能が有効となる。また、タブレット端末にも対応しているため、タブレット上のAdobe Touch Appsで作成したファイルを置いておき、後でデスクトップ上から開くなどファイル置き場として活用することも可能だ。社外などで「Adobe Proto」を使用して作成したアイデアは、HTMLで表示されるプレビューを直接編集でき、クライアントとの打ち合わせの場で変更点や修正点などをそのまま反映・確認できる。
さらに轟氏は「Adobe Creative Cloudには多彩なクリエイティブツールが用意されているので、『ちょっと使ってみようかな』などの興味で異なるジャンルのツールを触ることもできます。実際にアドビでも、これまで絵を描かなかったような人がAdobe Creative Cloudをきっかけに絵を描くようになったりしています。いろいろなものを自由に使える、相性のいいものを選んで使える。そこに経験値は関係なく、小さく始めて高度なレベルまで、大きくスキルを伸ばすこともできるかもしれません。」と、同サービスの新しい可能性を示した。
クリエイティブツールの注目の機能と今後は
Adobe Creative Cloudには、同時に発表されたAdobe Creative Suite 6も含まれている。
Facebook上にあるアドビのキャンペーンページ「ソーシャルバルーン」では、CS6で特に注目を集めている/人気が高まっている機能が、ソーシャルバルーンによってひと目でわかるようになっている。一番注目を集めていたのは「Dreamweaver」の「可変グリッドレイアウト」。これは、Webページのデザインを簡単な設定でモバイル、タブレット、デスクトップにそれぞれ自動的に最適化するものだ。
第2位となったのは、「Photoshop」の「コンテンツに応じたパッチ/移動」。この機能は、例えば、草むらなどを範囲選択して別の場所に移動しても、継ぎ目がわからないよう自然な状態へ自動的に修正してくれる。同様に、風景の中の人物を選択して別の場所に移動した場合でも、継ぎ目の修正はもちろん、人物で隠れていた建物なども補完してくれる便利な機能だ。
第3位は「Adobe Edge」の「HTML5アニメーション作成」。これは、Webページのアクティビティをタイムライン上で容易に設定できるというもので、しかもほとんどのブラウザに対応が可能となっている(※「Adobe Edge」は今夏に登場予定)。第4位には「Illustrator」の「64bit化」、第5位には「Fireworks」の「CSSプロパティ」、第6位に「Illustrator」の「線へグラデーションを適用」が続いた。
このほか、ワークフローとパフォーマンスを改善するスプライトシート生成機能などが搭載された「Flash Professional CS6」や、Java、HTML/CSS用の軽いフリーのテキストエディタ「Brackets」、動作テストツールである「Adobe Shadow(Adobe Labs)」なども注目されている。
製品の連携によってユーザーの利便性を追求
同社のテクニカルエバンジェリスト 太田禎一氏は、このアドビの新しい挑戦について次のように語った。「Adobe Creative Cloudを提供した大きな理由は、速い流れについていくこと、そしてツール間の連携です。さまざまな技術が速いスピードで進化していく現在、従来の1年ごとのバージョンアップでは到底追いつきません。クラウドで提供することで、常にバージョンアップが行えるので、お客様はいつでも最新バージョンを使えるメリットがあります。」
「また、さまざまなツールを寄せ集めて開発を進める場合、ワンストップではなく、ツール間の連携が重要になります。そこで、このサービスにより安定してコラボレーション作業ができる環境を目指しました。社内と出先での連携、異なるツール間での連携、また、同時起動しない限り同じ製品で異なるOS、異なる言語でも、ひとつのライセンスで利用できるようになったことも、連携のひとつといえるでしょう。ゴールは製品の連携によってお客様が楽になること。そのために、常に世界中のお客様の声を聞き、組み合わせるツールを考えています。」
アドビでは、特に力を入れているHTML5技術での開発において、グラフィック制作からアニメーション、IDE、UIコンポーネント、インタラクション構築、RIA開発フレームワーク、動作テストといった、それぞれの作業に対応するツールを提供している。UIコンポーネントやRIA開発フレームワークなど、まだ対応できていない部分については、サードパーティのオープンソースツールで補完している。アドビが新しいフレームワークを作るのではなく、世界で支持され使われている将来性のあるものをアドオンで提供していくというスタンスにより、ユーザーに使いやすい環境を提供するためだ。
今後について、太田氏は「Adobe Creative Cloudは、まだ100%とは言えません。しかし、まだ提供を開始して数日ですが、『期待している』という声を多くいただいています。今まで持っていなかった、触れる機会のなかった製品に触れられる機会があることは注目していただけているようです。最終的にやりたいことはまだまだありますが、まずは「TypeKit」を日本語環境(フォント)で使えるようにすること、Museの日本語化などに対応していきます。今後も、さまざまな機能がAdobe Creative Cloudへ自動的に反映される予定です。ぜひご期待ください。」