このSoftLayerを2013年7月にIBMが買収した。IBMの営業力とマーケティング力、そして手厚いサービスをSoftLayerに加えることで、エンタープライズ市場およびグローバル市場への展開を加速する構えだ。
IBMがSoftLayerを買収した理由は3つあると考えられる。1つは、クラウド市場で有望なプレイヤーを買収することによる規模の拡大と技術の調達。2つ目は、SoftLayerの顧客がIBMと顧客層とほとんど重ならなかったこと。そして3つ目は、SoftLayerの技術的な特徴がエンタープライズでの利用においても優れたものである点だ。
技術的な面から見たSoftLayerの特徴は、以下の3点となる。
- 仮想サーバだけでなく物理サーバも利用可能
- インターネットと隔離されたプライベートVLANが用意されている
- データセンター間のトラフィックが無料
ここでは、SoftLayerの技術的な特徴を中心に見ていくことにしよう。
7つの地域に13のデータセンター
SoftLayerはサーバやストレージといったコンピューティングリソースをクラウドで提供する、いわゆるIaaS型のクラウドサービスに分類される。
グローバルの7つの地域に13の「Pod」を展開している。Podとは1つの独立したデータセンターとして機能するものだ。このPodが米国内ではダラスに7つ、ヒューストンに2つ、シアトル、ワシントン、サンノゼにそれぞれ1つずつ。欧州ではアムステルダムに1つ、アジアではシンガポールに1つ設置されている。
データセンター間は専用回線で接続されており、インターネット回線を経由しないためセキュアで安定した通信が可能だ。また、この専用回線へのアクセスポイントを全世界17か所に置いており、日本国内では品川に設置されている。
日本へのデータセンター設置の予定について、SoftLayerのCOO、ジョージ・カルディス氏が12月に来日した際に尋ねたところ、いまのところ明確な計画はないが、ぜひ多くの要望をいただきたいとのことだった。
(※編集部注:2014年1月17日に、日本でのデータセンター開設計画が発表されました)
物理サーバをクラウド内で展開可能
SoftLayerの最大の特徴といえるのが、物理サーバをクラウド内で利用できることだろう。クラウドとは一般的に仮想化されたサーバを迅速かつ大量に利用できるものであり、SoftLayerも当然その機能を提供している。それに加えてSoftLayerでは仮想化されていない物理サーバも、仮想サーバと同じように利用できる。
物理サーバを利用することの利点は多くある。例えば他のユーザーとの分離がハイパーバイザによる論理的なものではなく筐体による物理的な分離になるため、よりセキュアな環境を実現できること、そしてなにより物理サーバを仮想化せずに占有できることにより、GPUも含めたプロセッサもメモリもI/Oも多様な選択肢のもとで最大限の能力を活用できることだ。
特に業務アプリケーションをクラウドで運用しようとする場合、よりセキュアな環境と高い性能が求められることは必須であり、物理サーバの提供はエンタープライズ向けにクラウドを展開する上での大きなセールスポイントになるはずだ。
ただし、物理環境は仮想環境のように数分でプロビジョニングできるという訳にはいかない。数十分から数時間で準備されるようだ。
SoftLayerでは、この物理サーバの利用を容易にする「Flex Images」というソフトウェアを使って物理サーバから仮想サーバへ、あるいはその逆へと環境をポータブルにすることが可能だ。
ストレージにも触れておこう。ローカルストレージが利用できるほか、iSCSIストレージではスナップショットやレプリケーションの機能が提供されている。レプリケーション機能では、データセンターをまたいでデータ転送ができる。
そのほかNASも用意され、あらかじめ用意されているQuantaStorソフトウェアをサーバに導入することでNFSストレージサーバを導入することもできる。定期バックアップ用のEVault Backup、Idera Server Backupも提供されており、データのバックアップは多様な選択肢がある。
仮想化はXenServerベース、サーバ監視機能も標準で用意
クラウドとしての本流である仮想サーバの環境は、シトリックスのXenServerベースで構築されている。対応OSとしては、CentOS、Debian、FreeBSD、Red Hat Enterprise Linux Server、Ubuntu、Windows Server 2003/2008/2012など。データベースソフトウェアのイメージもあらかじめ用意されている。SQL Server 2000/2005/2008/2012、MySQL、HadoopやMongoDB、Riakなどもある。
サーバの監視オプションが標準で用意されているのも便利だ。統合モニタリングソフトであるCA technologiesのNimsoft Monitorが利用でき、追加コストをかけずにWindowsとLinuxに対してサーバごとにエージェントベースでCPU、ディスク、メモリ状況やプロセスモニタリング、メールによる通知などができる。
さらに追加でネットワークのトラフィックやパフォーマンスモニタリング、URLに対する監視など、より詳細な監視もできるようになっている。
IBMはSmarterCloud Enterprise+も提供
IBMは、従来はIBMのクラウドだけに提供していたマネージドサービスの「SmarterCloud Enterprise+」(スマータークラウドエンタープライズプラス)をSoftLayerのクラウドサービスに対して提供することを明らかにしている。
SmarterCloud Enterpirse+とは、ITILに基づいたサービス管理機能やセキュリティー機能をマネージドサービスとして追加したもの。可用性を保証するサービスレベルと、サーバのモニタリングやセキュリティパッチの適用、ウイルススキャンなどを含む運用サービスなどがある。
現在のクラウドでは運用も含めてユーザーによるセルフサービスが中心だが、エンタープライズ向けにクラウドを展開する場合にはベンダによる手厚いサービスが求められるケースが多くなる。IBMはSoftLayerをエンタープライズ向けクラウドとして展開しようとしているのだ。
プライベートクラウド機能も
ネットワーク機能の充実は、SoftLayerが注力している点だ。SoftLayerでは、インターネットにつながっているパブリックネットワークと、インターネットに繋がっていないプライベートネットワークのどちらにでもサーバを展開できるようになっている。
プライベートネットワークへはSSL VPNで接続することができるため、いわゆる仮想プライベートクラウドが手軽に作れる。
このプライベートクラウドとiSCSIのスナップショットとレプリケーション機能にデータセンター間の無料トラフィックを組み合わせると、例えばアジアとアメリカに分散したディザスタリカバリに対応できるプライベートクラウドを効率的に運用することができるだろう。
エンタープライズ向けに大きな成長余地が
SoftLayerのCOO ジョージ・カルディス氏は、なぜIBMの買収を受けたのかという記者からの問いに「SoftLayerは世界を支配するというビジョンを持っていたからだ」と答えた。
実際のところ、いまクラウドの世界を支配しつつあるのはAWSである。SoftLayerがAWSを凌駕する方法があるとすればそれは、IBMのような巨大なグローバル企業と組むことこそ唯一の選択だろう。そしてそれは現実のものとなった。
IBMは、これまで同社のIaaS型クラウドとして提供していたSmarterCloudからSoftLayerへと顧客の移行を行っているとされる。SoftLayerに対してはこれから本気で同社の資本、技術、マーケティング、営業力など集中し、レバレッジをかけていくことになるだろう。
ここまで見てきたようにSoftLayerの機能は優れたものが多くある。これがIBMの買収によって今後さらに強化されて魅力的なクラウドサービスとなるかどうか、IBM/SoftLayerにとって2014年は重要な年になることは間違いない。