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【Open Cloud Summit Japan 基調講演】
Linux以上の成功を目指すIBMのオープンクラウド戦略

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 日本IBMは4月16日、東京・六本木にあるグランド ハイアット東京にて、開発者向けイベント「Open Cloud Summit Japan」を開催した。このイベントでは、同社が展開する新しいクラウド基盤に関する取り組みや背景技術、機能についてのセッションやデモ展示が行われた。本稿ではその基調講演をレポートする。

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8,200億円以上の投資に4万人のエキスパート育成

 基調講演は、米IBM ソフトウェアグループ ソフトウェア・クラウド・ソリューションズ シニアバイスプレジデント ロバート・ルブラン氏によるプレゼンテーションで始まった。

米IBM ソフトウェアグループ ソフトウェア・クラウド・ソリューションズ
シニアバイスプレジデント ロバート・ルブラン氏
米IBM ソフトウェアグループ ソフトウェア・クラウド・ソリューションズ シニアバイスプレジデント ロバート・ルブラン氏

 ルブラン氏によれば、多くのユーザーがクラウドに期待しているのは、コストダウンや効率化だけなく、データを分析し、新しいビジネスを生み出す原動力にすることであるという。さらに、「生み出される新しいビジネスはスピードが重要。新しいサービスやシステムの開発に18か月もかけていてはダメだ。そのため、データ分析はリアルタイムで行われなければならない」(ルブラン氏)と述べ、IBMが提供するクラウドサービスは、こうした声に応えるためのものだとした。

 そのためにIBMは、IaaS(Infrastructure as a Service)サービスの「SoftLayer」の買収や、オープンソースのPaaSソフトウェア「Cloud Foundry」へのコミットメントを実施。PaaSではCloud Foundryをベースに「BlueMix」(コードネーム。現在はベータ版を提供中)を開発し、ミドルウェアやフレームワーク、各種機能を提供するAPIをサービス化し、GUIで選択するだけで簡単に使えるようにした。

 加えて、ルブラン氏はBlueMixの特徴として、オープンなエコシステムである点を主張。特に、BlueMixはCloud FoundryベースのオープンなPaaSなので、ユーザーは特定ベンダーが提供する基盤やコンポーネントに縛られず、好きなランタイム、ミドルウェア、ツール、サービスを利用してソフトウェア開発ができると説明した。

 また、IBMらしく、従来の業務システムのクラウド対応にも強みがあるとし、「ベンチャー系のサービスプロバイダーから大企業の情報システム部まで幅広いニーズに応えるものだ」(ルブラン氏)と、IBMが提供するクラウドサービスの優位点をアピールした。

 なお、IBMではクラウドサービスの構築と新しいビジネス支援のため、データセンターに1,200億円、関連企業やサービスの買収に7,000億円以上を投資。4万人以上のクラウドエキスパート育成にも取り組んでいるという。

オープンクラウドアーキテクチャとは

 ルブラン氏のプレゼンテーションの次に、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 客員研究員 林雅之氏による、オープンクラウドアーキテクチャのチュートリアルセッションが行われた。

 林氏は最初に、2009年3月に公開された「オープンクラウド・マニフェスト」(解説記事)から、オープンクラウドを特徴づけるポイントとして次の6項目を示した。

  • オープンスタンダード準拠
  • 独自のプラットフォームに縛らない
  • 標準規格
  • 考慮された規格の追加や変更
  • 顧客ニーズ優先
  • 団体・コミュニティとの連携

 つまり、オープンクラウドは、特定企業の都合に左右されず、プラットフォームにロックインされないことが特徴といえる。さらに、オープンクラウドを実現するための要件として、林氏は次の5つを挙げた。

  • オープンAPIの実装
  • オープンソースによる共同開発
  • コミュニティ・団体等の相互支援
  • 複数のオープンなクラウド環境
  • 事業者を選ばないアーキテクチャ

 この5つが重要な理由は、ユーザー、事業者、開発者によるエコシステムが形成されるからだ。ユーザー企業には、ベンダーロックインのリスクを回避しながら、高い性能や拡張性を得られるというメリットが生まれる。サービス事業者やSIerにとっては、競争力確保と特定基盤に依存するガラパゴス化の回避にもつながる。また、開発者には、コミュニティーの存在により知見を共有でき、サービスの創出が容易になるといったメリットもある。

 オープンクラウドを実現するための標準化技術について、林氏は、次のように3つのレイヤーで解説した。

オープンクラウドを実現するための標準化技術
オープンクラウドを実現するための標準化技術

仮想化されたサーバーおよびネットワーク
 クラウドのベースとなるレイヤー。XenServer、VMware、KVM、OpenFlowといった技術がある。

IaaSレイヤー
 サーバーおよびネットワークのレイヤーには、ベンダーやハードウェアの差を吸収しきれないところがある。そこで、その上のIaaSレイヤーをコモディティーレイヤーとし、AWS(Amazon Web Services)互換の共通APIで使えるようにする。ベースとする標準化技術として「OpenStack」がある。

OpenStackの導入事例(国内外)
OpenStackの導入事例(国内外)

PaaSレイヤー
 言語処理系、開発環境、データベース他各種のミドルウェアを、ベンダーやシステムを選ばず実装できるようにする。PaaSレイヤーの標準化技術には「Cloud Foundry」がある。Cloud Foundryには、支援団体として「Cloud Foundry Foundation」が設立され、42の企業・団体が協賛している(2014年5月7日現在)。なお、Cloud Foundryの利用事例として、IBMの「BlueMix(ベータ版)」、NTTコミュニケーションズのBizホスティング「クラウド・エヌ」のほか、楽天がプライベートPaaSをCloud Foundryで構築していることが紹介された。

Cloud Foundry
Cloud Foundry

 最後に林氏は、このようなオープンな基盤をベースとしたパブリッククラウドとプライベートクラウドは2015年ころから本格的に普及し、2017年には1兆962億円規模の市場に成長するという予測を述べ、講演を終えた。

IBMのオープン戦略は20年前から

 次に、米IBM ソフトウェア・グループ技術理事 クラウドパフォーマンス CTO アンドリュー・ヘイトリー氏が登壇し、同社がオープンクラウドにコミットする理由と取り組みについてオープニングセッションを掘り下げた説明を行った。

米IBM ソフトウェア・グループ技術理事 クラウドパフォーマンス CTO アンドリュー・ヘイトリー氏
米IBM ソフトウェア・グループ技術理事 クラウドパフォーマンス CTO アンドリュー・ヘイトリー氏

 ヘイトリー氏は、現在新規に開発されるソフトウェアの85%がクラウド向けのものであり、開発者の72%がクラウド上のAPIを使っていると説明。さらに、2016年までには、世界中のアプリケーションの4分の1がクラウド上で利用されるだろうと述べた。

 クラウドは今や、ビジネスやITに不可欠といってよい存在だが、このようにクラウド市場が広がる理由について、ヘイトリー氏は「開発スピードと柔軟性があること。新しいビジネスを試し、素早い改修でニーズに応えるというルーチンを行えること。スケールアップ、スケールダウンも素早く行えること」を挙げ、これらは企業競争力に不可欠な要素となっているとした。

クラウド市場が広がる理由
クラウド市場が広がる理由

 なお、IBMのオープンクラウド戦略は、ヘイトリー氏らが経営陣を説得して始まったものだが、実は「オープンコミュニティにコミットし、ビジネスを展開していくというIBMの方針は20年前からある」(ヘイトリー氏)。現在、社員400名がOpenStackコミュニティに何らかの貢献(そのうち100名ほどがコアメンバーとして活動)をしているIBMは、いわばOpenStackに賭けることにした格好だが、上層部からは「Linuxより成功せよ」とオーダーされているそうだ。

オープンクラウドにIBM独自の価値を追加して提供

 もちろん、IBMはOpenStackやCloud Foundryといったオープンに開発されている技術をそのまま使用しているわけではない。IaaSでは、OpenStackをベースに各種ハードウェアリソース(CPU、ストレージ、ネットワーク)を管理するための抽象化レイヤー(IBMプラットフォーム・リソース・スケジューラー)を構築。ワークロードの定義や、それらを再利用・最適化するためのパターン、オーケストレーション環境を積み上げて、同社がSoftware Defined Environmentと呼ぶサービス基盤を提供している。

IBMのIaaS戦略
IBMのIaaS戦略

 BlueMix(ベータ版)は、このIaaSの上にCloud Foundryベースで構築されたPaaSである。BlueMixの特徴は何といっても、サービスやアプリケーションを実行するための環境作り(ミドルウェアやフレームワークの選択・設定など)がGUIで簡単に行える点だ。

 だがもう1つ、エコシステムの機能を備えている点も、競合に対する差別化点といえよう。サードパーティーは「IBM Cloud marketplace」というBlueMix向けサービスの市場で、自身で開発したサービスを販売するなどのビジネスを行える。BlueMix上でシステムを開発するユーザーは、IBM Cloud marketplaceでサービスを購入してそれを利用できる。

サードパーティーはBlueMixのエコシステムを利用したビジネスを行える
サードパーティーはBlueMixのエコシステムを利用したビジネスを行える

 BlueMixについては、日本IBM GTS事業部 クラウド事業統括 理事 クラウド・マイスター 紫関昭光氏が、ビデオデモを交えて解説した。

 ビデオデモは、スポーツ用品を販売するiPadアプリケーションを構築し、拡張していくというもの。紫関氏はまず、BlueMix上ではJava、Rubyなどのランタイムが自由に使え、サービスAPIとの融合も簡単に行えることを強調。続いて、クラウドだからこそ容易にできるサーバーのスケールアップ、スケールダウンや、音声通話、チャットなどの機能もAPIを利用することで数分で実装する様子などを紹介した。なお、音声通話には米Twilio社が提供するVoIPやSIPのAPIサービスを利用していた。

日本IBM GTS事業部 クラウド事業統括 理事 クラウド・マイスター 紫関昭光氏
日本IBM GTS事業部 クラウド事業統括 理事 クラウド・マイスター 紫関昭光氏

 他にも、IBMのクラウドプラットフォームやBlueMixの特徴として、次の5つを紹介。これらについては、イベント会場でデモが行われていた。

  • SoftLayerは仮想化フォーマットOVF(Open Virtualization Format)のテンプレートに対応し、ベアメタルサーバーも提供
  • Cloud Foundry上のアプリケーションに、データベースなどのサービスを容易にバインド(BlueMixの機能)
  • IBM Jazzをベースとしたコラボレーション開発環境への対応(Jazz-Hub)
  • プライベートクラウドとパブリッククラウドを混在させたハイブリッドクラウドの構築
  • 機能のカプセル化が容易なPaaS API(ビルドパック)

ソフトウェアの開発スタイル・ビジネスの変容に遅れるな

 以上のようにIBMでは、クラウドを今後提供するITシステムの柱の1つとして据えた。従来型のSIに付随したメインフレーム、PC、サーバーを販売するというビジネスから、オープンなクラウド基盤を構築し、そのエコシステムでビジネスを展開する戦略をとる。もちろん、クラウド基盤はクローズドなものを含め、IBMだけが提供しているわけではない。企業や技術者から見ればAWSやAzureといった選択肢もあるが、いずれにせよ、ソフトウェアの開発スタイルやビジネスは変容してきている。

 クラウドベースのマッシュアップ、サブスクリプションによるシステム構築といった開発スタイル、そしてクラウドベースのソフトウェアリリースと運用というスタイルは、しばらく注視する必要があるだろう。

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