IaaS型のパブリック・クラウドSoftLayerを活用して独自サービスを構築
本セッションでは日本アイ・ビー・エムの北瀬公彦氏がモデレータを務め、振られたテーマに3人のエキスパートが順番に答える形で進められた。
最初に北瀬氏がクラウドサービス「SoftLayer」の概要を紹介した。挙手による調査で、来場者の中でSoftLayerの存在を知っていたのは約8割で、使用経験のあるのはまだ少数だった。
SoftLayerはIaaS型のパブリック・クラウドで、セルフタイプのポータルからCPU、OS、ストレージ、ネットワーク、セキュリティ機能などを選択し、発注することができる。ベアメタルと呼ばれている物理環境を選択することができるのが、大きな特徴の一つだ。ベアメタルの場合は提供までに数時間かかるが、テンプレートがある仮想環境のものであれば約30分後には使用開始できる。課金は月単位に加え、時間単位を選択することも可能だ。東京のデータセンターが2014年12月にオープンし、より快適で安定した環境が提供されるようになっている。
本セッション最初のテーマは、3社がSoftLayerを使って作成した製品、サービスの紹介だ。
石橋崇氏らが起業したMNUは、電気通信大学の認定ベンチャーで、メンバーは5人。SoftLayerを使い「PBOX」というファイル共有アプリケーションを開発している。
Dropboxのようなサービスだが、シングルテナントで自社のサーバーにデプロイし、セキュアに運用することができるという点で異なる。またDropboxでは、ディレクトリに対してユーザーを招待するという共有の仕方をするのだが、PBOXは既存のファイルサーバーをサポートしており、一般的なアクセス制御の手法を使うことができる。
バックエンドにObjectStorageを置き、その前端にWebサーバーを置いている。データのアップロード、ダウンロード時のサーバーへの負荷を軽減するフローにしてあるのが、技術的特徴だ。
SoftLayerのAPIはObjectStorageのオーダーに使われている。今後はSDKの提供を予定し、PBOXを簡単に使えるようにしたいという。
柴田直樹氏が代表取締役を務めるエクストリームデザインは、起業を支援するSoftLayerカタリストプログラムに認定され、本年2月から新たに株式会社となったスタートアップだ。柴田氏はスパコンのエンジニアとしての経験が豊富で、現在、SoftLayerに関してはAPIを活用した様々な開発業務と、クラウドを活用した新サービスの開発を行っている。
業務では、まずSoftLayerのセルフポータルを開発している。IBMの正規ポータルは色々なメニュー、情報が入っていて、必要な情報にたどり着くまで、かなり下の階層まで行く場合もある。開発中のポータルは、APIで情報を引っ張り、ユーザーの求めに応じて必要な情報を簡単な操作で見ることができる。
クラウドを活用した新サービスの開発では、パフォーマンスを重視する顧客に対し、SaaSを展開していきたいと考えている。一つはエンジニアリングで、自動車会社や航空機のメーカー向けに、空気の流れを解析する流体解析サービスを提供する。非常に大きな計算資源が必要なのだが、オープンソースのアプリケーションとSoftLayerをうまく組み合わせていく予定だ。
もう一つはビッグデータとも関係が深い、医療データ解析。今、人間ドックなどに行くと、検査で様々なデータを取られるが、実は取られっぱなしで活用されていないことが多い。そこで複数のデータを解析して病名を判定するサービスを展開しようと考えている。
セッションでは、クラウドSI会社をターゲットに開発中のサービスである、SoftLayerのAPIを活用したWebアプリが紹介された。SoftLayerのAPIは多くのインターフェースを持っており、やり方さえ分かれば、色々な情報を簡単に引き出すことができる。またSoftLayerは高速なファイル転送機能も充実しており、そうした機能の呼び出しなども簡単に表示することができる。APIを使うと、自分が必要なものだけとる、自分がやりたいところだけ引き出すことができるので、ミスオペレーションも防げる。このようなアーキテクチャーを土台にし、色々なサービスを開発していきたいと考えている、とした。
前佛雅人氏は、クリエーションラインにおいて、テクノロジーエバンジェリストとしてクラウド環境を作ったり、クラウド上で監視したり、サービスを開発したりしている。どちらかといえば開発よりも運用面から技術を見ているところがあるという。
SoftLayer歴は1年で、柴田氏と同様に管理ポータル「SETTA」を開発し、提供している。開発の背景には、クリエーションラインがMSPサービスを提供していることがある。簡単にサーバーを建てたい顧客や、SoftLayer独特のシステム(申込日が締め日で、月末締めなどにはできないなど)に合わせた情報を簡単に得たいというニーズにも応えている。そのためにやっていることは、単純にAPIを叩いているだけだ。
SoftLayerはAPIが豊富なことで定評があるが、その中で前佛氏がピックアップしたのはVagrantとChefの流れだ。Vagrantではプラグインを追加するだけでインスタンスの起動、再起動、停止が簡単にできる。またChefでは機能を拡張するknifeプラグインが利用できる。
前佛氏が初めてSoftLayerを使ったとき、APIの情報がポータルのどこで見られるのかが分からず、戸惑った。APIを作成するには、ポータルの「Account」から「Users」に進み、API Keyの「Generate」をクリックすればいい。
SoftLayerの場合は、アカウントごとにどのAPIを使うか設定することができるので、それもポータル「SETTA」上で可能にしたいと考えているという。
SoftLayer採用のメリットと苦労した点とは
セッション後半のテーマは「SoftLayerを利用した理由と苦労した点」について。
MNUの石橋氏は「SoftLayerがあったからPBOXができた」と語った。ObjectStorageがデフォルトで用意されており、非常に使いやすい上に安い。以前はシンガポールや香港のサービスしか使えず、やや遅いと感じていたが、最近できた東京のサーバーは結構速い。
また石橋氏は、サーバー構成の自由度が高いことも評価している。CPUやハードウェアのスペックのほか、ネットワーク構成でもかなり自由度が効き、プライベートのネットワークをクラウド上に構築できる。
さらに、コミュニティに勢いがあり、今ならコミュニティのコアメンバーになれるチャンスかもしれないと語る。実際、石橋氏がデブサミで話しているのは、コミュニティ活動のおかげだ。
苦労した点はまず、APIリファレンスを見てもよく分からなかったことだ。たとえばObjectStorageのオーダーAPIの引数の説明がまったく無いために一苦労した。また、APIが熟成されていないと感じている。Python版クライアントの問題かもしれないが、オーダーAPIの引数が多いことも一因だ。そのほかでは、verifyOrderレスポンスで空文字だった部分をnullに直してplaceOrderに渡さないとエラーが出ることも挙げられる。
エクストリームデザインの柴田氏が感じているSoftLayer採用のメリットは、第一に、純粋なIaaSであるということが挙げられる。パーツを選び、プラモデルのように自由に組み立てることができることから玄人向きともいえる。第二は、物理環境であるベアメタルのパフォーマンスだ。さらに、揺らぎがあまりなく、安定している。また、起業家支援とコミュニティの充実も評価しているところだ。
苦労している点は、APIが非常に充実している一方で、「取扱説明書」が充実していないことだ。そのためAPIのリファレンスの充実を希望している。また情報はすべて英語なので、これに関しては、自分が日本語でSoftLayerの情報を発信していきたいと考えている。
そのほかではCLI(slコマンド)が2種類あり、微妙に仕様が違う。そのため、コミュニケーションに支障がある場合がある。
クリエーションラインの前佛氏は「取りあえず使ってみませんか」と呼びかけた。東京にデータセンターができたことは大きいし、独特の作法がない点を気に入っている。物理サーバーのようにインスタンスが使いやすいうえ、直感的にリソースの変更ができる。
また利用料金を見積もりやすい。データベースをどれだけ叩いても、内容課金は無いし、データセンター間の通信にも課金されないのも利用しやすい点である、とした。
最後に北瀬氏が日本SoftLayerユーザー会の活動を紹介し、セッションを終えた。
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