「グロースハック」とは、製品やサービスの利用方法・利用傾向などを調査し、その成果を製品・サービスの開発・改善にフィードバックするサイクルを繰り返すことにより、製品・サービスを大きく発展させる一連の手法のことです。
Q1:ペーパープロトタイピングからワイヤーフレームへ移行するタイミング
Q. ペーパープロトタイピング(手書きによるプロトタイプ作成)からワイヤーフレームへ移行するタイミングはどのように判断していますか?
A. 僕たちがペーパープロトタイピングを行うときには、単に議論するだけでなく、そこからパターンを作ることを意識して、ある程度のストーリー決めや仕様の合意なども行っています。ペーパープロトタイプでユーザーテストを行うこともあるのですが、テストの精度はワイヤーフレームなどを使ったほうが高いですね。(林)
Q2:あえてユーザーテストに加える?
Q. あえて興味のなさそうな人をユーザーテストに加えてみると、新しい発見があるような気がしますが、やらないほうがいいでしょうか?
A. これはちょっと難しい質問ですね。
以前、通販サイトを担当していたことがあるのですが、女性向けの通販だったので僕自身がそこで買うっていう想定はできなかったんです。やはり、サービスのターゲット以外の方は想定しにくいので、ユーザーテストはできれば興味を持っている人に対して行ったほうがよいでしょう。
ただし、「そのサービスを知らない人」に対して行うのはアリだと思います。例えば、通販には興味があるけれども、そのサービスに対しては興味がないっていう方にテストを受けてもらうのは十分ありえると思います。(林)
Q3:テストを企画してから運用開始になるまでの期間は?
Q.案件によると思いますが、企画からテストを行って、修正して、運用開始になるまでどれくらいの期間をかけていますか?
A. 僕たちはだいたい1週間くらいのサイクルで回しています。テストとしては1週間で、実施したあと1週間くらい見てっていう形になります。1つのテストに対しては2週間くらいですかね。
テストはいくつかを並行して走らせたりもします。ただし、その場合には、同じ画面ではなく違う画面でテストするようにしています。(林)
Q4:有意差がなかった場合の決め手
Q. A/Bテストで有意差がなかった場合、パターン採用の決め手は何になりますか?
A. A/Bテストで有意差がなかった場合にはオリジナルに戻す、ということをルール化してあります。手を入れても変わらないということは今のままがよいということなので、オリジナルに戻すことが判断として大事だと思っています。また、オリジナルに戻すというルールにしておくと、次のステップに進みやすくなります。(林)
Q5:ペルソナに近い人の集め方
Q. ユーザーテストに関する説明の中で、「ペルソナに近い人を3人以上集めたほうがよい」とありました。具体的には、どのような方法で集めていますか?
A. 社内のメンバーや他部署の人からお友達を紹介してもらうのが一番早いです。そうした人が見つからない場合には、調査会社に依頼することもあります。
もし自社でサービスをお持ちでしたら、サイト内で告知するといった形で、テストの母集団を形成することもできます。(林)
Q6:A/Bテストは変化の大きなテストから?小さなテストから?
Q. A/Bテストを始める際、変化の大きいテストから取り掛かるのがいいですか? それとも変化の小さいテストから始めるほうがやりやすいですか?
A. 基本的には変化の小さいテストから始めたほうが、テストのスピーディさという観点からは分かりやすいと思います。あまり大きい変化をやってしまうと、なぜその結果が出たのか分からなくなるので、なるべく大きい変化でも極力細かくするようにしています。
システムの都合上、小さな変化のテストから実施することができないという場合には、タイミングを決めて、変化の大きいテストを投入します。ただし、テスト形式はA/Bテストにします。
大きく変化させたものを投入したからといって、必ずしもよくなるわけでなく、逆に失敗するケースだってあります。僕もリクルートのさまざまなサイトに10年くらい携わってきて、3か月やっても「上がらなかったですね」っていう経験をしています。やはり、変化の小さいものから始めたほうが容易ですし、そういう文化も根付きやすいと思います。そういう文化が根付いていれば、変化の大きいものから一気やっていくのも1つの判断といえるようになります。(林)
Q7:A/Bテストを行う頻度
Q. ユーザーの環境はどんどん変わっていきますが、A/Bテストは定期的に行うのでしょうか。また、スマホの普及前後で、同じA/Bテストでも結果が異なるということはありましたか?
A. 僕らはA/Bテストを週に1回は行っています。定期的にというより、何かしらのテストが常に走っている状態です。
たしかに、スマホはどんどん変化していきますが、それ以上に、AndroidユーザーとiOSユーザーで行動特性が違うことのほうが大きいと思っています。ですので、僕たちはよく、Android向けのA/BテストとiOS向けのA/Bテストで内容を変えてみています。AndroidとiOSではインターフェースのルールが違いますし、UIルールがそもそも違いますから、ユーザーにも特性もあるのかもしれないですね。そこは深堀りしたいです。何が違うのかが分かったら、それをもとに、いろんなサービスができるかもしれません。(林)
Q8:マイクロコンバージョンの活用事例
Q. リクルートジョブズ社にマイクロコンバージョン[1]を設定し、活用している事例はありますか?
A. リクルートジョブズのWebサービスは「求人への応募」をコンバージョンとしていますが、その手前の直帰率や離脱率、CTRなど、応募より手前のポイントも計測しています。「CTRが上がった」ことが分かれば、直帰率も改善されだろうと見ます。そこにポイントを置いた打ち手も有効です。
そういうことが多いのはランディングページや、SEOによる流入の多いページですね。そこにポイントを置いた施策も行っています。(林)
[1] 例えば、ホームページから応募完了ページまでの階層(遷移するページの数)が深い場合、コンバージョンが出づらくなり、テスト結果を判断するためのデータがなかなか得られません。そのようなときには、応募完了ページに至る途中のページ遷移もコンバージョンのゴールとして扱います。この施策がマイクロコンバージョンです。マイクロコンバージョンを取り入れると、コンバージョンが数多く出るようになり、結果の判断を下しやすくなります。
Q9:思い出深いA/Bテスト
Q. 林先生にとって、思い出深いA/Bテストはありますか? ものすごい結果が出たとか、滑りまくったとか。
A. 思い出深いということでいえば、通販サイトを担当していたときに女性の下着のA/Bテストをやったんですけれども、比較したのが「響かないパンツ」と「響かないパンティ」だったんです。とても思い出深いA/Bテストですね。なぜ、こんなに一生懸命やっているんだろうと(笑) 結局、「響かないパンツ」という、かたい感じの表現のほうが結果がよかったんですけど。
やっぱり、滑る回数のほうが多いですね。正確には、滑るというより変化がないというケースが多いです。
バナーなどは、小さな画像の中にターゲットや想定するワードなどを入れて作りますよね。実際に作って、ユーザーの気持ちになって見てみると、気になったり押したくなったりするかどうかが分かります。バナーをいろいろ作っていくことは、自分の打ち手や引き出しを増やすことにつながります。(林)
Q10:リクルートのグロースハッカーチームの人数
Q. リクルートさんのような大企業でグロースハックチームというのは何人くらいいるのでしょうか?
A. メンバーは、サービスを日々成長させることに自信を持ちつつ、今のサービスが正解とは考えておらず、担当の企画者だけでなく、開発者も含めた全員がサービスを成長させていくことに意識を高く持っています。そういった意味では、全員がグロースハッカーなのかなと僕は思っています。専属の誰かというのではなく、サービスを成長させていくという観点において、メンバー全員がグロースハッカーということです。
これが答えになっているのか分かりませんが、人数としてはけっこう大勢いると思ってください。(林)
Q11:直帰率の見方
Q. ページによると思いますが、運営しているWebサイトの直帰率はだいたい何パーセントですか?
A. そうですね。一概には何とも言えない数字なんですけれども、直帰率は50%を超えると何かしらの問題があるんじゃないかと考えます。ユーザーに対して訴求しているもの(情報)が、ニーズと違ってきているじゃないかと。直帰率を改善すべきページ、改善の余地があるページを判断するときの線引きには、直帰率50%を使っています。
逆に、直帰率10%のところをいかに変えても結果はなかなか出ません。やはり50%が線引きですね。(林)