「こだわり駆動開発」で実現した「一太郎」のもの書き向け機能
続いては一太郎開発リーダーの岡美香氏が登壇し、こだわり駆動開発の事例を紹介した。
2017年2月3日に発売された「一太郎2017」で話題を呼んでいる機能がある。それが「もの書き」向けの強化機能である。以前から「作家さんのための機能を開発したかった」と岡氏は語る。世界的に人気のライトノベル作品の中にも一太郎によって書かれたものがあるなど、作家に愛されてきたソフトウェアだということがその理由に挙げられる。それを踏まえ、岡氏は「自分たちが作っているモノの役割や重さを再認識し、さらなる機能強化のために何ができるか考えるようになった」という。
一太郎の開発チームは市場調査のため、エンジニア自らインターネットで情報を収集している。特にTwitterはユーザーの生の声をリアルタイムに確認することができるため、「どのような使い方をしているか」ということや「求めている機能」をチェックするのに適したツールだという。そして、地道な情報収集活動を数年続けていくうちに、コンスタントにツイートする層が分かってきた。それはプロの作家やその予備群、および同人誌を作って楽しむ方などの、もの書きと呼ばれる人たちの層だった。
とはいえ、もの書きマーケットの規模は未知数だ。そこで市場規模を調査したところ、「プロの作家だけでなくアマチュアで活動している人々も含めると、想像以上にターゲット数が多いのではないか」という結論が出た。ジャストシステムのチャレンジしやすい環境も幸いして開発のゴーサインが下り、こだわり駆動開発が始まった。
岡氏はまず、さまざまな現場に自ら足を運んだ。その一つが同人誌の即売会である。そこで、「足を踏み入れた瞬間、熱を感じた。市場のポテンシャルを実感した」という。実際の現場に赴くことで、冷静に印刷物や文章のスタイル、ターゲットの声などを確認し、技術的要件も把握することができた。さらに、同人誌即売会では人気マンガやアニメの二次創作がたくさん販売されているため、岡氏はそれらの作品を研究した。これもこだわり駆動開発の一環で、ターゲットの理解を深めることに役立った。
さらにチーム内で分担し、作家へのヒアリングをエンジニアが自ら行った。そのための準備として著書は必ず読んだ。これは礼儀でもあるが、緻密なヒアリングをするためでもある。ひとことで小説といっても、文体や言葉の使い方が全く異なる。作品の特徴を把握することで、スムーズなヒアリングを行うことができた。
「今回、多くのライトノベル作品に触れたが、ページをめくった瞬間に新機能のニオイがプンプンした」と、岡氏は語る。会話文や記号を多用するなど、通常の小説に比べて文体に特徴がある。さらにアウトプット形態の違いだけでなく、小説投稿、電子書籍など活動のタイプが異なるだけでも求められる要件が異なる。「例えばWebサイトへ小説を投稿する方なら、ふりがなの括弧を展開する機能が購入の動機になる。どうしてもほしい機能が一つでもあれば、お客さまに使っていただける」という。このように要件を整理した結果、もの書き層へ響く機能を網羅的に用意することができ、反響を呼んだ。こだわり駆動開発とは「ターゲットの要求に応えるため、開発者のこだわりを駆動力として、できることをすべてやりぬく」ことなのだ。
最後に宮崎氏が次のように会場に呼びかけ、セッションを締めくくった。
「『訴求ファースト』と『こだわり駆動開発』は当社こだわりの提案型自社商品開発手法である。自分のミッションの大小にかかわらず、適用できる場所はきっとある。ぜひ、取り組んでみてほしい」
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