黙読し内容をつかみ、同じパート同士で理解を深める
「では各自読み込んでみてください」という和智氏の言葉で、みな手元にあるパートを読み始めた。赤線を引いたり、何か書き込んだりと、読み方はそれぞれだ。「読み終わった方は自分の経験と重ねて整理してみてください」「疑問があってもよいので、自分の受け止め方を大事にしてください」と和智氏が呼びかけると、資料から目を離して、考えを巡らせている様子の参加者も見受けられた。
約8分間の黙読タイムが終わると、和智氏が「それぞれ感じたことがあるかと思います。同じパートを読んだ人同士、横の列の3人で話し合ってみてください」と声をかけ、ディスカッションの時間に入る。「まずはお互い目を合わせてみていただいて」と促されると、少し照れた様子の参加者たちだったが、読み込んだ直後で意見がわき上がってくるのか、すぐに議論は白熱した。
議論の方向性はさまざまだ。改めて文章の認識をすり合わせるグループがあれば、自分の会社内でのチーム運営と重ねて話すグループもある。Bのパート「図解力を磨く」を読んだあるグループでは、会場を巡っていた和智氏に「図を描くこととはあるけど、(Bパートに)書いてあるような図形を描いたことはなかった。慣れるまでにコツが必要になりますよね」と、実践と重ね合わせた感想を話す様子も見られた。各グループそれぞれの形で、自身の中に落とし込めたようだ。10分の制限時間を目いっぱい使ったところで、議論はいったん締められた。
和智氏は、議論を終えた参加者に、「同じパートを読んだ方同士、意見を交換できたでしょうか。読んだパートに関して『こういうものだ』といったことが、ご自身の中で固まっていればよいかと思います」と話し、ワークショップは次のステップへと進んだ。
別のパートを読んだ人同士の議論で「あるある」が続出
ここからが今回のワークショップの肝となる、「異なるパートを読んだ人同士でのディスカッション」だ。
今度は縦の列で3人ずつのグループを作るのだが、長机に座ったままではコミュニケーションがとりづらい。そこで和智氏が、「一度立ち上がっていただいて、各グループ場所を見つけてみてください。スタンドアップミーティングの気持ちで」と誘導した。若干の戸惑いを見せつつも、立ち上がって場所を決めると自然とグループが和む。リラックスした雰囲気のまま、ディスカッションがスタートした。
初めは、話す順番や、どのように共有していくか、手探りのグループがほとんどだ。1人ずつ順番に自分のパートについて説明し、それを他の2人が一通り真剣に聞く構図が多い。説明の間に質問をぶつけたり、メモを取ったりすることで、他のパートの理解を深めるなど、アウトプット重視のジグソー法らしい様子が印象的だった。また、1人が話し終えると「○○ということですよね?」と確認し、理解を確実にしているグループが多かった。全員の共有を終えると、包括的なチーム運営の話が自然と始まる。リーダーとして、あるいはメンバーとしての実際の経験を踏まえて、盛り上がる様子が各所で見られた。
リーダーはメンバーとしての立場で働く人の、メンバーはリーダーを務めている人の意見に興味を示していた。普段職場では聞けない、異なる立場からの視点に、互いに関心を抱いている様子。またそれ以上に盛り上がりの要因となったのは、どの会社もチーム運営において、何かしらの問題を抱えているという「共通項」である。この共通項を持った参加者たちが、書籍からの知識を共有して、「確かに自社でこういうことはやってこなかった」「この方法はうちのチームに効果がありそう」といった具合に、自分事に置き換えて話し合うことで、有意義なディスカッションができていた。
また、エンジニア向けのイベントに集まっている者ならではなのか、業界内の有名人や新しい技術の話を始めているグループも見られた。10分のディスカッションタイムを過ぎても話が尽きない様子の参加者たちは、和智氏の呼びかけで惜しみながら3ステップ目を終了した。
「月曜日からのお仕事に、持って帰れるものが残ったでしょうか? 皆さんが積極的に熱い議論をしてくださってうれしかったです。今日得たものを、仕事に生かしていただければと思います」
和智氏はこう語り、セッションを終了した。
リーダーもメンバーも、明日からどう動くか――参加者の声
今回のワークショップで、何を得たか、またそれが今後の仕事にどう生かせそうか、ワークショップを終えた参加者に聞いた。
この本のことは知らず、「ワークショップ」という言葉にひかれて参加した女性は、「今回のワークショップでは、ある程度経験を重ねてきたリーダーにとっては、頭の整理や、知らない方とのコミュニケーションに刺激をもらえた点で有意義だったと思う。一方で、メンバーや、サブリーダーになったばかりの若手にも、『これを読むともっと楽しく仕事できる』『これだけ読んでおけば』と勧めて、ヒントを与えられる本だと気づいた。リーダーが理解しているだけではなく、『こういう指針で進んでいくんだよ』といったことを、チームメンバーに伝えておかないと意味がない。そんなことを考え直す機会になった」と話し、満足した表情だった。
また、職場でリーダーの立場にいるという男性は、「社外研修にはときどき行くが、こういった読書会ワークショップは初めて。若いメンバーの、『どうせ言っても仕方ない』や『言いたくない』を変えるきっかけになる本だと感じた」と語り、普段チームメンバーとして動いているという女性は、「ほかの方が言った意見や、共有されたテキストの内容に関して、『うちでもあるある!』と共感することで、初対面の方とも簡単に打ち解けられた。他社も同じような問題を抱えていると感じた。また、自分は今メンバーの立場にいるが、リーダーの視点からの解釈を聞けたのは良かった。グループ内に同じ会社の人もいたが、あまり話しづらさはなかった」と話した。
リーダーもメンバーもそれぞれの立場で、自身の仕事に還元できるものが得られたようだ。