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インターネットとWebはどのような役割を担うのか ~HTML5 Conference基調講演レポート

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2017/11/13 14:00

 2017年9月24日、Web技術者の祭典、HTML5 Conferenceが東京電機大学 千住キャンパスで開催され、“We can do anything on the Web”をテーマに多くのセッションが行われた。基調講演では、html5j代表の吉川徹氏が冒頭のあいさつでHTML5の経緯を振り返り、「HTML5と冠する最後のカンファレンスになるかもしれない」と節目を迎えていることを示唆した。続いて行われた、慶應義塾大学環境情報学部長・教授 村井純氏、Microsoft Windows、Google Chromeなどの開発に従事した及川卓也氏の講演内容をレポートする。

目次

インターネットが担う役割を8つの原理から考える

慶應義塾大学環境情報学部長・教授 村井純氏
慶應義塾大学環境情報学部長・教授 村井純氏

Internet for 2050~2050年に向けてインターネットは何をすべきか

 「Webとインターネットにはどのような関係があるか? Webばかりでインターネットのことを忘れてはいないか?」と、村井氏は会場に向かって問いかけた。

 「Internet for 2050」は、インターネット関連技術の長期的な方向性を見すえる組織IAB(Internet Architecture Board)で村井氏が行った講演のタイトルだ。2050年に向けてインターネットは何をすべきかを議論したものである。

 村井氏が創設したWIDEプロジェクトは、2018年で30周年を迎える。そして、13のRoot DNSサーバの1つ、M-Root DNSサーバの運用を、WIDEが開始してから今年で20年だ。Root DNSサーバの運用は営利目的で行われるものではないが、報酬を渡すべきではないかとの議論が沸き上がっており、村井氏はこれに真っ向から異を唱えている。DNSサーバが動かなければ、Webは動かない。13のRoot DNSサーバはそれぞれ別々の運用者によって管理されているが、ここに金銭が絡むと中央集権的な管理体制にシフトするおそれがある。こういった問題はステークホルダーが決めるべきだと、村井氏は主張する。Root DNSサーバが動くことで一番恩恵を受けているのは、誰あろうWebに関わる人たちなのだ。この点が忘れられがちなのではないか、と村井氏は呼びかけた。

 日本では、すべての国民がインターネットを使えるようにしようという理念のもと、2000年11月にIT基本法が制定された。ITの成果を享受するために高度ネットワーク社会の確立を目指したものだ。2014年には、セキュリティを推進するためのサイバーセキュリティ基本法が成立。そして2016年には、官民が保有するデータを誰もが利活用できるようにすることを目的に官民データ活用推進基本法が制定されている。同法が適用されるデータとは、オープンデータを含め、WebのアーキテクチャをベースにWeb上で動き、利用されるデータである。

 また、内閣総理大臣、科学技術政策担当大臣が主導する総合科学技術・イノベーション会議では、官民研究開発投資拡大プログラムが決定。政府研究開発投資の総額は約26兆円規模となるが、検討するターゲット領域には基盤技術としてセキュリティ、ネットワーク、OSも含まれていることに注目したい。

ターゲット領域検討に向けた全体俯瞰図
ターゲット領域検討に向けた全体俯瞰図(内閣府ホームページより)

「俺にとってのインターネット(Principles of the Internet to me)」

 続いて、村井氏自身が考える、インターネットの8つの原理を披露した。

1. The Internet is the internet, not internet.
インターネットはインターネットで(定冠詞が付かない=一般的な)インターネットではない。

 定冠詞(the)が前に付くと「地球で唯一の」という意味。Netのように頭文字が大文字になる場合も同様。TCP/IPですべてがつながっている環境を作っているのがインターネットであり、唯一無二のものである。グローバル標準であり、分断すべきではない。

2. Single platform for the global computing.
全部の計算機資源はインターネットで最適利用できる。
 スマートフォンで写真を撮影すると、自動でネットワーク上のどこかに保存されるので、高精細でサイズの大きい写真でも、ストレージを確保しなければとの意識は薄くなりつつある。ネットワークは、日本で使っている限り、遅いと感じることも減ってきている。コンピュータリソースを最適に利用できるようにしたい。

3. Ideal platform for sophisticated distributed systems.
洗練された分散処理の理想の基盤であるべきだ。

 WIDEプロジェクトは、地球規模の分散処理基盤を作ることを課題の1つとしている。Web 2.0では、サーバとクライアントの分散処理をWebのアーキテクチャで実現した。今後、こういった理想の分散処理基盤をどのように作れるだろうか。

4. Moore type requirements on computing and processing.
計算速度と量に対する要求はムーアの法則どころじゃない。際限ない。

 AI利用の増大に伴い、計算量はますます増えていく。CPUの最適な配分やプロセスの移譲は今までOSが担当していた世界だが、Webのプラットフォームで並列処理を最適化できたら最強ではないだろうか。

5. Infinity digital data traffic.
インターネット上のデータ量は無限に増えると考えるべきだ。

 データ量が多いと問題が発生したときの対応が大変になる。圧縮なども必要になるだろう。データ量に際限がないと考え、設計することが大事である。

6. Redundant path, backup, contingency system.
経路の冗長性,資源の補完性,その切替の判断がインターネットの命だ。

 Root DNSサーバはそれぞれ独自の方法で運用されている。もし、同じ方法ならバグが発生すると、困った事態に陥るだろう。中央集権的に制御するようなシステムは危ない。

7. Solid and flexible distributed system for operations.
分散した協調運用が神。安定して、柔軟な運用は分散システムとしてのみ可能。

 システムを設計して作成し、動かすことでビジネスができる。ただし、24時間×7日間動かし続けることは大変である。2011年、東北のケーブルがダウンしたときには、別会社が協力して米国との通信トラフィックをさばいた。敵も味方もなく、「停止しない」ことに合意し、分散して協調運用することが重要。

8. Secure the network system, not users.
システムを守ろう。人を守るのは社会がやる。

 人を守るには、人が何をやっているかパケットの内容をチェックしたり、高度な暗号化を導入したりといったことが必要だ。結果としてシステムに高いコストがかかり、人が使えなくなることもある。システムの仕様に合意して人を守るのは社会の役割。インフラエンジニアはシステムを守ることが大事。

 最後に村井氏は、スペースシャトルから撮影した夜の地球が、昼間のように明るい様子を映して、地球はテクノロジーで支えられていると話した。「Web is the environment of the planet(Webが地球の環境なんだ)」と9番目の原理を紹介して講演を締めくくった。


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著者プロフィール

  • 坂井 直美(サカイ ナオミ)

    SE、通信教育講座の編集、IT系出版社の書籍編集を経てフリーランスへ。IT分野で原稿を書いたり編集したり翻訳したり。

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