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現場に即した問題解決能力の育成に特化した「アドバンス・トップエスイーコース」――受講者に聞くカリキュラムの実際とその魅力

高度IT人材を育成する産学連携の架け橋「トップエスイー」 第5回

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2017/12/05 14:00

 国立情報学研究所が実施している社会人エンジニア向けの教育プログラム「トップエスイー」では、2017年度より従来の「トップエスイーコース」に加えて、より現場に即した課題解決能力を持つエンジニアの育成と最先端技術の習得を目指した新コース「アドバンス・トップエスイーコース」を新設した。実際に、この「アドバンス・トップエスイーコース」で研究に取り組んできた受講生に、新コースでの受講の進め方や、カリキュラムについて話を聞いた。

目次

はじめに

 近年、ビジネスの分野において「デジタルトランスフォーメーション」「ビジネス・デジタライゼーション」といった言葉が関心を集めている。企業が国際的な競争力を高め、生き残りを図るために、ITをベースとしたビジネス変革が重要な経営課題となっているからだ。

 ビジネス変革を推し進めていくにあたって、多くの企業で求められているのが、ITに関わる最新の技術や知見を、現場での課題解決に生かせる優れたエンジニアである。また、企業だけでなく個々のエンジニアにとっても、先端技術に関する知識やスキルを身につけることは、これからの時代に自らのキャリアを高めていく際の必須要件となりつつある。

 このような問題意識を持つ企業やエンジニアに向けて、ソフトウェア工学の基礎技術や最先端技術に関する知識を身につける機会を提供しているのが、国立情報学研究所、GRACEセンター(先端ソフトウェア工学・国際研究センター)が提供している教育プログラム「トップエスイー」である。

 トップエスイーでは「講義」「修了制作」などのカリキュラムを通じて、過去12年にわたり約400名の修了生を輩出してきた。そのIT人材育成に対する実績から、平成24年度の文部科学大臣賞も受賞している。

 また、2017年4月よりスタートした「第12期」では、より難度の高い課題を最先端の技術を駆使して解決できる能力を備えた人材(スーパーアーキテクト)の育成を目指した「アドバンス・トップエスイーコース」を新設。その受講生は、自ら設定したテーマを約1年にわたって取り組み、解決と現場への適用を目指す。

 今回、この「アドバンス・トップエスイーコース」の受講生と講師陣に、同コースの内容や魅力などについて話を聞いた。

高い問題解決能力を持つ技術者の育成に特化した「アドバンス・トップエスイーコース」

――今回は「アドバンス・トップエスイーコース」の受講生である百足さんと、その指導にあたられている先生方にお話を伺います。まずは自己紹介をお願いします。

百足:富士通の百足と申します。沼津の事業所に勤務していて、スーパーコンピュータなどHPC(ハイ・パフォーマンス・コンピューティング)関連製品のソフトウェア検証が主な業務です。2017年度の「アドバンス・トップエスイーコース」を受講しており、私の業務に関連した、ソフトウェア品質の向上に関するテーマに取り組んでいます。

富士通株式会社 共通ソフトウェア開発技術本部 ソフトウェア検証統括部 第一ソフトウェア品質検証部 百足勇人氏
富士通株式会社 共通ソフトウェア開発技術本部 ソフトウェア検証統括部 第一ソフトウェア品質検証部 百足勇人氏

:国立情報学研究所の鄭と申します。研究としてはソフトウェア工学を中心にやっており、特にソフトウェア・アーキテクチャ、モデル駆動開発など、ソフトウェアに対する要求から、どのようにシステムを作り上げていくか、その品質をどう保証するかといったことに取り組んでいます。トップエスイーでは、講義や受講生の指導を行う教官としての役割と同時に、全体のカリキュラムをどう設計していくかにも関わっています。

国立情報学研究所 NIIアーキテクチャ科学研究系 准教授 博士(工学) 鄭顕志氏
国立情報学研究所 NIIアーキテクチャ科学研究系 准教授 博士(工学) 鄭顕志氏

坂本:国立情報学研究所の坂本です。トップエスイーでは、主に「ビックデータ」に関連した講義をいくつか担当しています。また、百足さんをはじめ、「アドバンス・トップエスイーコース」の何人かの受講生の担当をさせていただいてます。

国立情報学研究所 NIIアーキテクチャ科学研究系 助教 博士(工学) 坂本一憲氏
国立情報学研究所 NIIアーキテクチャ科学研究系 助教 博士(工学) 坂本一憲氏

――どうぞよろしくお願いいたします。ここで改めて「アドバンス・トップエスイーコース」について、従来の「トップエスイーコース」との違い、特色について、ご説明をいただけますか。

:「トップエスイー」では、これまで12年にわたってプログラムを提供してきましたが、「アドバンス・トップエスイーコース」は、2017年度に新たなコースとして設けられたものです。

 従来の「トップエスイーコース」は、「サイエンスによる知的ものづくり」というコンセプトを掲げ、人海戦術、カンや経験ではなく、コンピュータサイエンスやソフトウェア工学に基づいて、ソフトウェア開発を行える人材の育成を目指して展開してきました。

 カリキュラムとしては、ソフトウェア開発のための基礎的な理論、あるいは先端の技術を学べる「講義」をベースに、まずは多くの開発現場で求められている「モデリング」の能力を育成します。それに加えて、講義で得た知識を元に、「修了制作」を通じて、現場に存在する課題を見つけ出し、解決する能力を身につけてもらうことを目指していました。講義での単位修得と「修了制作」における審査会に合格することが、修了の要件となっていました。(※注1

注1:2017年度より、「アドバイス・トップエスイーコース」と、「トップエスイーコース」が併設されました。トップエスイーコースでは、講義に加えて「修了制作」を発展継承した「ソフトウェア開発実践演習」を行うことが修了要件となっています。

 新設された「アドバンス・トップエスイーコース」は、その中でも特に開発現場で求められる「問題解決能力」の育成にフォーカスしたコースです。修了要件としては「プロフェッショナルスタディ」と「最先端ソフトウェア工学ゼミ」を受講し、審査に合格することが求められます。

 「プロフェッショナルスタディ」は、従来のトップエスイーコースにおいて、約3カ月間で実施していた「修了制作」を、1年間かけて行うものになります。受講者が日ごろ業務を行っている現場に、どのような課題があるのかを見つけ出し、その解決につながるツールの開発や方法論の整備、効果の検証などに、時間をかけてじっくりと取り組むことができます。

 もうひとつの柱である「最先端ソフトウェア工学ゼミ」は、登場して間もない最先端の技術や課題に取り組む、ゼミ形式のプログラムです。ソフトウェア開発の現場には、新しい技術や考え方が次々と登場し、それに付随する新たな課題も生まれます。例えば、ブロックチェーンやマシンラーニングといった技術が、急速に発達し、既に開発現場にも入り始めているという状況があります。こうした新たな技術は、登場してからの歴史が浅いものが多く、技術そのものが進化の過程にあったり、活用の方法論が定まっていなかったりすることがほとんどです。

 「最先端ソフトウェア工学ゼミ」では、そのような先端技術の中でも、同じトピックに関心を持つ人が集まり、共同で調査を行ったり、最新のツールを使ってみたりすることで、現場での活用を進める方法を考えるコミュニティを提供します。

 もちろん「アドバンス・トップエスイーコース」においても、従来の「トップエスイーコース」と同様に、開講されている講義を受講することができますが、講義については必須の修了要件ではありません。

「トップエスイーコース」と「アドバンス・トップエスイーコース」それぞれのカリキュラム
「トップエスイーコース」と「アドバンス・トップエスイーコース」それぞれのカリキュラム

――ありがとうございます。そもそも、こうした内容で「アドバンス・トップエスイーコース」を新設した理由は何なのでしょうか。

:「トップエスイー」は、これまで多くの方に受講していただきましたが、修了生へのヒアリングなどを通じて、スタート当初に比べ、受講生がトップエスイーに求めることが二分化してきていると感じていました。

 ひとつは、現場でそれなりの長い期間、開発に携わってきたけれども、いわゆる「ソフトウェア工学」について体系的に学んだ経験がない方が、基礎的な部分をしっかりと学び直したいというニーズ。もうひとつは、既に現場で明確に問題意識を感じていて、そこに潜む課題、解決策を見つけ出すために学びたいというニーズです。

 従来のトップエスイーコースでは、具体的な課題解決のための取り組みを「修了制作」の中で、約3カ月をかけて行っていたのですが、それに重点的に取り組みたい受講生からは「3カ月では期間が短すぎる。やり残しも多く出てしまった」という声が出ていたのです。

 今回、アドバンス・トップエスイーコースを設置したのには、ゴールの異なる2つのタイプの受講生が、どちらとも満足できるようなカリキュラムを提供したいという意図があります。従来のコースでは「ソフトウェア工学をしっかり身につける」、アドバンス・トップエスイーコースでは「課題解決のための調査、研究、開発、検証に時間をかけて取り組み、成果を出す」ことを、それぞれに十分に行っていただけるよう編成しました。

――2017年度に「アドバンス・トップエスイーコース」を受講されている方に、傾向のようなものはありますか。

:募集をかけた当初は、企業でも「研究所」に所属するような方が多く受講されるのではないかと予想していたのですが、実際には「事業部門」から来てくださる方も多かったですね。背景としては、「AI」や「ビッグデータ」など、最先端のソフトウェア工学を現場で「活用」することを求められ、どう取り組めばいいのか悩ましい時代になってきているということがあると思います。ソフトウェア開発の現場を経験されている方を中心に、幅広い立場、年齢の方が受講しています。


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著者プロフィール

  • 高橋 美津(タカバシ ミツ)

    PCやネットといったIT分野を中心に、ビジネスやゲーム分野でも執筆を行うフリーランスライター。Windowsユーザー。

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