ディープラーニング開発の「ハイウェイ」となる独自フレームワーク「Neural Network Libraries」
ディープラーニングの開発を実践していこうという開発者に向けてソニーが提供しているのが「Neural Network Libraries」というオープンソースのフレームワークである。ソニーは初代AIBO(現名称:aibo)の時代からニューラルネットワークに注目しており、内部向けにはツールを作り続けていたというが、その三代目にあたる本フレームワークは満を持してオープン化したものだと成平氏は語る。そのコンセプトは、ディープラーニング開発の「ハイウェイ」であると表現し、研究開発における面倒な要素を徹底的に排除するもので、最先端研究や商用レベルに耐えうる高い開発効率を実現するフレームワークであるとした。
Neural Network Librariesは既に多くの実用化がなされているといい、公開可能事例として紹介されたのは以下の三つである。
一つ目はソニー不動産における「価格推定」。ユーザーが間取り情報などを入力することで、中古マンションの売買における予想売却価格を出すサービスで、その予測にNeural Network Librariesを使っているという。この技術は「おうちダイレクト」や「物件探索マップ」、「自動査定」などのビジネスに活用されている。
二つ目は「ジェスチャー認識」。「Xperia Ear」というイヤホンでは、スマートフォンからの呼びかけ(「メールを読みますか?」など)に対し、首を縦や横に振るだけで回答できるヘッドジェスチャー認識機能を搭載している。この機器に搭載された加速度センサーやジャイロセンサーがそれを実現しているが、認識の仕組みをNeural Network Librariesが実現しているという。
三つめは「手書き認識」。ソニーのデジタルペーパー「DPT-RP1」には、手書きメモとともに「*」や「★」などのしるしをつけることで、検索時に素早く該当箇所を開くことができる。この手書き記号の認識を従来手法での開発で行うにはそれなりの労力がいるものだが、Neural Network Librariesにより容易に実現したそうだ。
また、詳細までは語られなかったものの、現aiboにもNeural Network Librariesは用いられており、鼻に埋め込まれたカメラによる人物の認識などに活用されていることが紹介された。
徹底的に敷居を下げた教育ツール「Neural Network Console」
セッションの場では、もう一つの無償公開ツールとして「Neural Network Console」というGUIツールが紹介された。エンジニア以外でも使える学習ツールとして社内向けに開発したものを社外公開したものだという。
ディープラーニングの開発者が大幅に不足している昨今、クラウドのように身近な存在として活用する上で避けて通れない「育成」という要素。その側面に特化し、使っているうちにいつの間にかディープラーニングのエキスパートになれるような、とことん敷居の低いツールを目指して作成された。
なお、Neural Network Consoleには2種類あり、ローカル環境で使えるWindows版の他にクラウド版も提供している。Windows版ではOSの制限や環境準備、メンテナンスなどの手間がかかってしまうが、クラウド版ではそれらが不要。また、膨大な演算が必要となるニューラルネットワークの学習では、複数個のGPUを用いることも珍しくないが、クラウドでは8個まで使用可能(有償)とし、最先端研究にも耐えうる環境を提供するという。
Neural Network Libraries / Consoleによって提案するキャリアの道筋
スタンドアロンで始められるWindows版と、環境準備などの面で手軽なクラウド版の2種類を用意したNeural Network Console。ユーザーの用途に合う選択肢を用意することで、とにかくまずは非ディープラーニング開発者やビジネス部門の人材など幅広い層に触れてもらう。そして、そこから徐々にNeural Network Librariesを用いた実装ができる開発者に移行し、最終的には業務におけるプロジェクトでの開発にまでつなげていく。そのような、入り口から実践までカバーすることを、この2つのソフトウェアで目指したという。
「破壊的テクノロジー」となるディープラーニングが、企業の資産価値を変えていく。そんな近未来に先駆けて、社内向けにNeural Network Libraries / Consoleを適用したソニーは、一足先に人材の育成から実用化までを実現している。変革への対応の一歩としてまずは一度試すところから始めてほしい、という思いを伝え、成平氏はセッションを結んだ。