プッシュ通知はビジネスシーンでも活用が始まっている
ユーザーがアプリやWebブラウザから離れていても、リアルタイムで情報を届けるための仕組み、プッシュ通知。スマホユーザー向けのサービスとして発展し、特にiOS10がリリースされて以降は、GIFアニメーションや動画、音楽などのコンテンツ付きのリッチプッシュが増加。マーケティングに活用される場面も増えている。もはやスマホアプリにおいて、プッシュ通知は欠かせない機能となっている。
プッシュ通知というと、B2Cのイメージが強いが、「最近はビジネスシーンでの活用が増えてきている」と伊藤氏は語る。その一例として伊藤氏が挙げたのが、鉄道乗務員向けのアプリにおける活用例だ。路線の中にはトンネルなど電波の弱いところもある。プッシュ通知ならいったん電波が途切れても、再度つながった時点ですぐに通知が届き、最新情報を逃すことがないため、利用されているという。
またもう1つの動向として、Webでもプッシュ通知が増えてきているという。「ニュースサイトで活用しているところも増えていますが、今後、いろいろなWebサイトはもちろん、Webシステムでの活用も広がると考えられる」と伊藤氏。玉川氏も「IaaSやSaaSなどの利用が増えるのに伴い、承認フローなど業務のお知らせなどに使われるケースが今後、増えていくと思います」と語る。
プッシュ通知の開発における課題
このように活用が広がるプッシュ通知だが、開発するには課題があるという。
「独自に実装する場合、問題になるのがエラー処理。エラーが発生した場合、成功したものを除いて再送したり、指数バックオフでリトライ間隔を延ばしていったりするのですが、さまざまなケースを考慮して実装するのに手間がかかり、実際には起こりづらいのでテストもしづらいです。たとえ実装ができても、サービス拡張によりプッシュ通知の件数が増えると、性能が足りなくなってしまうこともありますからね」(伊藤氏)
ASPサービスを使うといった手もあるが、「セキュリティに厳格な企業のアプリに実装する場合、使い勝手が悪い」と伊藤氏。というのも顧客のデータベースと連携してセグメントを切ろうとすると、APSサービスの機能とDBの整合性を合わせるために、余計な通信が必要になることがあるからだ。もちろんそれらを考慮したサービスも登場しているが、「基本的に、詳細なデータをお客さま自身が持っている場合は難しくなる」と伊藤氏は指摘する。
ASPサービスには、こういった柔軟性の問題だけではなく、コスト面でも課題がある。従量課金制を採用しているものがほとんどなので、ユーザー数が増えていくに従い、課金額が上がってしまうからだ。「スピード面でも費用面でもASPサービスだとお客さまのニーズを満たすのは難しいのでは」と玉川氏も指摘する。
「BoltzEngine」が柔軟な実装を可能にする
このような、ASPサービスが持つ課題を解消するソリューションが、フェンリルが提供するプッシュ通知エンジン「BoltzEngine」である。同エンジンの元となったのは、生放送連動アプリ向けにつくられたプッシュ通知である。
「決まった時間に大量のユーザーに通知を送るという厳しい条件がありました。ASPサービスや既成のライブラリではその条件を満たすことができず、新たに開発したのです。BoltzEngineはそのプッシュ通知をより多くのお客さまに使ってもらえるよう、汎用性を高めたものです」(伊藤氏)
生放送連動アプリ向けのプッシュ通知の開発が始まったのは2013年。当時はまだめずらしいGo言語を採用した。採用理由について、「並列処理に長けている言語だったので」と伊藤氏。製品化したのは2015年。より幅広いエンジニアに使ってもらえるよう、gRPCやREST APIのインターフェイスも用意。さまざまなアプリ、サイトで利用されるなど、十分な実績を持つ。