オープンソースがこの10年で変わったこと
最後に、大きくオープンソースがこの10年間でどう変化してきたかが語られた。まずは今年のレポートより、オープンソースのコントリビューターの多かった企業を発表した。トップはマイクロソフトだ。これについて、「5年前には予想していなかった結果」とO'Grady氏。
Filippova氏は、「大手テック企業からのコントリビューションは年々増えている」と話し、企業が一部のスタックをオープンソース化するトレンドがあるとした。
例えば今年は、Facebookが開発したJavaScriptのUI作成のためのライブラリ「React.js」の人気が出た。また、Visual Studio Codeもマイクロソフトによってオープンソース化されている。O'Grady氏は、多くの企業がオープンソースのメリットに気づきはじめている現状を明らかにした。
「かつて、自社のソフトウェアはクローズにしておく方がオープンソース化するよりも利益があがりました。今は、多くの企業がコミュニティから提供されるバグ修正やパッチなどに価値を感じている。現在はオープンにしていることの方が、クローズにするより価値がある」
これに同意したFilippova氏は、加えて、「採用にも有効であるという点も重要。ツールに既に親しんでいる開発者は簡単に(開発に)参画できるし、(企業に)とどまりやすいでしょう」と企業がオープンソース化を進める利点を説明した。
テクノロジーの成長とオープンソースの成長には関連性があるのだろうか。O'Grady氏は、オープンソースで「開発コストをシェアすることができる」と話す。
「企業は同じものを再度開発せずに済み、その時間を新規プロジェクトなど別のことに割ける。そしてそのプロジェクトの多くがオープンソースとしてリリースされる」(O'Grady氏)
さらに、このサイクルが今や世界中に広がっていることは、このレポート(The State of the Octoverse)からも分かる通りで、「テクノロジー業界の成長とオープンソースコミュニティの成長には密接な関係があると考えている」と見解を示した。
「今日の分析で、GitHub上でのみなさんの仕事が、世界の開発トレンドを密接に映し出しているということが分かった。オープンソースというのはそれだけでなく、今日のテクノロジーの革新を動かしていて、それはまさにGitHub上で起きています。次の10年もおもしろくなるでしょう」
このように総括し、セッションを締めくくった。
オープンソースによって、コミュニティは世界中に広がっている――Anna Filippova氏インタビュー
――まず、今回のThe State of the Octoverseのポイントを教えてください。
セッションでもお話しした通り、10周年のThe State of the Octoverseは少し特別です。今回のレポートには、4つの興味深い事柄があると思っています。まず、GitHubのプラットフォームの成長、その速さ。これまでで最も速い成長を見せた1年間でした。この1年間で増えた新規ユーザーの数は、最初の6年間のユーザー数よりも多かったのです。うれしいことに、多くの新規ユーザーが日本からも来ています。
2つ目に、われわれのプラットフォームがより国際化していること。日本のユーザーが増えているように、世界中から新しいユーザーが参加していて、80%のユーザーがアメリカ以外から来ています。日本はその中でもコントリビューターの数が8位とトップランキングの中に入っています。これは、新規のユーザーだけでなく、既にGitHubを基本として使っている強力なユーザーがいるということです。
また、開発者がさまざまな新しいツールに興味を持っていることも分かりました。トレンドとしては、異なる種類の既存のスタックに対して相互運用性を持ったツールが注目されています。例えば、TypeScriptやKotlin、Rustが人気です。これらを使うことでどんな開発者でも、メモリを管理し型安全性を維持した、最も効率の良い開発を目指せるからです。さらにこれは、新人開発者にとって、大きなコミュニティに参加しはじめる良い方法でもあります。
そして、オープンソースが非常に国際的に成長していることにも気づかされました。より多くのプロジェクトが世界中から集まっているだけでなく、例えばTypeScriptのように、異なる国々から多くの開発者がコントリビュートしています。このトレンドは新人の開発者にとって興味深いでしょう。なぜなら彼らは(開発を)一から始める必要はないということを意味するからです。既にある多様なコミュニティに参加するのが良い方法です。
――The State of the Octoverseの中には、優れたオープンソースプロジェクトを選出した「Cool new open source projects」といった項目もありました。これらのプロジェクトが選ばれた基準は何でしょうか。
私たちは、今年(2018年10月までの1年間)のオープンソースプロジェクトをチェックしました。つまり、直近の1年間で作られたプロジェクトか、もしくは少し前に作られたものでここ1年間でオープンソース化されたものなどです。
そして、プロジェクトの発表またはオープンソース化から2週間以内で、ユーザーからどれだけスターを獲得したか、その数を基準にトップ10を抽出します。その中から興味深いプロジェクトをピックアップしました。
ただし、スターは完璧な基準にはならないと考え、ランキングを付けて発表することはしませんでした。
――今回のThe State of the Octoverseを踏まえると、今後開発者はどういったことに注力すべきでしょうか。
新人の開発者にとってもそうでない開発者にとっても、最もわくわくするのは、既存のインフラで動かせる、新しいツールを学ぶことだと思います。
なので、The State of the Octoverseで紹介した言語のトレンドなどに注目することや、オープンソースに参加することは重要です。そこでたくさんのイノベーションが起こっているからです。また、自分たちの外のコミュニティを知る良い機会になるうえ、コミュニティは世界中に広がっているので、国際的なチャンスにもなります。
――最後に、今回のThe State of the Octoverseについて総括をお願いします。
今回、10年間のデータを振り返り、発表したことで、それらが業界全体の移り変わりを反映していると分かったのはおもしろかったです。
私はこれをいくつかの理由から重要だと考えています。まず、GitHubは、全ての開発者が活動している場所であるということ。なので、開発者によるアクティビティが起きるのもここだということです。全ての開発トレンドをこのGitHubという場所で確認することができます。
また、もう1つには、オープンソースの活動場所だということがあります。私たちが目にするオープンソースは、どんどん今日の技術のイノベーションを加速させるでしょう。これもGitHubの中で起きています。
今回の発表はこれからの開発者にとっても、わくわくするものだったのではないかと思っています。次の10年が楽しみです。
――Filippovaさん、ありがとうございました。