急速に普及するPython――その魅力を最大化するフィロソフィー「Pythonic」の普及こそ必要
一般社団法人Pythonエンジニア育成推進協会の吉政氏は、マーケティングコンサルティングの会社を経営する傍ら、Pythonエンジニア認定試験だけでなく、PHP試験、徳丸試験、Rails試験、ヤマハネットワーク機器の検定などを運営している。吉政氏は「過去にはLinuxやXMLの試験も立ち上げたこともあります。試験が大好きというわけでなく、プロダクトや言語の普及には教育が大事なのです。マーケティングの一環で、いろいろな試験を担当させていただきました」と説明した。
同じく登壇した顧問理事の寺田氏は、Pythonを使ったシステム構築・コンサルティングを行う、株式会社CMSコミュニケーションズの代表でありPythonエンジニアだ。「オープンソースの考え方やコミュニティが好きで、一般社団法人PyCon JPの法人の代表理事を務めています。Pythonエンジニア育成推進協会では試験問題およびコミュニティ連携を担当しています」と寺田氏。
セッションではまず、吉政氏によるPythonの市場動向に関する話題が展開された。Pythonエンジニア育成推進協会が提供する基礎試験は、開始から2年1カ月で5000名が受験。吉政氏は「IT関連の資格試験の受験者数は、1~2年目の受験者は数百名で、最初の数年間は普及に苦労します。それが最初から5000名というのは快挙かもしれません。『日経クロステック』の調査『今、どの資格を取るべきか』でも3位に選ばれました。社内で試験を実施するための稟議をあげる方は参考にしてください」と試験の成果について述べた。
また吉政氏は、求人広告におけるPython市場の盛り上がりを示すべく、求人サービス「Indeed」のデータを紹介した。2018年3月に9082件であったPythonに関する求人件数は2019年5月には2万2930件と、252%も増加。分野ではビックデータが10%、AIが25%、機械学習が19%、ネットワーク・サーバ系が36%となっている。給与分布としては300万円~400万円が35%、400万円~500万円が29%、500万円~600万円が19%、また雇用形態は正社員が73%というデータが示された。
このように活況のPython市場であるが、吉政氏はある懸念を示す。「Pythonエンジニアが共有しているフィロソフィーに『Pythonic(パイソニック)』というものがあります。これはPythonの作法を適切に使い、Pythonの力を最大限に引き出す、プログラミングフィロソフィーです。たくさん出ているPython書籍の中には、Pythonicに基づいていないものもあり、Pythonの魅力を引き出せないエンジニアが増えているのではと感じています。質の高いコードが提供されるよう、Pythonicを普及したいというのが当協会の設立の理由でもあります」と語った。
PythonicなPythonのコードとは、適切な作法で書かれており、読みやすさを重視することで保守性を担保するものである。一方、Pythonicでないコードは、たとえば別の言語の書き方を翻訳してきただけのような、ほかの人が理解しにくいものを指すという。
基礎試験、データ分析試験ともに参考書と出題範囲が公開され、対策コースも用意
続いては、Pythonicを正しく学んだ証となる、認定試験の具体的な内容について寺田氏より説明があった。現在提供している試験の文法基礎を問う「基礎試験」と、2020年春より実施予定の、データ分析の基礎や方法を問う「データ解析試験」がある。
基礎試験の出題範囲は、協会のサイトで明らかにされており、主に『Pythonチュートリアル 第3版』(オライリー・ジャパン)の基礎文法部分から出題される。
データ解析試験についても同様に出題範囲が公開されており、こちらは『Pythonによるあたらしいデータ分析の教科書』(翔泳社)から出題される。
いずれの試験も40問出題され、7割以上の正解で合格となる。受験料は各試験とも1万円、学割の場合が5000円(いずれも税抜)で、全国のオデッセイ コミュニケーションズ CBTテストセンターにて受験できる。
試験の概要説明のあと、寺田氏は各試験の例題をいくつか紹介した。
寺田氏は、「Pythonのコードを書いたり、『Pythonチュートリアル 第3版』を読んだりすると、基礎試験に関する情報が頭に入ってくるはずです。もし難しいと思った場合は、もう少し簡単な本から学ぶといいでしょう。逆に、チュートリアルよりも難しい本を読む必要はありません。中にはコードに関する試験もありますが、チュートリアルを何回か見直すと合格できるようになっています」と説明した。
データ分析試験では、数学に関する知識や、データ解析を支援する機能を提供するライブラリ「Pandas」などに関する知識も問われるとして、次のような例題が出された。
「『Pandasというツールの使い方を覚えてどうなるのか』と疑問に思う人もいるかと思いますが、手に馴染むということが大切だと思うので、こうした問題も出題しています。参考書だけの学習が難しい方には、研修などもあります」と寺田氏。
独学に不安がある場合は、協会認定のスクールにて試験対策コースを受講することが最も確実だという。吉政氏は「これから学ばれる方はちゃんと基本を習得するべきだと思っているので、Pythonicをマスターしている先生から学んでほしいです。スクールといっても座学ではなく、手を動かしてPython、Pythonicを理解していただくのが良いでしょう。それが合格への一番の近道です」と加えた。
試験の全出題はPythonicに基づいているため、Pythonicを理解する必要がある。寺田氏は「Pythonicに関しては以前からさまざまな議論が展開されていて、明確な定義があるわけではありません。しかしPythonを使って自分たちがコードを書くときに、ほかの人も見やすくてメンテナンスしやすい書き方があります。『PEP8』という、Pythonのコーディング規約などもそのひとつです。このような考え方に基づくものだと理解するといいでしょう」と説明した。
吉政氏は最後に「分析を必要としないシステムはあるでしょうか? 人工知能やAIは業務系のシステムにどんどん導入されていきます。その大半はPythonで展開されていますから、エンジニアとして知っておいて損はないはずです。そのうちPythonのスキルは持っていて当たり前の時代が来るでしょう。その際Pythonicに基づいてコードを書けるようになっていると、エンジニアとしての幅が広がると思います」と語り、セッションを終えた。
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