ワナその6「計画できないことを計画し過ぎてしまう」
旧来型の企業で、それなりに規模感のある新規事業を立ち上げようとする場合、事前に事業全体についての綿密な実行計画と予算案を立て、それぞれのフェーズで経営陣の「稟議」を受けながら、承認された内容に従って進めていくというのが一般的なやり方です。こうした「全体の計画が決まらないと始められない」「一度決まったことは変更しづらい」という企業文化は、新しいプロダクト作りを進める際の弊害になりがちです。
小野さんは「新しいプロダクトづくりにあたっては“Compass over maps”の考え方を組織に浸透させていくべき」だと言います。
「Compass over maps(地図よりもコンパス)」は、マサチューセッツ工科大学のメディアラボで良く使われている言葉です。その意味するところは「変化の早い時代において、目的地までの道のりが描かれた地図を用意しても、その内容はすぐに変わり、使えなくなってしまう。目的地の方角を常に指し示すコンパスを手にして道なき道を進もう」といったところです。
状況の変化が速いことに加え、「これまでにない価値」の提供を目指すプロダクトであればあるほど、前例がないぶん「実際に始めてみなければ分からない」不確実な要素がより多く存在します。その場合には、仮説を立て、プロトタイプを実際に世に出しながら、そのフィードバックから新たな仮説を立て、修正を行うというサイクルを短期間に繰り返しながらプロダクトの完成度を上げていきます。場合によっては、最初の仮説に基づいた計画を、早い段階で大きく見直す必要が出てくるかもしれません。
「スタートアップであれば“ピボット”と呼ばれるような計画変更は普通に行われていますよね。ただ、旧来の文化が深く根付いた企業では、稟議書として通ってしまった計画を後から変更するのには膨大なエネルギーがいります。新しいプロダクト作りを進める際には“Compass over maps”を念頭に置いて“計画変更”に対する心理的、組織的なハードルを下げておくことが重要だと思います」(小野さん)
もちろん、予算やリソースは無尽蔵ではありませんので、そのあたりのバランス感覚は必要です。同時に「ワナその5」で触れた「ステークホルダー間のコンセンサス」を通じて良い関係を維持することができていれば、計画変更の際のハードルもかなり下げることができるのではないでしょうか。
まとめ
前後編を通じて、企業がプロダクト作りで陥りがちな「ワナ」を回避するためには、「誰のどんな喜びに寄与するプロダクトを作るのかにすべての起点を置くこと」「組織に“HRTの原則”を浸透させること」の2本柱が重要だということが見えてきたのではないかと思います。
「プロダクト作りのための方法論や技術というのは、この2つの柱が土台にあって、はじめて高い効果を発揮するものです。逆に、それらが不十分な状態で方法論や技術に依存してしまうと、途中で頓挫したり、思ったような成果を出せなかったりといった不幸な結果を招くことが多いと感じています」(小野さん)
企業の規模や文化によって、プロダクト作りに立ちはだかる課題はさまざまでしょう。しかし、今回、小野さんが挙げた「6つのワナ」とその回避策は、現在プロダクト作りに携わっている、あるいは、今後携わることになる人々が共通して念頭に置いておくべき、有用な指針と言えるのではないでしょうか。
