GitLab 日本担当カントリーマネージャー 村上督(むらかみ ただし)氏
Citrix SystemsやAcronisなどの企業で経営幹部を務めるなど、テクノロジー分野に25年従事。複雑な販売情勢下におけるダイレクト販売や、収益性のあるパートナー関係構築のためのチャネル販売分野に精通しており、チーム作りのスペシャリスト。ワイン愛好家であり、週末には各国のワインを嗜む。
GitLab シニアソリューションアーキテクト(APJ) 伊藤俊廷(いとう としたか)氏
SIerでソフトウェア開発、プロジェクト管理、技術調査、海外勤務等の業務に従事し、自身でも新しい開発ツールの導入、組織の文化醸成の難しさを痛感した。その後、開発経験を活かし、アプリケーションセキュリティベンダーにて、セキュリティテストのソリューションを戦略顧客に導入する任務を担った。趣味はロッククライミング、ビデオゲーム、モーターサイクル。
GitLabが日本のDXを促進していく
GitLabはGitを使ったリポジトリサービスとして、近年、最も注目を集めているソリューションだ。そのGitLabが今年3月、日本法人、GitLab合同会社を設立した。
GitLabが米国で設立されたのは2011年。14年には法人化され、直近4年で50倍の成長を遂げており、2019年の経常収益は1億ドル。前年比に比べ、16%も増加している。この数字が表しているように、GitLabのオープンソース版のユーザーはワールドワイドで100万人規模。「日本でも約15万人いる」と村上氏は語る。
有償版のユーザー数も世界では80万人。まだ拠点ができたばかりの日本でも、すでに数万ものユーザーがおり、アカウントあたりの最大ユーザー数は4800と「すでにビジネスはできている。3月の発足時は(日本の顧客は)65社だったが、現在75社のお客さまがいる」と村上氏は胸を張る。有償版のユーザーは比較的大手が多いが、小さな規模の企業でも使われているという。
このタイミングで日本に本格参入した理由について村上氏は、「日本は世界における大きなIT市場として認知され、常に参入のタイミングを模索していた。むしろ遅いぐらいだった」と語る。
先述したように日本におけるGitLabのユーザーは15万人。すでにコミュニティも確立していた。このままでもビジネスを成り立たせることはできる。だがGitLabでは「デュアルフライホイール(2つの弾み車)」戦略を確立している。「コミュニティをサポートしてコントリビュートしてもらい、その機能を製品に反映させて有償版を購入していただき、その利益でまたコミュニティをサポートする。そういったサイクルを回していくには日本での組織を作る必要があった」と村上氏はその理由を語る。
そしてもう1つの大きな理由が、GitLabの活用を普及させることで、日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)を促進していくことである。「日本ではなかなかDXがうまくいかないのは、システムや仕組みをすべて明確にした上で、ウォーターフォール型のように作っていく企業文化が大きく影響していると思います。不確実なものを明確化しながら進めていくアジャイル開発に躊躇する上層部の考えを変える、その一助になりたい」と村上氏は意気込みを語る。
GitLabがDX達成の促進に役立つのには理由がある。GitLabは「運用効率」「開発生産性」「セキュリティ、コンプライアンスリスクの軽減」を訴求しているソリューションであり、「可視化」「効率化」「シフトレフト」を実現する。事実、GitLab社自身、DXを達成し、進化し続けているという。
単一のGUIでDevSecOpsのライフサイクル全体をカバー
下図を見ればわかるとおり、GitLabはソースコード管理はもちろん、プランニングから、CI/CD、テスト、セキュリティまでというDevSecOpsのライフサイクル全体をカバーするオールインワンのアプリケーションである。
現在、ソフトウェア開発の現場では、さまざまな開発ツールが使われている。米フォレスター・リサーチ社が行った調査によると、組織の78%が6種類以上のツールから成るツールチェーンを2つ以上使用しているという。
「プロジェクトごとにばらばらにツールを導入することで“ツールチェーンクライシス”が起こっている。そこにメスを入れるソリューション。単一GUI、単一データモデル、単一コードベース、単一認証と1つのツールに統一することで、運用効率も開発生産性も上げることができる」(村上氏)
例えばよく比較されるGitHubも「カバーする範囲を増やしているが、構成管理やログ監視、クラスター監視などの機能はまだ有していない」とシニア・ソリューション・アーキテクトの伊藤氏は指摘する。もちろん、他の専用ツールと比べて、現時点で足りない機能もある。だが、「GitLabでは毎月製品がリリースされており、年々、すごいスピードで製品の成熟度が上がっている」と村上氏は言い切る。
GitLabの製品開発のスピードを支えているのが、世界中のコントリビュータの存在である。「コードコントリビュータは4800人以上。コントリビュータ全体としては1万人以上います」と村上氏。
ミートアップも頻繁に開催。そこで「こんな製品がほしい」などのユーザーからのフィードバックが上がってくるという。それらのフィードバックの中から、現在のマーケットの需要を鑑み、「DevSecOpsのサイクルがサポートできるよう機能の開発を進めています」と伊藤氏は説明した。小さなバグがみつかれば、同社のエンジニアもしくはコントリビュータが随時、修正を行う。そういった体制が世界規模で整っていることも、GitLabの強みである。
実際、GitLabを導入した企業では、大きな成果を得ているという。例えばゴールドマンサックスは開発効率の改善、ソフトウェア品質の向上を目的にGitLabを導入。その結果、2週間に1ビルドの生成しかできなかったのが、1日で数千ビルド生成できるようになったという。また、あるソフトウェア企業ではGitLab導入により製品のリリースサイクルが26倍にスピードアップ、QAの効率化が120倍になったという企業もあるという。
その他の例として、デルタ航空では2年かけてインフラを、クラウドネイティブで柔軟性のあるアーキテクチャに刷新。その開発環境にGitLabを採用した。この成果により、デルタ航空のITマネジャーはDevOps Dozen 2019の年間最優秀DevOpsプラクティショナーに選ばれ、またGitLabも最高DevOpsソリューションプロバイダーに選ばれている。