「セゾンのお月玉」成功の裏には多様な人材
2つめのバイモーダルな事例は「セゾンのお月玉」。これはセゾンカードで500円以上利用した人に、毎月抽選で1万人に現金1万円をプレゼントするサービス。小野氏がクレディセゾンに参画して初めて企画・開発した。
当時のクレディセゾンには内製で開発できるエンジニアが一人もいなかったという。そこで小野氏は採用から始めた。自身のブログで採用の告知を行い、8人を採用した。「メンバーは非常に多様」と小野氏は笑う。唐突にマグロを釣りに出かけたりする自由奔放なエンジニアがいる一方で、安全・安心・確実を第一とするエンタープライズ系のエンジニアがいたり、またインドを放浪したら身ぐるみはがされた経験を持つエンジニアや、家族も友人も身近にいる人すべてがアーティストというデザイナー、東大医学部出身のデータサイエンティストのほか、アドバイザーにはネットゲームで小野氏のライバルだった人といった個性豊かなメンバーで構成されているという。
これら異なるスキル・経験を持つ人たちが「タスク型ダイバーシティで、お互いの能力を持ち寄り、お互いの短所を埋め合いながらプロダクトを開発したからこそ、採用からリリースまで約半年間で実現できた」と小野氏は言い切る。
同サービスはクラウドで開発しているが、決済のデータを見ることになるので、セキュリティや個人情報の保護が不可欠になる。またクラウドではない既存のデータセンターともつながないといけない。基幹システムと連携する場合は、要件定義からきちんとやらなければならないが、ベンチャー系のエンジニアをアサインしてしまうと「要件定義をする意味がわからない」とシステム部門の人たちにかみついてしまうことになる。そこでその部分については、エンタープライズ系のエンジニアをアサインするなど、メンバー一人ひとりの強みを生かすアサインメントをするよう、工夫しながらやってきたという。
開発だけではない。プロダクトの内容も「いろんな人がいたから成長した」と小野氏。プロジェクトの定例会議である社員が「お月玉の情報のページは毎月同じなので、飽きてくると思います」と鋭い意見をくれたという。そこで12月はサンタクロース、1月はお年玉、2月はチョコレートというように、バナーを変えることにした。「いろんな観点、いろんな経験、いろんなスペシャリティを持つ人たちが意見を交わす中で、改善・改良されてきたプロダクトなんです」(小野氏)
チームをうまく運営するために定めた4原則
このプロダクトのチームは「ある種、猛獣園みたいなもの」と小野氏は言う。これについては詳しくは小野氏の著書『その仕事、全部やめてみよう』(ダイヤモンド社)に書かれているが、この猛獣が集まるチームがうまく機能するために、次の4原則を定めたという。
第一が「さん付けで呼ぶこと」。小野氏のことも「小野常務」ではなく小野さんと呼ぶ。第二がHRTの原則を守ること。第三が頭にくることがあっても絶対に怒らないこと。第四が世の中をよくする、企業を成長させるなど成果を出すこと。
「多様な価値観やバックグラウンドやスキルを持つ関係者が互いを否定せずに、お互いの強みで相手の弱みを補うことができれば、このように短期間で、決済システムとつなぐというモード1的な部門も納得するサービスとしてリリースまでこぎ着けることもできる。文化的衝突が起きるような場合には、このチームはモノリシックな価値観のチームではなくて、ダイバーシティを実現できるチャンスがあるチームだという見方もできる」(小野氏)
人の強みがプロダクトの強みになる
最後に紹介したのが、DataSpiderの事例である。同ツールには「Mapper」という入力元のコンポーネントから読み取ったデータを変換・加工して後続のコンポーネントへの書き込み、または変数への代入を行うコンバータがある。これを開発したのは、ガラケーで動作するゲームボーイのエミュレータを世界で初めて開発した、コンバータマニアのようなエンジニアだったという。「ぜひ、自分に任せてほしい」と言ってきたので、任せることにしたという。すると「DataSpiderは変換の実行速度がめちゃくちゃ速い」と評価され、DataSpiderの強みになったという。「マーケットリサーチからプロダクトを開発するアプローチもあるが、こういう人がいるからこの機能を任せてみようというアプローチもある。そしてそれが後にプロダクトの強みになることもある」と小野氏は語る。
成功するプロダクトを作る方法はいろいろある。だが小野氏は「組織や個人の特性に着目し、その違いをうまく取り入れていくことで強いプロダクトを生み出す方法もある。オープンイノベーションも良いが、身近な組織の中の協創こそが最初にやるべきだと思う。プロダクトマネージャーには、まずはそこから取り組んでみることをおすすめする」
最後にこう語り、小野氏はセッションを締めた。
