お金を得るだけの場にならないように 今後は“つなぐ”施策を強化
開発で苦労したことを尋ねると、堀部さんは「昨年行ったドメイン変更」を挙げた。
「2周年の節目でドメイン変更を行うアップデートを提供しました。これは、クリエイターの人がFANBOXでオリジナルのサブドメインを設定できるようにすることで、創作活動の拠点として使ってほしいという狙いのもとです」
しかし、すでに運用を開始しているサービスで、ユーザーに新たにドメインを設定してもらうのは簡単なことではない。そこで用意されたのがこんな施策だ。
「単なる周知だけでなくて、キャンペーンも企画しました。『ファンの方に支援してもらう』をゴールに設計したかったので、新ドメインを登録して情報をSNSでシェアすると支援金額のプラス20%を上乗せすることで、お祭りのように盛り上がってもらえたらと思いました。
ほかにも、クリエイターにお祝いイラストを描いてもらうなど、サイトへの集客施策も実施。休眠ユーザーに対しては、サブドメイン部分にランダムな文字列が付与されるようにしたのですが、想定した以上のユーザーさんが切り替えてくださいました」
3周年の節目を迎えたFANBOX。成長を続けるなか、今後どのような取り組みを進めていくのだろう。
「クリエイターが起点となるサービスだったこともあり、クリエイターにとって使いやすい機能を充実させてきました。一方で最近は、ファンである支援者にどのように楽しんでもらうかといった部分にも注力しています。イベントもなかなか実施しづらい社会情勢ですし、クリエイターとファンをつないで、創作に対する根源的な気持ちを生む場にしていきたいですね」
そのための取り組みはすでに始まっている。2020年年末には、ファンがクリエイターにFANBOX上で年賀状を送り、応援の気持ちを伝える年賀状企画が実施された。その企画には、開発メンバーの予想をはるかに超える3万7千通ほどのやりとりがあったそうだ。だが堀部さんは「いちプロダクトでできることにも限界がある」と冷静に現実を見つめる。
「機能が多様化すると、サービスが複雑化して結果的に使いづらくなってしまうこともあるでしょう。そういう意味では、FANBOX単体で機能を増やしていくのではなく、ピクシブ内のほかの関連サービスともさらに連携していきたいと考えています。
また、企業とのコラボレーションした取り組みにもさまざまな可能性が見え始めています。たとえば2020年12月に行った、FANBOXのクリエイターがデザインしたTカードをファンが使い、そこに溜まったTポイントをクリエイター側に付与できるという企画。これも多くのユーザーさんから好評いただきました。実はほかにも企業さんと進めている案件もあります。2021年内には実施できる予定ですので、楽しみにしていてください」
最後にぶつけたのは、これからどのようにFANBOXを使ってほしいかという質問。これに対し堀部さんは、「まずは頑張りすぎずにFANBOXを使ってみて欲しい」とその思いを語った。
「FANBOXでは、クリエイターの方の創作活動の拠点となりつつ、ファンとの交流やチャンスを提供できる場にしていきたいと思っています。ただ、お金を得るだけの場所にならないようにしたいというのが我々の想いです。
クリエイターの中には、頑張りすぎてしまう人も多くいます。たとえばファンに向けて毎月500円のプランをつくるとしましょう。そうすると、毎月お金をいただくからには、特別なコンテンツをつくらなければならないとと気合が入りすぎてしまうのケースも少なくありません。ですがファンの視点に立ってみると、特別なコンテンツの有無よりも、クリエイターの活動自体を伝えてもらえるだけで嬉しいといった心理もある。
クリエイターもファンも、『支援』という行為に抵抗を感じずに、気軽にFANBOXを利用してもらえれば嬉しいです」
クリエイターのみならずファンの視点にも立ったプロダクト開発を進めるFANBOX。日本国内でも支援文化の萌芽が感じられる今、ますます成長していくであろうFANBOXの今後を見守りたい。