呪いを解くための4つのアプローチ
こうした呪いは、決して一朝一夕で解けるものではありません。会社やチームの歴史が下地になっていれば、積み重ねられたイメージを払拭することは難しく、バイアスや感情から完全に逃れることも難しいでしょう。
しかし、呪いを解くこと自体は決して不可能ではありません。チームが一丸となって正しい方法でアプローチすれば、必ず解くことができます。ここでは、その実践方法を4つご紹介します。
1.言葉を変える
「言霊」という言葉もあるように、言葉には強い力が宿ります。普段から口にしている言葉が思考や行動に影響を与え、それはいつしかチームの文化になっていきます。
コップ半分になった飲み物を見て、「もう半分しかない」と思うのか、「まだ半分も残っている」と思うのか。同じ出来事や物事であっても、使う言葉を変われば見方が変わり、認識も変わっていきます。
つまり、呪いを解くうえで、使う言葉を変えることはひとつの有効な手立てになります。たとえば、問いかけを「Why」から「How」に変えることで、前向きな思考が生まれやすいと言われています。「いつもうまくいかない、どうしてできないんだろう」とネガティブなWhyにとらわれるのではなく、「次うまくいくとしたら、どうすればいいんだろう?」というポジティブなHowを考えてみることで、新たな発見が生まれるかもしれません。
2.データと向き合う
呪いが生まれる原因として、「バイアス」や「感情」を取りあげましたが、これらの影響を小さくするうえで有効な武器が「データ」です。
「昔からずっと変化がない」というのは本当なのか。「競合に勝っている部分が一つもない」なんてことがあり得るのか。「このままやっても成功できない」という確証が本当にあるのか――。
自社や競合、マーケットのデータとちゃんと向き合うことで、これらの仮説が「思いこみ」なのか「事実」なのかが明らかになります。他社との相対比較に加えて、自社の過去と現在を見比べる「経年比較」も、ときに大きな気づきをもたらします。
ビジネスにおいて、「感覚的な判断」は強みとなることもありますが、感覚だけでは見落としてしまうこともたくさんあります。データを見ることで解ける呪いがたくさんあるはずです。
3.チーム編成を変える
チームがうまくいかない時、原因を誰かひとりに見出して、「この人のせいで上手くいかないんだ」と決めてしまうのは、とても非効率的なアプローチです。リーダーの判断が間違っていたり、メンバーの振る舞いが望ましくなかったり、もちろん個人にも課題はあると思いますが、それをすべての原因としてしまうと、思考停止に陥りやすくなるからです。
チームが停滞しているときは、全体として雰囲気が良くなかったり、ネガティブな考え方が共通認識になるケースがほとんどです。同じメンバーや同じ役割分担、同じ関わり方で進めていては、なかなか変化は生まれません。そこで効果的なのが、メンバーの入れ替えです。
入れ替えには「上下」「左右」「内外」という3つのパターンがあります。
- 上下:リーダーとメンバーの入れ替え
- 左右:チーム内での役割変更
- 内外:他チームとの配置転換や人材交流
人員構成が変わることで、新たなコミュニケーションが生まれ、今までにない発想や行動が生まれやすくなります。
4.チームを解散する
もしかすると、「それってありなの?」と思われたかもしれません。しかし、これも立派な打ち手になり得ます。あまりにも複雑に絡まった糸は、ときに元通りに直すことに莫大なコストを要します。
そうであれば、事業やチームの目的と照らして、チームを再結成して進むという選択肢が有効なケースもあります。ですがそこで極めて重要なのは、チームメンバーおよび周囲から、「ネガティブな解散だ」と思われないようなプロセスをふむことです。会社やチームとしての全体最適と、個々人のモチベーションやパフォーマンスの向上を同時実現するための、「前向きな決断」と受け取ってもらえるよう、コミュニケーションには細心の注意を払う必要があります。
呪いを解くうえでもっとも大切なこと
呪いを解くのは、生半可なことではなく、大きな痛みや苦労を伴うこともあるでしょう。そこで何よりも大切なのは、ひとりひとりが「勇気」を持つことです。
「ファーストペンギン」という言葉があります。海の中で天敵がいないかどうか、最初に海に飛び込んで、命を賭けて安全を確かめるペンギンを指すこの言葉は、いつしか「新たなことに挑戦する勇気ある1人目」を意味するようになりました。
この「1人目の挑戦者」なくして、チームに変化は生まれません。しかし、1人目と同じかそれ以上に重要なのは、その人に続く「2人目の挑戦者」です。役職や立場に関わらず誰もが「1人目の挑戦者」になれることが理想的ではありますが、すべてのチームがそうではないでしょう。しかし、1人目にはなれなくても、誰かの挑戦に続く「2人目」にはなれるかもしれない。2人目になるのが怖くても、「3人目」にはなれるかもしれない。
必ずしも自分が「1人目」にならなくてもいいと思います。しかし、どこかで決心して、勇気を出して「◯人目」になることができれば、それは必ずチームに変化をもたらします。ひとりひとりの小さな挑戦こそが、大きな呪いを解く力になっていくのです。
いかがでしたでしょうか。
これまでの連載とは少し趣を変えて、「呪い」をテーマにお伝えしてきました。程度の差はあれ、どこの会社、どのチームでも抱えている課題なのではないかと思います。ですが解けない呪いはありません。どんなに小さくても、何かひとつの挑戦が変化を生み出すかもしれません。チームが新たな一歩を踏み出すきっかけになることを願っています。