IT業界と女性のキャリアを本音で語るパネリストたち
本セッションでIT業界と女性のキャリアについて本音トークを展開してくれたIT女子は4人。ソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタートし、ベトナムでプロジェクトマネージャーを経験後、現在はカスタマーサクセスマネージャーとして製品の導入支援などを行っているアトラシアンの鈴木朝子さん。
ナビタイムジャパンで、社内の共通API基盤の運用と開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーを務める笹谷和美さん。PMは1年目だが、開発やマーケティングなどの経験も持つ。LIXILの西脇彩さんは、楽天で15年勤務後、2018年からLIXILでプロダクトオーナーとして働いている。現在、小学生の子どもの母。
そして、司会進行役を務めたのがアトラシアンのシニアマーケティングマネージャー、朝岡絵里子さん。外資系BIツールベンダーでSEとしてキャリアをスタートし、プロダクトマネージャー、プロダクトマーケティング、ビジネス開発担当、営業などを経てマーケティング担当に。現在は2人の男児の母である。
ライフステージの変化が与える仕事やキャリアへの影響は?
今回のトークトピックは、全国のエンジニア約420名に実施したアンケート調査。その結果をもとに、それぞれの意見や自身の経験などが語られた。
最初のテーマは、「今後のキャリアで不安なことは?」。男女別のTOP3は以下のような結果となった。1位の「最新技術情報のキャッチアップ」と2位の「給料」は同じだが、3位は、男性が「望むキャリアが築けるか」なのに対し、女性は「ライフステージの変化がキャリアや仕事のパフォーマンスに悪影響を与えないか」だった。
最新情報のキャッチアップどうしてる?
西脇彩(以下、西脇):私はこれまで小さな悩みはありましたが、キャリアが挫折するような大きな悩みは幸いありませんでした。あえて言うなら、新しいプロダクトが出てきたときに、その魅力や楽しさが理解できなくなる危機感や不安があります。例えば、小学生の息子が夢中になっているTikTokですね。
朝岡絵里子(以下、朝岡):私もTikTokの面白さがよくわかりません(笑)。マーケティングの仕事をしているのに流行ものがわからなくて大丈夫なのか、不安になりますね。テクノロジーの世界は変化のペースが速いので、技術や情報の習得に苦労している人は多いと思います。皆さんは最新技術のキャッチアップはどうしていますか?
鈴木朝子(以下、鈴木):エンジニアが開催する勉強会に参加することが、一番のインプットになっています。ポッドキャストを聴いたり、情報を発信したりしているエンジニアのTwitterをフォローすることでもキャッチアップしています。
笹谷和美(以下、笹谷):業務時間内に開催される社内の勉強会が盛んなので、参加しています。逆に社外の勉強会は、業務外で時間を確保するのが大変で参加できないのか、今の悩みですね。
西脇:私は社外の勉強会が一番多いですね。あとはプロダクトマネージャーのつながりで、オンラインで情報交換をしています。コロナ禍でオンライン勉強会が増えて、参加しやすくなりました。
朝岡:勉強会がオンラインで開催されるのはいいですよね。骨伝導のヘッドホンは子どもの話を聞きながら、参加できるので助かっています。ただ18時から21時は育児ゴールデンタイムなので、できれば22時くらいから開催される勉強会があったらいいなと。
ライフステージの変化に不安ある?
鈴木:サーバーサイドエンジニアをしていた頃は、深夜対応や不定期のアラート対応があるので、ずっと続けられる仕事ではないのかなと悩んだりもしました。社内にすごく仕事ができる女性のサーバーエンジニアの先輩がいたのですが、出産を機に他の職種に転身したことも不安要素の一つですね。
笹谷:職場にまだ出産後に職場復帰して働いている人がいないことは不安ですが、私は出産後も働きたいと思っています。
西脇:結婚は仕事に大きく影響を与えることは幸いなかったし、自分自身も気にしなかったのですが、出産のタイミングをいつにしようかと悩んだ時期はありました。仕事の忙しい時期は避けようと考えましたね。子どもが小さい頃は、トラブル対応で家に帰れないときは実家に頼ったりしていました。
でも、キャリアを諦めるというよりは、余白みたいなものを自分の中に持たせておくといいのかなと。キャリアに余白を持たせることで、そこに新たなチャレンジが生まれてくると感じています。
やりたいことと、できることって違うもの?
朝岡:「キャリアに余白を持たせる」は、すごくいい考え方だと思います。なりたい自分に近づいていこうとするときに、どうしても好きなことがやりたいことに直結しなきゃという思いがちですが、それが見つからないと焦ってしまう。固執しちゃうと苦しくなるんですよね。そんな経験はないですか?
笹谷:ユーザーのための機能の改善をやりたくて、実際にできる機会が巡ってきたことがあるのですが、なかなか結果が出せなくて。やりたい仕事なのに、自分には向いてないんじゃないかと悩んだ経験はあります。
西脇:一つの組織や会社、仕事にとらわれる必要はないのかなと、最近思うようになりました。いくつもの仕事を持つという考え方もあると思っています。例えば今の会社で、給料が低いとか今の役割では得ることができないスキルを習得するために、別の会社でそのロールを持つことで、悩みを解決できるんじゃないかと。幸いLIXILでは、副業制度があるので利用しています。
具体的には、スタートアップでプロダクトマネージャーの壁打ち役をしています。複数のキャリアを持つことで、今の仕事では得られない経験や知識も補えるし、気持ちの余裕が生まれるメリットもあります。
朝岡:やりたいことをこれだと決めつけず、まずはできることを増やしていく。そうすると仕事の選択肢も増えて、自分が本当にやりたいことが見つかるかもしれないですね。
ロールモデルにしている女性エンジニアはいる?
鈴木:女性が少ない業界だからか、タフでパワフルな先輩が多い印象があります。自分がそうなれる自信がないので、皆さんがどうなのか気になっています。
笹谷:私も残念ながら、理想とするロールモデルには出会えていないですね。すごくかっこいい先輩はたくさんいるのですが、自分とはかけ離れ過ぎてなれる気がしない方ばかりでした。
西脇:私はこのロールモデルという言葉があまり好きではないんです。人それぞれ強みや弱み、置かれている環境や状況が違うので、全く自分と同じはありません。この人のここはいいからまねしてみよう、この人はここがすごく上手にやっているからまねしてみようというように、私なりのやり方を見つけてきました。時代や環境の変化に自分が合わせていくことも大事だと思っています。
朝岡:たしかに過去の成功体験をいくら分析したところで、未来に対する答えなんてないんですよね。いいところを取り入れて、とりあえずやってみる。それを修正しながら繰り返すことで、なりたい自分に近づけるんじゃないかなと思います。
一方で多様性が求められる社会の中では、アイデンティティを持って存在感を示していくことも必要です。そこで次は、仕事をする上で重要視する価値観について考えてみましょう。
働く環境で最も重要視するのは、一緒に働く上司・同僚
続いて紹介されたアンケート結果は、会社選びと働く環境で重要視する点について。会社選びのトップは仕事内容・給料、働く環境のトップは上司・同僚となった。
朝岡:世界ランキングで見ると、日本における男女の賃金格差は、OECD加盟国の37カ国中で36位という不名誉なワースト2。女性の管理職比率も、189カ国中165位、極めて低い数字です。だから女性が、給料が大事だという方が多い要因の一つだと思います。
鈴木:私は企業文化・社風、そして上司・同僚といった一緒に働く人が大事だと考えています。たとえ仕事内容が自分に合っていても、周りの人と合わないと仕事を続けていくのは難しい。辛いときや悩める時期を乗り越えられたのは、周りの人のおかげだと思うからです。
笹谷:私も一緒に働く上司・同僚が大事ですね。もう一つ大事にしていたのは、人生計画を持っていたので、できれば転勤がないこと。つまり、勤務地にはこだわっていました。
西脇:自分自身が上司や同僚などの周り人たちに恵まれた環境にいたので、すごく重要だと思っています。さらに加えて、最近意識しているのは、経営者や会社のビジョンですね。例えば、育児などで時短勤務になると働ける時間が限られてしまうので、どこに突き進むべきか示してくれることは重要だと考えるようになりました。
女性を理由に仕事上の不都合を感じたことはある?
次のトピックは、女性であることを理由に何か不利益をこうむったことがあったかについて。登壇者たちは幸い不都合を感じた経験は少なかったようだが、アンケートではかなり深刻な悩みが寄せられた。大きく分けると、ハラスメントに関するもの、産休・育休・介護などのライフステージ上の変化、仕事上の男女差別といった、3つに関する体験・悩みがあるようだ。
西脇:家庭も育児もプロジェクトなので、誰か1人に負荷がかかる状況ではうまくいかないと思います。また、誰か得意な人に任せるだけもダメですね。家族で協力して乗り切る必要があると思います。
朝岡:仕事上での男女差別やハラスメントに関しては、いわゆるアンコンシャス・バイアス(無意識バイアス)によることが多いと思います。ただキャリアの障壁となるのは、実は男女差よりも、先輩の女性によるケースも少なくありません。
「自分は乗り越えてきたから、あなただって頑張れる」と、応援する気持ちで言われる。「女王蜂症候群」と呼ばれる、今より女性に風あたりが冷たかった時代に、男性と同じように振る舞い、出世するためにいろいろなことを犠牲にしてきたことを、後輩の女性たちに対しても強いる現象です。
男社会の中で必死に頑張ってきて、育児も仕事も完璧にこなすスーパーエリート上司だけど、ロールモデルになるかというとちょっと違う。そういう場面に出くわしたら、逃げるが勝ちです。頑張らなきゃいけないって固執してしまうと本当に辛いので、一旦逃げてみることも一つの手だと思います。たとえ今は逃げたとしても、自分のアイデンティティをしっかり持っていれば、最終的にはハッピーなキャリアを築いていけると信じることをお勧めします。
最後に、今回のセッションのまとめが以下のように紹介された。モヤモヤと悩みを抱えている女性だけでなく、女性の上司・同僚を持つ男性にも気づきを与えたのではないだろうか。
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