CTOから見た、エンジニアを取り巻くこれまでの10年
CTOを経験した旧知の3人が登壇し、セッションは和やかな雰囲気で始まった。さて10年前といえば、藤本氏は現在と同じくグリーでCTOを務め、今村氏は2009年創業のVASILYにCTOとして参画し資金調達に成功、梶原氏は藤本氏のもとグリーで活躍していた頃だ。そこからCTOとしてエンジニア組織を束ねる役割を担い、順調にキャリアを築いてきた3人だが、当時から10年の間に起きた進化や事象をどのように捉えているのか。
前半は、「これまでの10年を振り返って」をテーマに、「エンジニアのキャリアや組織についてどんな進化があったか」「10年間で一番進化を感じるものは?」といった切り口で変化について語った。
エンジニア組織における役割の明確化・細分化
口火を切ったのは藤本氏だ。「当時は今より未熟で、世の中も変化しているので語るのは難しい」と前置きしながら、10年前は「エンジニアリングマネージャーという役割が言葉としても可視化されていなかったように思う。日本にはまだVPoEという概念も入っておらず、エンジニア組織づくりの準備段階だった」と語った。「確かにプロダクトマネージャーという肩書も一般的ではなかった」と今村氏も応じた。この10年間でエンジニア組織における役割の明確化・細分化が進み、組織づくりの成熟度も進んできていると思われる。
スマートフォンの普及とアプリエンジニアの登場
「10年間の変化としては、スマートフォンの普及がしたことが一番大きいのでは」と語るのは、今村氏。iPhoneの登場は2007年だが、2010年前後で広く普及した。エンジニアの中でも「アプリエンジニア」という職種が認識されるようになった。
ソフトウェアエンジニアの社会的評価・給与相場が上がった
「給与相場が上がった」というのは藤本氏。プログラミング教育の必修化などにも象徴されるように、社会全体でITの重要性が認知され、連動してITに関わる仕事の社会的評価や給与相場、待遇などが向上した。当然ながら、社会のデジタルファースト化が進み、ソフトウェアエンジニアのニーズが高まっていることも大きいと考えられる。「小学生がなりたい職業ランキング」にもプログラマーなどの職種が入るようになってきており、今村氏は「今以上に、子どもに憧れられる職業にしたい」と語った。
ノウハウが積み上がり、キャリアスタートがしやすくなった
梶原氏は、「組織論、キャリア論などの知見が蓄積され、体系化されてきたことによって、それらが個人に還元されるようになってきた」と、組織づくりの成熟度が増し、それによって技術的な連携も取りやすくなったことを指摘した。今村氏も「手探り状態だった10年前よりも、聞ける人が増えてきた」と語った。
リモート化や副業などが一般化し、働きやすくなった
10年というより、ここ数年の変化であるが、リモートワークが進み、いつでもどこでも仕事ができるようになり、働きやすくなったことは「嬉しい変化」(藤本氏)だろう。副業を認める企業も増え、キャリアの可能性が広がった。「以前は、副業NGというところが多かったが、むしろ副業をすることが推奨されるようになり、副業先で新しい技術を見につけるという発想が生まれてきた」(今村氏)
DXによってIT企業だけでなく一般企業にも働く場が増えた
10年前の就職口は、ソフトウェア企業などIT企業がほとんどだった。しかし、DX推進の波が社会全体に押し寄せる中で、ソフトウェアがメインではない企業内でもソフトウェアエンジニアが活躍できる場が増えている。「内製エンジニア組織を作って推進していこうという変化」が端的に表れているといえるだろう。梶原氏と今村氏も、現在はエンターテイメント事業、リユース事業にそれぞれ身を置いている。その動機について梶原氏は、「外側からではなく、内側からDXを推進し、技術によってグロースさせられるのではないかと感じた」と述べた。