本記事は『実践ゲームUIデザイン コンセプト策定から実装のコツまで』の「まえがき」と「Chapter1 はじめに」から一部を抜粋したものです。掲載にあたって編集しています。
まえがき
ゲームUIにかかわるすべての皆さま、こんにちは!
突然ですが、「ゲームUIデザインの本」って、少ないと思いませんか? 企画の作り方・絵の描き方・3DCGの教本・プログラムの技術書……こういったゲーム関連書籍の中で、UIに焦点をあてたものはあまり見かけません。いったいなぜでしょうか。
筆者はふたつ理由があると考えています。ひとつは、ゲームのジャンル・ターゲットによって開発内容が大きく異なるため。そしてもうひとつは、業界において標準となるツールが定まっておらず、ワークフローが体系化されていないため、というものです。
前者はともかく、後者についてはどうにかならないものか……そんな思いを抱えていた時、ボーンデジタルおよび文京学院大学コンテンツ多言語知財化センター主催の『CGWORLD 2019 クリエイティブカンファレンス』にて登壇の機会をいただきました。
よい機会でしたので、それまでの経験を活かした「ゲームUI開発におけるトライ&エラー」についての講演を行ったところ、非常に反響が大きく、後日公開したスライド資料についても想像をはるかに超える数のアクセスがありました。
本書は、この時に使用した資料をベースに大きく加筆・修正を加え、筆者が過去に参画したプロジェクトでの経験にもとづき「ゲームUIデザインのワークフロー」を体系的にまとめた一冊となっています。
最前線で活躍するさまざまなセクションメンバーの意見を反映しており、初心者の方にも実践していただきやすいように、サンプルとなる項目を充実させるよう心がけました。
また、ゲームUIに関連する他セクションのメンバーとのコミュニケーションや、会社員デザイナーとしてスキルアップしていくための、ちょっとしたビジネステクニックについても触れています。
本書が皆さまのUIデザイン、そして日々の仕事において、少しでもお役に立てることを願っております。楽しいゲームUI開発の世界へ、一緒に旅立ちましょう!
ワークフローの重要性
すでにゲームUI開発にかかわっている皆さまは、次のような悩みに直面したことはありませんか?
これらはUI開発の現場において非常に「あるある」なケースで、多くのUIデザイナーが知恵とテクニック、さらには人海戦術で乗り切っている現実があります。
ですが、そもそも業界的にUIデザイナーは貴重な存在であり、何とか人をかき集めたとしても分業しにくいタスクがほとんどです。
そこで、重要になってくるのが本書のメインテーマである「ワークフロー」です。UIデザインの業務を体系化することで、上記のような問題を未然に防ぎながら、次々と生まれる新しい課題にも、楽しく向き合えるようになります。 ゲーム開発は本来、とても楽しくクリエイティブなものです。
UIは特に外的要因に左右されやすく、かつ開発者もユーザーの一部であるため、忌憚のない意見を突き付けられる機会も多いでしょう。それは「よいモノづくり」のためには必要なことであり、健全なチームである証拠でもあります。
もし読者の皆さまがかかわっているプロジェクトにおいてUIデザインがうまくいっていない時は、自身やメンバーのスキルを疑うのではなく「ワークフロー」を見直してみてください。
ゲームUIに必要な視点
そもそも、UIはゲームだけのものではありません。Webサイトやスマートフォンアプリ、チケットの券売機・ATM・カーナビなど……世の中のあらゆるところに「インターフェース」は存在しています。
そういったサービス・製品に搭載されているUIと、ゲームのUIでは、いったい何が異なるのでしょうか。
筆者は、ゲームはエンターテインメントであるということこそが最大のポイントだと考えています。 例えば、Webサイトであれば「情報を読んでほしい」「商品を買ってほしい」、カーナビであれば「最適なルートで目的地に導く」といった明確な目的があります。
一方、ゲームはエンターテインメント、つまり「娯楽」の一種であり「プレイすること」そのものがユーザーの目的となっているケースが多いです。
ゲームのUIは、段階的な学習を促すことで課題をクリアする快感を味わってもらったり、作品のもつ世界観に浸ってもらうなどの役割があるのです。
そのためには、機能性やコンバージョンの追求だけでなく、ユーザーの感情を揺さぶるような仕掛けが必要です。
ワクワク・ウキウキといったポジティブな感情はもちろんのこと、ハラハラ・ドキドキといった適切なストレスを「あえて」与える。そうすることで、クリアした時の感動や達成感が何倍にも大きくなり、ユーザーのプレイ体験を最大化することができるのです。
これは、その他のサービスや製品のUI開発ではあまり意識されない視点です。ゲームのUIデザイナーは「使いやすさ」と「ユーザーの感情の動き」を常に意識し、ロジックとクリエイティブの両面からデザインに取り組むように心がけてみてください。