「スペシャリスト組織」と「横断プロダクト」でトップアップを強力に支援
一方のトップアップを強力に支援する活動として、「スペシャリストの組織と横断プロダクトを用いている」と阿部氏は語る。
スペシャリストの組織とは何か。阿部氏は事業領域における価値発揮のためには、「技術と事業理解の両面が必要」という。技術的スキルとは機械学習やアーキテクチャ、コーディングなどのスキル。一方の事業的スキルとは、ビジネスモデルの深い理解に基づいたビジネスロジックの構築、ステークホルダーとの関係性を築くスキルなどが挙げられる。技術的取り組みが突破力になるフェーズでは技術的スキルが活躍し、事業的知見が推進力になるフェーズでは事業的スキルが必要になるからだ。だからこそ、「技術と事業の両方を磨いていく必要がある」と阿部氏は言う。両者のスキルの違いは、ポータビリティ性。技術的スキルはポータビリティ性が高くなる。
案件のフェーズは立ち上げ期、成長期、安定期、転換期、終末期というようにどんどん変わって行く。携わるフェーズによって、より強く要請されるスキルは変わる。例えば立ち上げ期であれば、高速にプロダクトマーケットフィットを試していくために、素早いコーディングスキル、サービスがグロースする成長期は、一気にデータ量も増えるので、それを高速にさばくアルゴリズムに強いエンジニアが必要になる。つまり、高い専門性を発揮する強い人材の活躍はフェーズで変わる可能性がある。「状況に合わせて適切な強い人材、いわゆるスペシャリストを、領域横断で遊撃的に投入できる組織を設計し、今運営しています」(阿部氏)
その組織が「アジリティテクノロジー部」だ。スペシャリストにとっても、この組織の存在は嬉しいのではないだろうか。自分のスキルが生かせるチャレンジングな案件に携わり続けることでモチベーションが上がり、高いパフォーマンスを発揮できるからだ。
スペシャリストを遊撃的にアサインするのは、チャレンジングな案件の成功確率を上げるためだけではない。スペシャリストと共に働くことは、他のエンジニアにとって一番の技術的な成長機会となることにもつながる。「技術的取り組みが強く要請されるフェーズで、スペシャリストとの協働機会を増やしている」(阿部氏)
例えば立ち上げ期にスペシャリストを投入して、事業領域中堅メンバーに専門性を移転する。リーダー経験を経て成長した中堅メンバーは次のフェーズには事業領域のベテランとなり、さらにさまざまな経験を経てスペシャリストへと成長していく。「このような成長を促す機会を提供するフレームを作っていきたい」(阿部氏)
もう一つのトップアップを支援する横断組織主導の取り組みとして挙げられるのが横断プロダクト運営。各領域の取り組みでは、領域固有の機能と共通化可能な機能が存在する。「領域を横断して利用可能な共通機能を横断プロダクトとして定義して運営している」と阿部氏は説明する。
共通機能を活用することで案件スピードが高速化できるだけではない。各領域のフィードバックを基に、領域を横断して全体の機能強化が図れるという。とはいえ、「何でもかんでも共通化するわけではない」と阿部氏。特にデータ領域で安易にHowを共通化することはしないという。ビジネスの背景にある特徴やデータの属性が異なっているため、同じHowを活用したとしてもパフォーマンスが上がるとは限らないからだ。
では具体的にどのような横断プロダクトを運営しているのか。その例として阿部氏が紹介したのはワークフローエンジン「Crois」。機械学習モデルなどを実行するAWSを活用した基盤プロダクトで、複数データ処理を管理し、ジョブスケジューリングなどの機能を提供する。「基はアドテクノロジーを提供していた機能会社がデータ処理のために開発したプロダクト。会社統合後、当時データ処理基盤の入れ替えを検討していた住まい領域が同プロダクトを評価し、導入が決定しました」(阿部氏)
住まい領域に横展開していくにあたり、機能追加する必要があったため、領域側エンジニアがCroisの開発。横断機能と事業領域双方のエンジニアが協働してプロダクトを磨き上げていったという。
リクルートでは各領域のトップアップを高度な専門性と実績のある共通機能で支援する仕組みを構築。先に紹介したベースアップの活動と組み合わせることで、技術組織としての生態的進化を目指している。
そのための第一のポイントは、横断プロダクトなどの仕組みをトップダウンで一律導入しないこと。標準化は一律の底上げにはなるが、その一方で、良い突出も殺してしまうことになるからだ。そこでセキュリティなど全体ルールを守るためのガードレール機能以外、事業戦略を実現するための最適な方法は領域組織主導で選択できるようにしているという。
もう一つのポイントが、組織内の情報流通を強化すること。そうすることで良い仕組みが選択されやすくなり、全体がよりよい仕組みに入れ替わることで、生態的な進化を志向するよういなるからだ。「個別最適と全体最適のバランスを追求し、アジリティの高いデータ組織を目指していきたい」(阿部氏)
データ推進室では多様性を生かした新しい仕組みや制度を作ってみたいという仲間を求めているという。関心のある方はぜひ、チェックしてみてはどうか。