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Developers Summit 2022 Summer レポート(AD)

技術の個別最適と全体最適のバランスをいかに取るべきか? 全社統一を経たリクルートの戦略とは【デブサミ2022夏】

【C-8】会社統合を経たリクルートのデータ組織が目指す技術的トップアップとベースアップを組み合わせた生態系的進化

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 2021年4月、リクルートは7つの中核事業会社および機能会社を統合した。それに伴いデータ推進室も各事業会社のデータ人材が集まる形で組織化。これまで取り扱っていたデータ特性も大きく異なるため、その多様性を生かし、トップアップとベースアップの両アプローチで現場合理性と全体最適のバランスを追求し、1つのデータ組織として機能するよう、進化させてきたという。その中でどのような困難があり、それをどうやって乗り越えてきたのか。リクルートのデータ組織が目指す方向性などについて、リクルートの阿部直之氏が解説した。

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株式会社リクルート データ推進室 データテクノロジーユニット ユニット長 阿部直之氏
株式会社リクルート データ推進室 データテクノロジーユニット ユニット長 阿部直之氏

各社ごとに存在、カオスだったデータ機能組織をいかに統合したのか

 1960年に大学新聞広告社としてスタートしたリクルート。就職や住宅などの情報誌を主力に、SUUMOやリクナビなどのインターネットサービスによって事業を拡大。2012年にはHR事業テック企業のIndeedを買収するなど、テックカンパニーへの転身を図っている。2022年3月末時点におけるリクルートグループの従業員数は5万1757人。「Follow Your Heart」というビジョン、「まだ、ここにない、出会い。より速く、シンプルに、もっと近くに。」というミッションを掲げ、事業運営を行っている。

 現在、リクルートグループの組織は、持ち株会社であるリクルートホールディングの下に、メディア&ソリューション、HR事業テクノロジー、人材派遣と3つの戦略ビジネスユニット(Strategic Business Unit:SBU)という3つのSBUで構成されている。メディア&ソリューションSBUの核となる組織が、阿部氏が所属するリクルートである。

 リクルートは2021年4月、リクナビやSUUMO、ゼクシィ、タウンワーク、スタディサプリ、カーセンサー、ホットペッパーグルメ、じゃらんなどの異なるサービスを提供する7つの中核事業会社、機能会社を再統合した。各社ごとに存在していたデータ機能組織は、データ推進室に統合された。「現在は各事業領域のデータ戦略立案・推進を行う領域特化ユニットと、領域横断で支援を行う専門職種のユニットが交差するマトリクス型組織で構成。私は後者のデータ領域の専門機能向上を担う横断組織の責任者を担当しています」(阿部氏)

 実はリクルートでは会社統合をする前から、データ組織を含む一部機能については、その1年前の4月から先行統合を進めていたという。

 各社ごとに存在したデータ機能組織の統合は、順風満帆に進んだわけではない。「混乱とカオスがあった」と阿部氏は話す。

 なぜなら、各社は異なるビジネスモデルに基づくサービスを運営しており、サービス文化や開発文化、技術的なチャレンジなど、個別に進化してきた。「個別進化した複数の組織を1つの箱にまとめたため、異なる技術スタック。技術戦略、技術思想が混在する組織になったからです」(阿部氏)

 例えばインフラ環境にGCPを使っている領域組織もあれば、AWSを使っている領域組織、オンプレミスをメインに使っている領域組織もあったという。内製化率もバラバラで、内製化が進んでいる領域組織もあれば、進んでいない領域組織もある。データ施策率も多い領域組織もあれば、少ない領域組織があり、開発文化もデリバリー優先の領域組織もあれば、時間がかかってもクオリティ優先の組織もあった。「統合当初は、カオスな状況で、どう統合していくのか、非常に頭を悩ませました」と阿部氏は振り返る。

 だがこのカオスの状況はポジティブに捉えると、多様性と言い換えることもできる。「多様性を活用して、組織を良い方向に進化させていこうと思いました」(阿部氏)

 多様性のある環境のメリットは、例えばインフラであれば、GCPのマネージドサービスを使う、AWSのマネージドサービスを使う、またはスクラッチで組むなどさまざまな取り組みのパターンが発生すること。「案件バリエーションが多数存在することで、技術的なチャレンジの総量も最大化できる」と阿部氏は語る。

 しかし成功確率が下がってしまっては問題だ。そこで各領域の個別最適を安易に抑制しないことで、成功確率の向上を図るというアプローチを採用した。

 具体的には多様性を生かすため、トップアップとベースアップの取り組みが行われている。領域主導のトップアップにより、現場の合理性を基にした個別最適でチャレンジの成功確率を向上させるというアプローチを採用している。そしてそれらのトップアップのチャレンジをある領域だけで行うのではなく、横断的なチャレンジで進めていくよう、横断組織が支援する。「トップアップのチャレンジは成功だけではなく、失敗することもある。それらのノウハウをうまく抽出し、今後、同じような取り組みが考えられる別の領域に横展開していく。そうすることで、結果的に全体のレベルが上がる。そういう横断組織主導のベースアップ活動もしています」(阿部氏)

横断組織主導のベースアップの仕組み
横断組織主導のベースアップの仕組み

 知見を横展開する仕組みとしては、「例えばLT会や領域横断のレビュー会などを頻繁に開くような活動をしています」と阿部氏。ベースアップ活動は情報共有だけではない。チャレンジ総量が増えたことで、メンバーの成長機会につながる案件も増やすことができたという。そこでこのメンバーには、立ち上げフェーズ、このメンバーには大きなサイズの案件というように、メンバーの成長を促すチャレンジ案件をマッチングさせることを実施している。もちろんマッチングさせる案件は「領域単体だと少なくなるので、領域横断で見ている」という。

 さらにマッチングの効率をよくするため、データ専門人材の専門性定義も行った。「次はこういう専門性獲得のために、この案件をマッチングさせるための、共通言語づくりです」(阿部氏)

 このような仕組みを作ることで、各領域のよい取り組みを情報流通させることで、成長機会を増やすための土壌を醸成しているという。

「スペシャリスト組織」と「横断プロダクト」でトップアップを強力に支援

 一方のトップアップを強力に支援する活動として、「スペシャリストの組織と横断プロダクトを用いている」と阿部氏は語る。

 スペシャリストの組織とは何か。阿部氏は事業領域における価値発揮のためには、「技術と事業理解の両面が必要」という。技術的スキルとは機械学習やアーキテクチャ、コーディングなどのスキル。一方の事業的スキルとは、ビジネスモデルの深い理解に基づいたビジネスロジックの構築、ステークホルダーとの関係性を築くスキルなどが挙げられる。技術的取り組みが突破力になるフェーズでは技術的スキルが活躍し、事業的知見が推進力になるフェーズでは事業的スキルが必要になるからだ。だからこそ、「技術と事業の両方を磨いていく必要がある」と阿部氏は言う。両者のスキルの違いは、ポータビリティ性。技術的スキルはポータビリティ性が高くなる。

 案件のフェーズは立ち上げ期、成長期、安定期、転換期、終末期というようにどんどん変わって行く。携わるフェーズによって、より強く要請されるスキルは変わる。例えば立ち上げ期であれば、高速にプロダクトマーケットフィットを試していくために、素早いコーディングスキル、サービスがグロースする成長期は、一気にデータ量も増えるので、それを高速にさばくアルゴリズムに強いエンジニアが必要になる。つまり、高い専門性を発揮する強い人材の活躍はフェーズで変わる可能性がある。「状況に合わせて適切な強い人材、いわゆるスペシャリストを、領域横断で遊撃的に投入できる組織を設計し、今運営しています」(阿部氏)

 その組織が「アジリティテクノロジー部」だ。スペシャリストにとっても、この組織の存在は嬉しいのではないだろうか。自分のスキルが生かせるチャレンジングな案件に携わり続けることでモチベーションが上がり、高いパフォーマンスを発揮できるからだ。

 スペシャリストを遊撃的にアサインするのは、チャレンジングな案件の成功確率を上げるためだけではない。スペシャリストと共に働くことは、他のエンジニアにとって一番の技術的な成長機会となることにもつながる。「技術的取り組みが強く要請されるフェーズで、スペシャリストとの協働機会を増やしている」(阿部氏)

 例えば立ち上げ期にスペシャリストを投入して、事業領域中堅メンバーに専門性を移転する。リーダー経験を経て成長した中堅メンバーは次のフェーズには事業領域のベテランとなり、さらにさまざまな経験を経てスペシャリストへと成長していく。「このような成長を促す機会を提供するフレームを作っていきたい」(阿部氏)

 もう一つのトップアップを支援する横断組織主導の取り組みとして挙げられるのが横断プロダクト運営。各領域の取り組みでは、領域固有の機能と共通化可能な機能が存在する。「領域を横断して利用可能な共通機能を横断プロダクトとして定義して運営している」と阿部氏は説明する。

 共通機能を活用することで案件スピードが高速化できるだけではない。各領域のフィードバックを基に、領域を横断して全体の機能強化が図れるという。とはいえ、「何でもかんでも共通化するわけではない」と阿部氏。特にデータ領域で安易にHowを共通化することはしないという。ビジネスの背景にある特徴やデータの属性が異なっているため、同じHowを活用したとしてもパフォーマンスが上がるとは限らないからだ。

 では具体的にどのような横断プロダクトを運営しているのか。その例として阿部氏が紹介したのはワークフローエンジン「Crois」。機械学習モデルなどを実行するAWSを活用した基盤プロダクトで、複数データ処理を管理し、ジョブスケジューリングなどの機能を提供する。「基はアドテクノロジーを提供していた機能会社がデータ処理のために開発したプロダクト。会社統合後、当時データ処理基盤の入れ替えを検討していた住まい領域が同プロダクトを評価し、導入が決定しました」(阿部氏)

 住まい領域に横展開していくにあたり、機能追加する必要があったため、領域側エンジニアがCroisの開発。横断機能と事業領域双方のエンジニアが協働してプロダクトを磨き上げていったという。

 リクルートでは各領域のトップアップを高度な専門性と実績のある共通機能で支援する仕組みを構築。先に紹介したベースアップの活動と組み合わせることで、技術組織としての生態的進化を目指している。

 そのための第一のポイントは、横断プロダクトなどの仕組みをトップダウンで一律導入しないこと。標準化は一律の底上げにはなるが、その一方で、良い突出も殺してしまうことになるからだ。そこでセキュリティなど全体ルールを守るためのガードレール機能以外、事業戦略を実現するための最適な方法は領域組織主導で選択できるようにしているという。

 もう一つのポイントが、組織内の情報流通を強化すること。そうすることで良い仕組みが選択されやすくなり、全体がよりよい仕組みに入れ替わることで、生態的な進化を志向するよういなるからだ。「個別最適と全体最適のバランスを追求し、アジリティの高いデータ組織を目指していきたい」(阿部氏)

高度な専門性と共通機能でトップアップを支援
高度な専門性と共通機能でトップアップを支援

 データ推進室では多様性を生かした新しい仕組みや制度を作ってみたいという仲間を求めているという。関心のある方はぜひ、チェックしてみてはどうか。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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https://codezine.jp/article/detail/16358 2022/10/11 12:00

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