漠然とした不安を抱いたときにやってはいけないこととは?
もう1つの、仕事を抱え込みすぎるエンジニアのパターンでは、抱え込んだ仕事をすべて一人で処理しようとして押し潰されそうになっている。その場合は、周囲の力を借りて問題を解決することも1つの大きなスキルであると理解し、周囲の力を借りる努力をしてみるとよいだろう。もし、このようなタイプのエンジニアが自身の周囲にいる場合は、「一緒にやらせてください」「手伝わせてください」と声をかけることも大切だと指摘した。
続いて今野氏は、エンジニアがキャリアに対する漠然とした不安を抱いたときに、してしまいがちだが本当はしてはいけないことを挙げた。それは、「自分は仕事を通して本当は何がしたかったのだろうか」と自分自身に問いかけたり、「今現在、自分はどのようなスキルを持っているのだろうか」と技術スキルだけの棚卸しを始めたりすることだ。今野氏は、どちらも自分自身の内面を掘り下げていく行為であり、不安を抱いているときに自分に対してさらに問いかけても不安が増大するだけだと訴える。
そして、何がしたかったのかを考えるのはWillとMustとCanが作る3つの輪で言うなら、Will(やりたい)の部分について考えることだ。持っているスキルを棚卸しすることは、Can(できる)の部分について考えることと言える。先述のように、キャリアに対する漠然とした不安はMustの輪が小さくなりすぎたり、大きくなりすぎたりして起こっている。そう考えるとやはり、やりたいことやできることを考えるのは的外れなのだろう。今野氏も、キャリアに関する漠然とした不安を抱いたときは、自分の内面ではなく外に目を向けて、自分がこの場で解決すべき課題が何なのかを考え直している。
今野氏はさらに「転職」に目を向けるのもありがちなことだが、問題の根本的な解決にはならないことが多いと語る。「今の環境はつまらない、成長できない」と考えて、転職を検討するエンジニアは少なくない。しかし今野氏は、そのときのエンジニアのモチベーションは、WillとMustとCanが作る3つの輪のうち、Must(やらなければならないこと)が小さくなっていると分析する。
この状態で転職すると、転職当初は3つの輪の大きさがバランス良くなっているが、しばらく経って仕事が一段落すると、またMustの輪が小さくなってしまい、この職場でやることはないと考えてしまう。環境を変えることで、一時的に3つの輪の大きさのバランスをリセットすることはできるが、やらねばならないこと(Must)に対する自分自身の認識を変えることができていないから同じことを繰り返すというわけだ。今野氏は、このようなタイプのエンジニアが本当にやるべきこととして、自分がどのように認識しがちなのかを知って、本来解くべき課題を把握できるよう自らを変化させていく必要性を説いた。
![漠然とした不安を解消するために転職しても、同じことを繰り返すだけ](http://cz-cdn.shoeisha.jp/static/images/article/17074/17074_003.png)
今野氏は決して転職が悪い方法だと言っているわけではない。転職を考える前にすべきことがあるということだ。転職を考えるなら冷静になって自身の職場を見て、自分だからこそできることや、自分がやらなきゃいけないだろうと思うことを見付けてみることを薦める。それでも見付からなかったときは、新しい職場を探した方が良いだろうとのことだ。
最後に今野氏は、エンジニアとしての市場価値が、「問題を解決する力(Can)」だけで決まるわけでないことを指摘した。市場価値と言われると、何か特別なことができるということ、つまり問題を解決する力で決まるものと考えてしまいがちだが、「自身が捉えている課題(そもそものMustへの認識)」によっても決まる。エンジニアがキャリアに対する漠然とした不安を抱いたときは、自分ができることややりたいことではなく、自分がやらなければいけないこと、やるべきことについて改めて考えてみるクセを付けると良いのかもしれない。