どうして元潜水士がエンジニアに?──偶然から始まったエンジニア人生
元潜水士で女装の趣味があり、イラストレーターであり、一児の父でもある。そんな角田さんがなぜクラウドインフラエンジニアとして活躍するようになったのか。謎の多い角田さんだがエンジニアになったきっかけは、潜水士を辞めてイラストレーターと両立できる仕事を探していた時に、grasysが募集していた夜勤の監視のアルバイトを始めたことだという。
当時はタイピングもできないほどのド素人。しかし、監視要員として働くうちに技術に興味を持ちはじめ、Pythonなどのプログラミングを独学するようになった。それがたまたま営業担当者から社長の耳に入り、「エンジニアやるか?」との問いに二つ返事で応じたそうだ。そして晴れて、エンジニアになった。
角田氏は「当時は、内心バクバクして、脇汗もかきながら、『まあいいか』と思ったことを覚えている」と語り、「なぜインフラエンジニアになったのかといえば、お察しの通り“ノリと勢い”。ゼロからのスタートだった」と振り返る。
そこから研修期間で、インフラエンジニアとして必要なサーバーやネットワークなどの基礎的な知識の底上げを図った。単語帳を作ってIT用語を覚えたり、基礎中の基礎という技術本を読んだり、地道に勉強を続けたという。また、社内に自由に使えるGoogle Cloud環境があったことで、サーバーを立てては壊すという作業を、実際に手を動かしながら学ぶことができた。
「入社した直後は、留学したかと思うくらい周りが言うことがわからなかった。そもそも人とのコミュニケーションも苦手だったので、他のメンバーの会話を盗み聞きして、わからない単語が出たらメモして調べるという謎行動を繰り返していた」と語るが、「PXC設定をする際にGoogle CloudでVMを3台建てて『キングギドラ』と名付けたら怒られたのは、いまだに腑に落ちない」と破天荒ぶりも披露する。厳密に命名規則に従うタイプではないので失敗も多かったというが、仲間の支えと経験の蓄積もあって、角田さんはインフラエンジニアとして活躍するようになっていった。
ユーザー体験を縁の下で支えるインフラエンジニア、その使命とは?
ところで「インフラエンジニア」の「インフラ」とは、「ITインフラ」のことであり、システムやインターネットを使用するために必要なサーバーやネットワークを指す。つまり、IT分野における「インフラ」はサービスを支える基盤であり、クラウドサービスでインフラを構築するgrasysではクラウドの管理がインフラエンジニアの仕事になる。
障害が起きた際には復旧のため対応し、使用しているミドルウェアに脆弱性が発見されればパッチを当てる。使用しているOSのサポートがなくなれば更新したり、サーバーのスペックを下げてコストカットを図ったりすることも仕事のうちだ。ユーザーに快適にサービスを使ってもらえるよう、サービスの土台となるITインフラの運用を実施するのが「インフラエンジニア」というわけだ。
なお、grasysのインフラエンジニアは、「PlayStation」「Nintendo Switch」「Steam」「Xbox」などのコンソールゲーム、有名コンテンツのブラウザゲーム、ブランドのホームページなどのインフラ環境の運用も手掛ける。さらに、Google CloudやAWS、Azure環境で運用していたシステムの他サービスへの移設も行う。角田氏も、日本や欧米リージョンで同時に25~30万人が接続する大規模なゲームサービスのインフラを担当しており、Google CloudやAWSで一部マルチクラウド的な使い方もしているという。ストレージにはCloud Storageを使い、BigQueryで大規模データの収集も可能にしている。
また、AWSを使った有名ブランドコンテンツのインフラも角田氏が管理しており、週に1回の人気記事が掲載される時には、通常の200〜300倍というトラフィックが集中する。そうした高負荷にも耐えられるよう、キャッシュやロードバランサーを活用し、負荷を分散している。インフラを最適な状態にチューニングすることは、ユーザー体験の質を担保する上で非常に重要であることは明らかであり、使命感をもって仕事に取り組んでいることがうかがえる。
知識ゼロからエンジニアとして活躍、角田氏の「無限ループ」勉強法とは?
grasysでは安定稼働のためのシステムインフラの設計・構築に加え、24時間365日の運用保守も実施している。そうした業務を遂行するうえで角田氏が必要と感じたスキルは、以下の4領域にまたがっているという。
- OS:チューニング、コマンドなど
- ミドルウェア:NGINX、Apache、proxy系、DB、Terraform、env系など
- ネットワーク
- クラウドサービス:Google Cloud、AWS、Azureなど
まったくの初心者だった角田氏が、どのようにしてこれらのスキルを身に着けていったのか。角田氏はその学習方法をスクリプトで次のように表現した。
まずはドキュメントや関連記事を読むなどして調べる。ある程度知識を入れたところで、仮説を立ててやってみる。さらに、わからない部分があればまた調べて、仮説を立て直してやってみる……というように、ひたすら触って、トライアンドエラーを繰り返す。
「これを無限ループで繰り返すと、いつしかそれっぽい形になる。また、それぞれで学んだことの点と点が線になるように結びつき、つながっていく。そしてある時、ハッと『こういうことだったんだ』と全体が見わたせる瞬間がやってくる」と角田氏は語り、「いつかは点がつながってくると信じて勉強を続けていった。ノリと勢いで飛び込んだ世界でもあり、知識を身に着けていく作業はとても辛いことがあるが、点と点がつながって世界を見渡せたときの爽快感は何ものにも代えがたい」と笑顔を見せた。
そしてインフラエンジニアについて、スキルを学び続けることと共に大変だと思われているのが、24時間365日の運用保守だろう。しかし、ずっと集中して働いているわけではなくアラートが来たら対応するのみで、さほど苦ではないという。実際、角田氏も子育てしながら働いており、「何かあったら対応する」スタイルでプライベートとの両立は十分にできると語る。
インフラエンジニアは自分を信じない? より快適に仕事をするためのマインドセット
さらに、インフラエンジニアが持っておくと良い知識として、角田氏はアプリケーション開発の知識を挙げた。このような知識があるインフラエンジニアは、顧客の状況や心情を把握しやすく、重宝される傾向にあるという。
またソフト面でも、インフラエンジニアに必要とされる素質として「知らないことや新しいことを調べようという気持ち」「アラートがきても動じない心」があればより快適に仕事ができると話す。
角田氏もインフラエンジニアになって間もない頃はアラートがきたら焦り緊張していた。しかし、危機感は大事とはいえ、冷静にアラートの内容を確認し、対処法を考えるほうが建設的だと考えるようになったという。そこに至るまでには、
- 経験を積み重ねていくこと
- 想像力
- 自分すら信じない
という3つの気づきがあったそうだ。
まず「①経験を積み重ねていくこと」について、角田氏は「エラーが起きた時に、どこに原因があるのかある程度あたりをつけることが大切。経験が役立つことが多いので、意識的に経験を積もうとすることが大事」と語る。また「②想像力」についても、さまざまな問題が起こる可能性を考え、事前にそれらに備えた構築・設計をする必要がある。「もし……」という想像から発想し、それが起きたときをイメージして先手を打っていくことが大切だ。さらに言えば、サービスの構成やネットワークの経路を把握できていなければイメージも膨らまないため、それらの知識も必要になってくる。
そして角田氏は、「③自分すら信じない」ことの重要性も強調する。「人が書いたシェルスクリプトはもちろん、自分が書いたスクリプトや設定についても構成から何から疑っている。たとえば、『実行して』と言われて、そのまま何も考えずに実行するのは危ない」と語り、「必ず実行される内容を自分で把握してから実行することが大切」と強調した。
ユーザー起点のクライアントワークから展望する、次のステップとは
インフラエンジニアとして働く中で、角田氏は「いろいろな分野の方と仕事をすることで、それぞれの業界の課題が見えてきた」と語る。確かにクラウドインフラ企業は比較的新しい業種で、クライアントワークも多い。業界を選ぶことなくいろんな分野の人と仕事ができることから、さまざまな領域の課題が見え、エンジニアとしての次のステップやキャリアの選択肢を意識することにもつながる。
「ユーザー起点で物事を考え顧客の成功を支援するというインフラエンジニアの仕事は、技術起点とはまた違った起点で自分のキャリアを考えられる。技術や環境だけで仕事を選んでいる方には、インフラエンジニアの仕事は新たな刺激があり、別の視点が得られることを知ってほしい。キャリアに悩んでいる方は何か糸口をつかめるのではないか」と角田氏は語る。
たとえば、自分が興味のある分野でSREやテクニカルアカウントマネージャーとして活躍するという選択肢もありうるだろう。また、Googleが数年前に発表したCRE(顧客信頼性エンジニアリング)という職種で、顧客をサポートし不安を取り除くという仕事もある。
また、grasysではクライアントワークに必須なスキルとして「しゃべれて作れるエンジニア」を標榜している。確かにクライアントに言われた通り作れば十分売り上げも立つが、その奥にいるユーザーの視点では、システムやインフラの品質がより高い、使いやすいサービスが求められる。grasysのエンジニアは、そうしたクライアントワークを極めていくという。
最後に、エンジニアの今後について、ChatGPTから答えをもらってコードの中身を理解しないまま仕事ができる時代への懸念を角田氏は話す。「理解しないままでは、問題に直面した時に思考停止に陥りがち。ChatGPTが出してくれるのはアイデアで、実際に手を動かして行動して初めて価値がでる。AIを賢く使いつつ、技術職であるエンジニアとして、自分で考え手を動かしながら、フットワーク軽くいろんなことに挑戦していきたい」と語った。
そして、Webサービスやネットワークが必須の存在となる中で、「なんとなく動いている」インフラが多いことも指摘した。「お客様のビジネスはもちろん、ユーザーの楽しさ・快適さを大切にしてインフラの品質を高めていきたい。もしインフラエンジニアに興味を持ってくれた人がいるなら、ぜひgrasysに問い合わせてほしい」と訴え、セッションを終えた。
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