いよいよ執筆! 技術書作家が「最初の一行」の書き方を直伝
企画が決まれば、いよいよ執筆を始める。執筆には、出版社から指定されることの多い「Microsoft Word」の他に、GitHubで管理しやすい「Markdown」や紙書籍・電子書籍制作ツールで利用できる「Re:VIEW」形式などが利用できる。佐々木氏は特に、商業出版ではMarkdown、技術同人誌ではRe:VIEW形式を推奨した。
また執筆の際には、最初の1行目を書くのに最も悩むそうだ。例えば、300ページの本を1冊書く場合、1ページあたり1000字として、30万字を執筆する必要がある。これは原稿用紙に換算すると750枚分に相当する分量だ。小学生の頃、真っ白な原稿用紙の前に座って頭を抱えた思い出が頭をよぎるだろう。
このような最初の1行への心理的負担を軽減するため、佐々木氏は、構成案のタイトルを執筆用のファイルにコピーしていると述べた。さらに、その章の概要もコピーして、書きたいことを箇条書きにする。これにより、白紙の状態から脱することができる。また、書きたい内容を箇条書きにすると、文章の流れが見えてくる。この流れが見えないときには、読者も同じように理解しにくい部分なので、目次レベルから内容を見直すと解説した。
佐々木氏によると、最近では執筆作業のサポートにChatGPTを活用することも増えているそうだ。ChatGPTに前提条件を提示すると、その内容に基づいた文章を生成してくれる。しかし、これらの文章には間違ったことや書きたいことと違う内容も多いので、対話をしながら修正を加えることで、自然とまとまった文章を仕上げることができる。なお、ChatGPTの文章を利用する際には、著作権などの問題もあるので、そのまま使わないように留意する必要があると注意を促した。
そして原稿の執筆が完了したら、次は校正だ。自分の文章を客観的に見るには、校正ツールの力を借りることが有効だ。例えば、「Textlint」や『WEB+DB PRESS』の編集者が作成した、用語統一のルールを参照できる通称「稲尾ツール」がおすすめだ。
また、校正にもChatGPTを活用することができる。佐々木氏は、「ChatGPTの校正能力はプロの編集者には敵わないものの、著者本人よりもうまく文章を校正してくれる」と語った。ただし、この場合もChatGPTに入力したデータをAIモデルの学習に利用させない、オプトアウトを考慮する必要がある。
本ができたら何をする?──なぜ著者みずから本を宣伝するのか
いよいよ本が完成したら、著者はどのような行動をとるべきだろうか。「出版社から明確に聞いたわけではないけれど」と断り、佐々木氏は出版社のビジネスモデルについて、初版部数を売り切ってようやく少しの利益が出る程度だと説明した。つまり、著者として技術書を書き続けたいのであれば、初版の部数を売り切り、増刷される本を作ることが重要だ。しかしながら佐々木氏の体感では、増刷される本は5割程度だという。
そのため、著者自身にも1冊でも多くの本を売るための努力が求められる。例えば、ブログで著書を紹介したり、SNSで何度も発信したりすることは、より多くの人に本の存在を知ってもらうのに有効だ。何度も宣伝を目にしてもらうことで、書店で本を見かけたときに手に取ってもらえる可能性が高まる。また、書店を訪問して著者自身がポップを書くなどの方法もある。佐々木氏はこれらの宣伝活動について、執筆にかける労力の10分の1ぐらいを費やす覚悟が必要だと語った。「宣伝活動はしつこいくらいでもいい」と言い切り、著者自身が読者へ本を届けるという意識を持つことで、本の売れ行きが変わってくると力強く語った。