Gmailの新たな規制、その目的と開発者への影響とは?
中井氏は、18年前に新卒で構造計画研究所にエンジニアとして入社して、システム開発に従事していた。クラウド技術が注目され始めた10年ほど前、新技術への関心から自ら情報収集やコミュニティ活動に積極的に参加していた。その頃、会社ではクラウド型メール配信サービス「SendGrid」の事業立ち上げプロジェクトが始まり、中井氏が担当者として選ばれた。
その後構造計画研究所は、2013年12月から日本でSendGridのリセラーパートナーとしてセールス、マーケティング、サポートを一手に担っており、中井氏はエバンジェリストとしても活動している。現在ではチームのマネジメントに注力しているが、技術的な背景を活かし、Gmailの新ガイドラインに関するセミナーで登壇するなどしている。
中井氏は、Gmailの新たなメール送信者向けガイドラインが定められた背景に、メール送信が依然として増加していることがあると指摘する。
メールアドレスは世界で最も普及しているデジタルIDであり、個人間のコミュニケーションはもとより、マーケティングツールとしての重要性が年々増している。その結果、スパムメールや標的型攻撃、ビジネスメール詐欺などの問題が深刻化し、今回のガイドラインが制定された。
「受信者を守るため、SPF、DKIM、DMARCなどの送信ドメイン認証の技術が進化してきました。Gmailのガイドラインの変更によって、日本でもこれらの技術の普及が進んでいるようです。また、日本ではまだあまり見られませんが正当な送信者からのメールには分かりやすくロゴを表示する「BIMI(Brand Indicators for Message Identification)」という仕組みもあり、業界全体でのセキュリティ強化の動きを感じています」(中井氏)
中井氏は、Googleのような影響力のあるプラットフォーマーが「対応しなければメールを受け取らない」という厳しい規制を行ったことを歓迎している。以前は、業界でのメール認証強化が「できればやった方がいい」という努力目標に過ぎなかったため、ユーザー保護の技術が普及せず、被害が拡大していた。
Gmailのガイドラインは、ただメールが届けば良いというわけではなく、「相手が望むメールのみを送るべき」という考えが元になっている。たとえそのメールが形式上適切であっても、望まれていないものは送ってはならない。送信事業者は迷惑メール率を0.1%以下に抑えるように努め、受信者による配信停止が容易にできる方法を用意する必要がある。
「送信者は明確なオプトインの取得に加え、その後も継続的に受信者の意向をウォッチしていく必要があります。たとえば、イベントに参加すると、スポンサーからのメールが頻繁に送られることがありますが、関心がない人や、関心がなくなってしまった人にも送られることも多いと思います。今後はそのようなメールは推奨されなくなるでしょう」
中井氏によると、最近のGmailなどのメールサービスでは、ユーザーが全く読まないメールが自動的に迷惑メールフォルダに分類されるようになっているという。
例えば、開封もせず、クリックもしないプロモーション目的などのメールは、最終的には迷惑メールフォルダに分類されてしまう。もちろん受信者が迷惑メール報告をした場合も同様である。そのため、受信者のエンゲージメントや迷惑メール率をモニターしていくことが重要だ。
Gmailの場合は、Google Postmaster Toolsを使って迷惑メール率を確認することが推奨されている。Yahoo!、Outlook、AOLなど一部のメールプロバイダには、送信したメールが迷惑メールとして報告されたことを通知してくれる「フィードバックループ」という仕組みがある。迷惑メールとの報告を受けた場合はその宛先への送信を停止しなければならない。
配信停止方法も分かりやすくする必要がある。配信停止にログインが必要だったり、「配信停止」という件名のメールを送信しなければならなかったりと複雑な手続きを要する場合、迷惑メール報告されるリスクが高まるからだ。新ガイドラインでは、そのような行為を避け、ワンクリックで容易に停止できることが求められている。
具体的にはRFC8058に従うことが求められており、設定することで受信者はGmailのインターフェースからワンクリックで解除要求ができるようになる。
「届いて当たり前」から「適切に届ける」への転換
実際に運用を開始してみたらメールが届かなかったという事例はすでに多く見られている。メールはユーザーとサービス提供者間の唯一のコミュニケーションチャネルであることも多く、届かなかった場合の被害は甚大だ。
開発者がメール送信機能を実装する際の注意点について中井氏は「送信ドメイン認証の設定だけでなく、メールアドレスの取得方法、適切なオプトイン、配信停止の仕組みの整備も重要です。最初は問題なくメールが届いたとしても、本番運用時にある日突然不達となるなどの問題が発生する可能性があります」と述べた。
Gmailに限らず、メール送信にはウォームアップが必要である。これは、クレジットカードの信用スコアのように、送信元のIPアドレスの信頼度を育てていくプロセスだ。
このようなプロセスが必要な理由は、悪意のあるメール送信者が突然大量にメールを送ることを防ぐためである。送信者が悪意を否定し、正当性を主張しても、本当にそのように振る舞うかはわからない。マナーや規制を守り、IPアドレスの信頼度を高める必要がある。もはや、メールサーバを立てたらすぐにメール送信が可能という時代ではなく、特に、多くのメールを送信したい場合は、それ相応の準備が必要であることは覚えておきたい。
メール送信の課題に常に寄り添う「SendGrid」とは
SendGridは、米国の3人の開発者によって創業されたスタートアップである。創業者たちはもともと別のウェブサービスを提供していたが、そのサービスが軌道に乗りメールの通数が急増したときにさまざまな困難を経験したことから、同じような課題を持つ開発者向けのメール送信サービスとしてSendGridを作った。
SendGridの特長は、巨大なインフラによる高速配信、豊富なAPI、各種ガイドラインや規制にもグローバル標準で対応していることである。そのため、開発者は送信数の増加やメール特有の問題を気にすることなく、本来のサービスの開発に注力することができる。
中井氏は「メルマガ送信に時間がかかってしまうので、SendGridの利用を始めたというお客様も多いです。現在は月に約1500億通、サイバーマンデーには1日に100億通を送信しています。小さなスタートアップから大企業に至るまで、数千通から数十億通という幅広い規模のお客様のニーズに対応しており、それがSendGridの大きな強みです」と説明した。
また、メールの開封やクリックを検知する機能、配信停止や迷惑メール報告のフィードバックを受けて管理する機能を備えている。配信停止や迷惑メール報告があったアドレスに対しては、送信しようとしてもSendGridが自動的に破棄する。機能は全てAPIでも提供されており、開発者は自由にメール送信や配信停止先のリストの取得ができる。
メール規制は、セキュリティおよびユーザー体験の向上が主眼だ。対応が面倒だからといってメールの利用をやめる動きはない。中井氏がSendGridに関わりはじめた頃は、メールの時代は終わりその他の技術に置き換わるのではないかという風潮があったが、デジタルIDとしての重要性や、多くの人にリーチできる手段としてその価値が見直され、メールの送信数はむしろ増え続けている。
「メールは読みたいときに読めます。領収書などもメールで送られ、履歴としても活用されています。メールの用途は多少変わっていますが、実質的な代替手段はなく、なくなることはないでしょう。そして、業界団体や私たちが新たな仕組みをつくることで、まだまだ進化していくでしょう」
SendGridは、ユーザーにとって便利な機能を継続して追加している。セキュリティやプライバシーの強化にも力を入れており、様々な地域で新たに定められる法規制にも迅速に対応している。安心と安全を提供するという意味で進化しているのだ。
構造計画研究所はSendGridのリセラーとして、日本市場への適合に配慮している。プロダクトの開発は全て米国で行われているが、日本の顧客向けのドキュメントの作成、マーケティングマテリアルの制作、サポートの仕組みはすべてオリジナルで展開している。日本円での請求書払いにも対応している。日本企業への手厚い支援が構造計画研究所の提供する価値となっているのだ。
「これらの対応は普通と思われるかもしれませんが、私たちには顧客体験を高めるためのこだわりがあります。例えば、問い合わせ対応ではお客様の困りごとを深く考え、単なる定型的な返答に留まらず、お客様のニーズに基づいた具体的な提案を行うよう心がけています」
サポート対応だけでなく、コミュニティやハッカソンなどのイベントに参加し、対外的な情報提供なども実施している。積極的な営業ではなく、困っている人に役立つ情報を提供することで、信頼を築いているのだ。
Gmailのガイドライン変更で注目を集めたメールの世界。メールが届かなくなって初めてメールの規制や作法のことを知った人は多い。メールは決して枯れた技術ではなく、多くのユーザーが求め、そのためにさまざまな技術がアップデートされている。インターネットやデジタルサービスに携わる開発者に向けて中井氏は最後に次のようにコメントした。
「メール技術がアップデートされていることに気づいていない人も多いですが、より便利で安全に利用できるよう日々進化しています。単にメールの送信リクエストを投げれば届くという時代はもう終わりました。これからは、誰に、どのようにメールを送り、どう関係性を築いていくか、というところまで考えていく必要があります。ビジネスにおいてメールはとても有用で、消費者に好まれるツールです。最新の知識を習得し続け、有効に活用してください」
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