1on1以前に意識したい、「伝え方」のポイント
目標を立てたあとは、いよいよ理想に向けて努力する。ZOE氏は再び育成者の姿勢へと話を戻し、知識などをレクチャーする際の伝え方について触れた。
「たとえ良いアドバイスでも、伝え方によってはカチンと来ることもある。気持ちの良いコミュニケーションを実現するために、僕は『ソーシャルスタイル理論』をヒントにしている」(ZOE氏)
ソーシャルスタイル理論は、「自分の意見をどれだけ主張するか」と「自分の感情をどれだけ表現するか」という2軸でパーソナリティを分類し、それに応じた伝え方を提案するものだ。たとえば成果にこだわる「ドライビング」タイプであれば結論ファーストで伝えることが重要であり、世話好きな「エミアブル」タイプであれば困りごとを感情的に訴えかける伝え方が効果的だ。
伝え方のポイントはまだある。ZOE氏は、育成者側から課題提示や知識・技術の共有を行う「ティーチング」と、成功・失敗要因を深堀りして課題を整理しつつ気づきを得る「コーチング」の違いを理解し、場面によって使い分けるべきだとした。
まずティーチングについては、「その領域をよく知らない初学者、たとえば未経験エンジニアや新入社員などに対して効果的」とのこと。ただしティーチングには、育成者が知らないことは教えられないという限界がある。そこで、ミドルからシニアのレンジでは、育成者も一緒になって課題に取り組み、学習者自身が新たな学びや気づきを得られるコーチングが求められるというわけだ。
またZOE氏によれば、ティーチング・コーチングのどちらでも、1on1での実践が最も効果的だ。実際に1on1をするときには、1週間の振り返りや最近気になっていることなどを書き込めるテンプレートを用いて進行するそうだ。
「学習者が書いてきたものを見て、自分自身で気づけた『良い学び』はすかさず褒めるといい。自分の場合は太字で強調して、『ここがいい』と伝えるようにしている」(ZOE氏)
1on1をしている中で、とりわけ「知らなかった」「気づいた」「できた/できなかった」というワードは重要だ。なぜなら、これらの言葉はマズローの提唱する5段階の「学びの壁」を認知したときに出る言葉だからだ。ZOE氏はこれまでの経験をもとに、「思わず出た言葉をヒントに、自分がどの壁にぶつかっているのかを意識することで、どういう勉強や練習をするべきか、気づけるようになっていく」と語る。
テンプレート以外にもコツがある。ZOE氏いわく、ティーチング目的の1on1では、以前に話した内容や、それと関連する事象を振り返りながら話すことが、学習の効果を高めてくれる。
一方でコーチングにおいては、1つの事例を汎用的な学びに転換するべく、
- 具体的な内容へ深堀りする「チャンクダウン」
- 目的の解像度を引き上げる「チャンクアップ」
- 他の事例で学びを活かす「スライド」
の3点を重視しているそうだ。
付け加えると、ティーチングやコーチングの1on1は、ペアプロ・ペアオペなどの振り返りの質を高めることにもつながる。未熟なエンジニアは振り返りが浅くなりがちだが、1on1の中で一緒に振り返りをしてメタ認知力を高めることにより、「振り返るスキル」自体も高まっていくのだ。
ただし、このように多面的な効果を得るためには、漫然と1on1をするだけでは不十分だ。ZOE氏自身は月1回の定期アンケートを通じて期待値と実績値のズレを把握し、1on1の質を改善していると話す。
「このときに大切なのは、中長期的な変化を見ること」とZOE氏。「誰しも人間なので、そのときの状況や感情などにより、瞬間的なネガティブ評価がつくことはある。それに振り回されず、あくまでも長い目で傾向を見ることが大切」
人が育つには、長い月日が必要なのだ。