戦略的にスキルポートフォリオを構築せよ
話題はいよいよキャリアへと移る。深澤氏は、AIによって「代替」されないエンジニアに必要なスキルセットとして、ドラッカーモデルを紹介した。
ドラッカーモデルは、オーストリアの経営学者であるピーター・ドラッカー氏が提唱した、ビジネスパーソンに必要なスキルを図で示したものだ。ビジネスパーソンをトップマネジメント(経営者層)、ミドルマネジメント(管理者層)、ロワーマネジメント(監督者層)、ナレッジワーカー(知的労働者)という4層に分類し、それぞれに必要とされる「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「マネジメントスキル」「コンセプチュアルスキル」という4つのスキルセットとそのウェイトが定義されている。
ドラッカーモデルによれば、階層が下になるほどテクニカルスキルのウェイトが重視される傾向があるが、ヒューマンスキルはどの層にも一定数必要であり、マネジメントスキルは上層になるほど重要な位置づけとなる。そして、どのビジネスパーソンにも共通するスキルとして縦に太く貫かれているのが、コンセプチュアルスキルだ。これは思考能力・俯瞰的視野・探求心・チャレンジ精神などの「本質にアプローチする」スキルであり、ロールを問わず我々に求められる資質だという。
深澤氏によれば、エンジニア自身が考える理想的なスキルセットと、経営者が求めるそれは乖離していることも少なくないそうだ。「多くのエンジニアは、テクニカルスキルを磨くことに注力しがちです。自分自身もかつてはテクニカルスキル一本でキャリアを構築していきたい思いがありました。しかし実際のところ、経営者層はエンジニアのテクニカル以外の部分に注目しており、コミュニケーションやマネジメント、報連相といった、いわば『当たり前』ともいうべきことを高く評価しています」。
「経営者としてはここに大きなギャップを感じる」と言う深澤氏だが、GPTの登場で技術が陳腐化する時代にあっては、よほどの天才エンジニアでない限りテクニカルスキルのみに傾倒するのは危険だと警鐘を鳴らす。ヒューマンスキル、マネジメントスキルにも目を向けながら、組み替えやすく幅広いスキルポートフォリオを構築していくといいという。
さらに深澤氏は、「ビジネスにおけるエンジニアリングの本質とは、課題解決」と前置きしたうえで、「生成AI時代を見据えるなら、エンジニアリングをプログラム的、開発的なものと捉えるのではなく、もっと大きな視点で『この課題に対し、技術を使ってどうアプローチするか』を考えるべきです」と強調する。
深澤氏によれば、活躍しているエンジニアの特徴は、テクニカルスキルはもちろん、ヒューマンスキルやマネジメントスキル、コンセプチュアルスキルのバランスが良いことだという。自身が取り組む業務から課題を抽出し、技術的に解決するための方法を考え、ときには誰かに伝えながら実行できるからこそ、第一線で活躍できるというわけだ。
「4つのスキルをバランスよく備えていればいるほど、エンジニアとしての市場価値は高まっていくと思います。そこへ意思決定能力が加われば、技術的にやりがいのある課題がおのずと集まってきて、成果も出しやすくなります」。
変化の激しい現代にあっては、エンジニアとして評価されるための指標もまた、変わることを免れえない。学びあるセッションを締めくくるにあたり、深澤氏からは「初めからすべてやろうとするのではなく、先入観なくいろいろなことにチャレンジするなかで、思わぬ知見や他者理解を深めていくと良いです。大切なのはオープンマインド」との激励が飛んだ。