ユーザーが持つ「答え」にコミットするMVP開発
こうしてWAKE Career(旧Waveleap)は、資金調達から1か月半でMVPをリリースするに至った。短期間でのローンチについて、咸氏は「本質的に検証しなければいけない機能だけをリリースする覚悟」が必要だと語る。
一般にMVPとは、何を検証したいのか・何を解決したいのかを決定し、そこを実現できるだけの機能を最低限実装することを指す。WAKE Career(旧Waveleap)においては、以下の通りだ。
検証したいこと | 機能 | |
---|---|---|
(1) | 企業は自社の情報を入力することにハードルを感じないか? | サステナブル職場診断 |
(2) | 求職者は企業のサステナブル情報に興味を示すか? | アイコンによる企業環境の可視化 |
(3) | (1)(2)の情報で求人媒体として機能するか? | 応募の仕組み |
「この3機能さえあればリリースできると判断した」という咸氏。なお、プロダクトなしで契約した26社には、正式リリース前からWAKE Career(旧Waveleap)を実用してもらうため、Googleフォームとスプレッドシートで開発した簡易版の「サステナブル職場診断」を導入してもらった。
簡易版とはいえ、フォームに入力された情報をGASでデータ化し、担当者はデータを基に面談するだけという所まで自動化。リリース後はSupabaseを利用して溜まったデータを手動でインサートする仕組みを採った。ここにも、「作らなくていいものは作らない」という咸氏の哲学が反映されている。
ここで、プロダクト開発においては、エンジニア側の「この機能は絶対に必要に違いない」という思いや願いは捨てることが大事だと語る咸氏。「答えはユーザーが持っている」という意識のもと、ユーザー側がどんな機能を欲しているか(インサイト)について考えることが肝要だと咸氏は強調する。
こうした取り組みを通じて、「思ったよりも私たちのミッション・ビジョンに共感して、サステナブル職場診断を受けてくれる企業が多いことが分かった」と咸氏は語る。「思いだけが先行しても課題解決にはつながらない。ときには今の日本の企業の環境に合わせてアプローチを変えながら、着実に一歩を進めていくことが大切だった」と学びを共有した。
続いて、咸氏は「事業と開発スピードのバランス」について語った。両者のバランスが崩壊するとエンジニアとビジネスユニットが対立しがちだが、CTOとして両サイドの視点を持つ咸氏は、この対立について「事業・技術・組織のバランス認識のズレ」が根本にあると説明する。
「事業・技術・組織のバランスは、会社の置かれているフェーズや状況によって変動するものだ。たとえばシード期は、そもそも事業の検証中であり、ピボットの可能性も高い。なおかつプロダクトが鳴かず飛ばずの場合、新たなプロダクトを立ち上げて数字を出し、会社を成長させなければ明日はない。したがって、おのずと『事業』が第一優先になる」(咸氏)。
一方でPMFを控えたアーリー期においては、依然として数字が大事なフェーズではあるものの、プロダクトの健全性なども考えなければスケールできないフェーズになってくる。そのため「技術」へ注力する割合が増えることになる。レイターは言わずもがなで、各点をバランス良く保たなければならない。
技術を専門とするエンジニアは、どうしても「技術」を最優先に考えがちだ。一方でビジネスサイドは「事業」ベースで行動することになる。こうした傾向を認識したうえで、「今はどのようなフェーズであり、それぞれのウェイトがどうあるべきかをチーム内で擦り合わせるべきだ」と咸氏は語る。これまでの歩みを振り返り、「ビジネスサイドと開発サイドを絶対分断しちゃいけない。みんなでプロダクトを作るのがすごく重要だ」とまとめた。