学びの根本は面白さ、挫折しにくい学習設計とは
PFNは、AI関連技術の研究開発・社会実装を手掛ける企業。AIチップから計算基盤、生成AI・基盤モデルまでを自社で手掛け、その技術や知見を生かし、幅広い領域でソリューションを提供している。斎藤氏はPFNに入社して7年ほどで現在は教育部門に所属している。ジクタスをはじめ、子ども向けのプログラミング教材「Playgram(プレイグラム)」を開発するチームだ。また、10年ほど前から本の執筆をしており、20万部を突破したディープラーニング入門書『ゼロから作るDeep Learning』シリーズ(オライリージャパン)の著者でもある。
「教育や学びの根本には面白さや楽しさがあると考えています。表面的な説明を聞くだけでなく、自ら手を動かして試行錯誤することで、物事の見方が変わる可能性があります。普段何気なく使っているものでも、その内部に触れてみることで、より深い理解が得られるのです」(斎藤氏、以下同)
近年テクノロジーの話題の中心になっているAIを活用できる人材とはどのような人なのだろうか。斎藤氏は、AIに限らず急速に進化する新技術に触れ、自ら試してみることが重要で、その機能や可能性を知ることで視野を広げられるという。ただし、これらの技術はあくまでツールなので、それらをどう使いこなすかが重要となる。
「ジクタス」は、未経験者や初心者がDXに必要なスキルと思考法を習得できるeラーニング型の学習教材だ。知識のインプットだけでなく、プログラミングを基礎から学べるコースも含まれている。プログラミングのための環境を用意する必要はなく、Webブラウザ上で完結するため、気軽にプログラミングや新技術の学習を始められる。
教材ラインナップは企業のニーズが集中する3領域をカバーしている。Pythonの基礎文法からはじめ、統計分析を行うための専門的知識を取得していく「Python+データ分析コース」、プログラミング初心者向けにJavaのコーディングとコンピュータの基礎知識をパッケージングした「Java開発コース」、生成AIの基礎からLLMを用いたアプリケーション開発までを学ぶ「LLMアプリケーション開発コース」がある(※一部教材は現在開発中)。
ジクタスの特長は手を動かしながら学べること。動画やテキスト等の解説コンテンツとコーディング練習が交互に配置されており、最小単位で「学習」と「実践」を繰り返していく。
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挫折を防ぐカギは、生成AIを活用したヒント&チャット機能
斎藤氏が教材制作の際に重視しているのは、日々継続して学習できること。ジクタスにはそのためのさまざまな工夫が施されている。
その一つが生成AIを用いたヒント機能だ。eラーニング型の教材では、コードを書いてエラーが起きたり、回答が誤りだったりしたとき、原因を自分で見つけるのが難しいことがある。何度もエラーが起きてしまうとそこから先に進めなくなってしまい、学びが止まってしまう。そこでジクタスには、学習者が書いたコードが誤っていたとき、どのように修正すればよいのかヒントを出してくれる機能を実装した。
コードに間違いがあったときは「ヒント」ボタンを押すと、その間違いに対して具体的な解説を提示する。ヒントには生成AIが活用されており、学習者のミスに応じたヒントが得られる。これを基に問題を解き直し、正解したら次の課題に進む。
また、生成AIの利用を前提としたプログラミングに慣れることもできる。ジクタスの学習画面にはChatGPTを用いたチャットウィンドウが設けられており、プロンプトエンジニアリングや不明点の質問を気軽に行える。生成AIのサポートを借りながら素早く答えにたどり着くという姿勢を、自然と身に着けることができるのだ。このように、参加のハードルを下げて失敗を繰り返しながら答えを見つけ出すサイクルが身につくようになっている。
「従来のeラーニング環境では、学習者が孤独になりがちです。一方で講師による対面式研修の場合、研修期間を定めて大勢の社員を一度に集める必要があり、日々の業務に支障が出てしまうという問題がありました。ジクタスなら、実践的な学習機会とヒント機能で自立的な学びを支援し、すき間時間や業務の合間にも学習可能です。これにより、学習者と企業、双方の課題を解決したいと考えています」
研修担当者向けの学習管理システムも整備されている。LMSで社員一人ひとりの進捗状況・成績状況を可視化できるので、学習効果を見ながら研修を進められる。
また斎藤氏らジクタス開発チームのメンバーは、生成AIを活用した教材の機能改善も絶えず行なっている。斎藤氏はジクタスのAIによる支援をさらに発展させたいと考えており、次のようにコメントした。
「生徒の隣にAI教師がいて、画面を一緒に見ながら教えてくれるようなものが作りたいと考えています。従来の学校教育では、教師一人に対して多くの生徒がいる状況が一般的でした。生成AIの活用によって、個別に学びをサポートする可能性が広がると考えています」
合わせて改良を進めているのが、学習者がスムーズに学習を開始し、モチベーションを維持する仕掛けづくりだ。PFNの社員がオンボーディングのプロセスをより積極的に支援する、学びの内容を振り返るミーティングを提供するといったサポートを検討しているという。
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プログラム未経験者への提供や、講義・ワークショップの展開実績も
PFNがコンピュータサイエンス教育事業に参入したきっかけは、代表取締役CEOの西川徹氏の想いだった。斎藤氏によると、西川氏は自身の子供がプログラミングを学ぶ様子を見て「プログラミングの楽しさを実感しながら学べる教材を提供したい」と考え、教育事業に着手した。
そして法人向け教育事業に注力する背景には、日本企業の人材育成に関する課題がある。特にIT・デジタル領域ではエンジニア不足が長年の問題となっている。
PFNはこうした企業のニーズに応えるべく、教育事業を通じて人材育成と技術活用の両面からサポートを行っている。斎藤氏は、従来のエンジニア育成の課題について「学ぶ過程で面白さや楽しさを感じにくいのではないか」と投げかける。効果的な育成のためには、「こんなことができて楽しい」といった実感を得られることが重要であり、その感情が人材育成の効果的な推進力になるというのだ。
ジクタスには、プログラミング未経験者が楽しみながら学べる教材が多数存在する。例えば、プログラミングの基礎をパズル感覚で学べる「Playgram for Professionals」だ。これは子ども向けのPlaygramを応用したもので、ビジュアルプログラミングから始め、段階的にテキストでのコーディングへステップアップする。
ブロックを動かして学ぶ形式で、いきなりコードを書くのではなく、手を動かしながら学ぶことで挫折しにくい設計になっている。「これならできる」と思えるところから始めて、徐々にプログラミングの面白さを感じながらスキルを身につけられる。
このようなジクタスの活用に向いているのは、ITエンジニア不足に悩む企業だ。特に多くの新人・中途採用者を抱えるSlerやSESで導入が始まっている。また、ハードウェア系エンジニアはいるものの、ソフトウェア事業への展開も必要な製造業などでのリスキリング需要にも合致している。
たとえば、国内トップクラスの売上・取引企業数を誇るエンジニアリングアウトソーシング企業では、ハードウェアエンジニアに、製造業のDXに対応できるスキルや思考力を身に着けてもらうために、2022年よりジクタスを活用している。PFNではジクタスの教材提供のほかAIのトレンドに関する情報提供やDX戦略策定の支援も行った。
同社の受講者は日頃の業務と並行して勉強している人がほとんどであった。 そのため、ジクタスのスモールステップで手を動かして学べる点が、まとまった時間が確保できずとも、プログラミング的思考を身につけたい同社のニーズに合致していた。挙手性で受講者を募集したにも関わらず合計90人が集まり、受講者からは「Pythonやデータ分析の概略、それが生み出す価値について理解が進んだ」との回答が得られる結果となった。
またジクタスの開発チームは、企業からの要望に応じた講義やワークショップも提供している。たとえば日立グループの人財育成を担う日立アカデミーと一緒となり、生成AIの全体像に関する講義を実施した。講義には600人以上が参加し「有名な著者の解説ということもあり、Deep Learningの実装上の作りが非常にわかりやすかった」「踏み込んだ内容の説明が聞けてよかった」といったフィードバックを得た。
実践的なワークショップとしては、ある大手SIerに深層学習のハンズオン研修を提供した事例がある。同研修では隔週2時間で講義と実習を行い、「ディープラーニングの能力を説明できる」と答えた比率が増加するなど、メンバーの知見の底上げをすることができた。
斎藤氏は「さまざまな事業を展開するチームとの連携により得られた知見やトレンドを、素早くコンテンツに反映できるのが弊社の強みです。何をどのように学ぶのかを考えるフェーズからご一緒させていただきますので、まずはお気軽に相談していただきたいです」と話した。
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