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キーパーソンインタビュー

AIや統計の数式を解説する美少女VTuber「AIcia Solid Project」生みの親が語る、継続できるアウトプット活動とは?

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「美少女になってみたかった」とアバターを作ってみたら

 金髪ロングヘアのアバターを採用しているところもAIcia Solid Projectの大きな特徴だ。VTuberについて少し振り返ると、VTuberのパイオニアとして知られる「キズナアイ」の最初の投稿が2016年11月末。ただし初期はUnityや3Dソフトが必要で、技術的なハードルがあった。

 そうした中、2018年4月にソーシャルVRサービスとなるバーチャルキャストが提供開始となった。これに目を付けた杉山氏は「とりあえず気楽に美少女になってみよう」と試したことからAIcia Solid Projectにつながった。

 バーチャルキャストを知る人なら分かると思うが、初代アイシアのアバターは、バーチャルキャストにデフォルトで付属するアバターを少し改変したものだ。杉山氏は赤いフレームのメガネが知的に見えて気に入っているそうだ。初代は黒いガウンに赤い鉛筆だったが、2023年末から2代目に生まれ変わっている。

 2代目のママ(デザイン)は「ばんちょう」さん、パパ(モデリング)は「キツネツキ」さん。色合いは維持したものの、見た目は初代から大きく変更し、より洗練された装いで、指し棒を持つデザインに変更された。状況により、ネコの耳やシッポもつけることもできる。杉山氏は「超尊敬している人達に打診したら、快諾してもらえた」と嬉しそうに話す。

AIcia Solid
AIcia Solid

 VTuberとしてのスタイルは、この動画チャンネルの成功に大きく寄与した。というのも、アバターを利用することで制作作業の心理的な負担が大きく減ったそうだ。

 これまでも杉山氏は何度かYouTubeチャンネルに挑戦したが、うまく続かなかったという。恐らくテーマやタイミングなどいろんな理由があったとは思うが、自分が写っている動画を編集することが心理的な負担の1つになっていた。

 自分の写真や動画を見るだけでも抵抗ある人は少なくないのに、さらに編集までするとなるとかなりつらい。慣れれば乗り越えられるのかもしれないが、杉山氏にとってはそれが苦痛だった。そのため見た目だけでも自分自身ではなくアバターにすることで、かなり心理的に楽になり、次々と動画を生み出せることに繋がった。

 2018年の早い段階でVRを始めたことで、貴重な仲間を得ることにもつながった。VRを黎明期からやっている人たちは、杉山氏から見たら高い技術力を持ち、尊敬できる人が多い。「そういう人たちと対等に会話ができる人間であり続けたい」という思いが活動を続ける動機にもなっている。

配信を継続させるための原動力とは?

 動画制作は、杉山氏が企画構成、脚本、出演と大部分を担い、もう1人のメンバーが動画編集を担当する2名体制で行っている。また、もう1人もデータのプロフェッショナルであるため、大きな方針は2人で決めて進んでいるという。2名体制で行うことで、杉山氏にとって苦痛となる編集作業を任せることができるうえ、「動画素材を待っている人がいる」ことが継続の要因にもなっているという。

 杉山氏が制作作業に費やすのは日曜日。午前中に調査と台本書きまで行い、午後は撮影をする。6年半ほど続ける中で、このリズムに落ち着いている。

 動画の準備は、特に綿密に行っているという。論文紹介の動画では、関連論文なども含め5〜6時間ほどかけて熟読する。動画撮影でも、一度リハーサルして改善点をチェックし、その上で本番の撮影に臨む。

 20分の動画なら、動画素材は60分ほどになる。板書している部分を早回しにしたり、言い直しをカットしたりするためだ。そのため、リハーサルも含めると、撮影にかける時間は20分の動画なら2〜3時間、40分の動画なら5〜6時間になる。日曜がまるまる潰れるのもわかる。

 しかし杉山氏にとって、動画撮影には苦行の側面もある。毎週、開始前に「ああ面倒くさい。イヤだなあ」と思うそうだ。その対策として、気合を入れるために甘いものを買いこむ。甘いものは好きなので食べてしまう。そして「食べちゃったからな!ここで動画を作らないとただ太るだけだ」と自分を追い込んで制作に励むのだそうだ。「だからこの動画は、コーラとシュークリームで出来ています」と杉山氏は笑う。

 しかし、辛いことだけではない。杉山氏は「楽しいこともいっぱいあります。一番はいろんな人と知り合えることと、人の役に立っていること」と言う。動画を通じて「あの動画を作っている方ですね!」と感謝されたり、ためになる話が聞けたりする。よく「情報は発信する人に集まる」と言われるが、まさにその通りだ。

 動画には幅広い層から多くのコメントが寄せられている。基本的には全て杉山氏がコメントを返している。多くは現在AIや統計を勉強中の若い世代からだが、中にはかつてAIを学んだことがある世代から人生の重みを感じるような深いコメントも寄せられている。

 杉山氏にとって、活動の大きな動機の1つが「日本に貢献したい」という気持ちだ。杉山氏は「すごく雑に言うと、高度成長期の日本はめちゃめちゃすごかったのに、ここ30年は失われた時代と言われてしまっている。ここからさらに失われた時代を延長するのか、復活劇にするかは自分や次の世代にかかっているから、ここで何か良くしていきたい。その中でデータはいいテーマになる」と話す。

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継続のコツは「合わなければすぐやめてもいい」

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この記事の著者

加山 恵美(カヤマ エミ)

フリーランスライター。茨城大学理学部卒。金融機関のシステム子会社でシステムエンジニアを経験した後にIT系のライターとして独立。エンジニア視点で記事を提供していきたい。EnterpriseZine/DB Onlineの取材・記事や、EnterpriseZine/Security Onlineキュレーターも担当しています。Webサイト:http://emiekayama.net

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CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

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