生成AI活用の全社的な浸透を目指し、4段階による普及活動を実施
スムーズな導入がかなったように見えるが、生成AIは導入すれば必ずしも普及するとは限らない。寺尾氏は「導入と普及は全く異なる課題。技術を導入しても、組織全体に定着するまでにはさらなる取り組みが必要だった」と語る。
実際、基盤導入4か月後のAIの利用率は、開発部門で7割程度だったにも関わらず、フロント部門では2割程度と大変低かった。さらに使われ方を分析したところ、開発部門ではコーディングなどのコア領域で活用が進んでいたのに対し、フロント部門では文章の推敲や壁打ちなど個人的かつ限定的な活用にとどまっていた。そこで、フロント部門への生成AIの普及・活用を推進するため、さまざまな施策を行なった。寺尾氏は「4段階のステップが効果的だった」と振り返る。

第一ステップとしては「AIに触って慣れる」ことを重視し、トップダウンでのアカウント取得・利用促進や入社時研修などを実施。「よくわからない」「忙しくて覚えられない」など、新しい技術に対する心理的ハードルを外すことに有効だった。結果、多くの社員が気軽に生成AIを触るようになった。
次に「業務への活用イメージができない」という層に対して「特定のユースケースでの活用」を紹介し、ボトムアップでの利用促進を実施した。具体的には、全社イベントや、部署内でのワークショップなどを実施。これにより生成AIの可能性を業務に生かす具体的なイメージを持てるようになり、活用の幅を広げることができた。
ただ、実際に業務に生成AIを使いだすと、今度はAIの精度の低さやハルシネーションが気になりだす。そこで、「非コア業務の生成AI委託」として、業務の段階的な自動化を実施した。業務をステップに分解し、その中で、習熟度テストやFAQ作成業務など、AIに適した部分から活用することを推奨した。なお、このときにはマニュアルや資料などから生成AIに多くの候補を出させてから、人が適切なものを選ぶという"ハイブリッドなアプローチ"を採用している。
また、「人事の問い合わせ回答にAIを活用する」という事例においては、ハルシネーションのリスクを回避するため、まずは生成AIに情報の信頼度を自己評価させ、「自信がない」という回答の場合は改めて人事担当者に確認することをルールとした。
そして「コア業務での生成AI活用」においては、「生成AIとのシームレスなコンテキストの共有」が課題だった。基本的に生成AIはインターネット上の情報をベースに学習しており、社内のクローズドな知識は反映されていない。そのため生成AIとの壁打ちの際には、業務についてゼロから生成AIに説明する必要があった。そこで利用状況を分析し、ヘビーユーザーへのインタビューから実践的な活用アイデアを探った。実際には、インタビューからの仮説をもとに各部署での業務知識をマークダウンして整備するという活動を推進。この取り組みにより、生成AIと人間がより効果的に共創できる環境が出来上がりつつあるという。
これらの取り組みの結果、生成AIのフロント部門への普及は、2024年2月から12月までの10か月で2割から4割へと増加し、幅広い分野で生成AIが活用されるようになってきている。また、部門ユーザーの反応も、「『WeiseHub』のコード作成支援でGoogle Colabを使ったデータ分析ができた」(人事)「上長から勧められて『WeiseHub』を使うようになったが便利さを実感している」(営業)など前向きな声が増えたという。

施策を振り返り、寺尾氏は「社内に生成AIを導入しただけでは、開発部門以外には浸透しない。新しい技術に対するハードル、具体的な業務活用イメージが湧かない、精度が低い、業務知識を知らないなどのさまざまな問題がある。それに対する改善策として、トップダウンとボトムアップによる利用促進や、ユーザーヒアリングに基づくナレッジの整備など、継続的な取り組みが必要」と繰り返して強調した。