適材適所なツールの選択と「ツールチェーン」の構築
こうした方針に基づき、まず同社の動的テストツール「DTシリーズ」の開発における機能安全準拠開発プロセスの構築を行った。その結果、2016年に発売した「DT10AE」、2021年に発売した「DT+FS」ともにISO 26262のツール認証を無事取得することができた。
次にこの認証取得の活動で得られたノウハウを生かして、すべてのプロジェクトに適応する全社標準の開発プロセスを新たに構築した。全ての開発フェーズの規定を作成するとともに、ガイドラインやテンプレートの整備、要件からテストまでのトレーサビリティの確保、リリース後のカスタマー対応規定の策定などの施策を矢継ぎ早に打っていった。
またプロジェクトの適性に応じて、これらのルールを適切にカスタマイズして運用できる仕組みも整備した。さらには、「EPG(エンジニアリングプロセスグループ)」という品質保証チームも新たに設置した。同社には品質保証を担う専門部署がないため、各部署から持ち回りでEPGメンバーを選出し、メンバー間が相互監視を行うことで自然と品質が担保される仕組みを構築した。
開発支援ツールの導入については、「CMMI(Capability Maturity Model Integration:能力成熟度モデル統合)」を参考に、「プロジェクトマネジメント」「エンジニアリング」「サポート」「プロセス管理」という4つのカテゴリーごとにツールを選定し、それらを連携させることでツールチェーンを構築した。
実際に採用されたツールは極めて多岐にわたった。一例を挙げると、情報共有ツールとして「Confluence」「Notion」、プロジェクトマネジメントツールの「Lychee Redmine」、構成管理・バージョン管理ツールの「GitLab」などを次々と導入した。さらに要求分析の用途には「XMind」、UI/UX設計には「Figma」、静的解析ツールの「Klocwork」「Axivion Suite」、CI/CDツールの「Jenkins」など、業界で広く使われているツールを積極的に採用した。
こうしたツールの選定・導入時に留意すべき点として、新井氏は「SaaSの無料ツールはどうしてもワンオフになりやすいため、有償ツールの活用をお勧めします。またツールの管理や運用促進、導入サポートなどを一元的に行う『ツール管理委員会』という組織を社内に設置することで、ツールの導入がスムーズに運びます」と述べる。

最後に本講演の締めくくりとして、新井氏は「木こりのジレンマ」について言及した。斧が切れなくなっても「時間がないから」といつまでも斧を研ごうとしない木こりのように、開発プロセスが望ましくない状況にありながら新たな施策を取り入れようとしなければ、「不具合多発」や「炎上頻発」の状況はいつまで経っても改善しない。
「このような『木こりのジレンマ』の状況に陥ってしまう背景には、認知バイアスがあります。それを打破するためには、まずは現在の悪い状態をしっかり自覚して受け入れ、いったん立ち止まって足元を見直して、さらにこれまでの動きを振り返って状況を改善するための具体的な方法を考えていくことが重要です」(新井氏)
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